第2話
「まあ、こんなものでいいか」
「これでいいと思います。どうせ、誰も読まないんだし」
編集会議なんて大層な名前を付けたが、十五ページほどの部誌なんて、三人で適当に文章を書いて、それで終わりだ。表紙のデザインは既に決まっていたため、議題は掲載順だけだった。先輩・山城・俺の順に決まり、会議は終わった。
「まさか三分で決まるとはな。手持無沙汰になってしまったな」
「もう帰りましょうよ。これから更に暑くなるみたいですし、長居したら山城にも迷惑ですよ」
「私は、皆さんと少しお喋りしたいです。こんな機会、滅多にないですし」
そうなのだ。部活で俺たち三人が集まることは、殆どないのだ。先輩は、部長なのに剣道部との兼部のため、文芸部にはあまり顔を出さない。俺も部活をサボりがちなため、三人しかいないのに、部員が集まることは殆どないのだ。山城は律義に一人で部活動を遂行しているらしい。少し、申し訳ない。
「お喋りか。それはいいな。これから二人が仲良くしていくためにも、互いを知るのは良いことだしな」
確かに、そうだ。俺と山城は、交際関係にあるとはいえ、お互いのことを、何も知らない。知っているのは、名前くらいだ。性別も怪しい。これは冗談だが。
「では、私から話そうか。話すといっても、これはスピーチではないからな。相槌を打つより、明確なレスポンスが欲しいところだ」
「任せてください。俺は聞き上手なんです」
取調官とかに向いてそう、と言われるくらいには、聞き上手なのだ。
「そうか。それは頼もしいな。では、始めよう」
「私は、十月に退学する。これは、この前説明した通りだ」
そう。先輩は、家業を継ぐために、十月に高校を去るのだ。
「しかし、先の説明には、間違いがある。それは、退学の理由だ。家業を継ぐのは本当のことだが、もう一つ理由があるんだ」
「もう一つの理由、ですか」
山城が、可愛らしく首を傾げる。こういった細かな動作さえ愛おしく思えてしまうのは、恋人だからなのだろうか。それとも。
「当ててもいいですか?」
「いいぞ。もっとも、それほど珍しい理由ではないので、当てるのは簡単だろうがな」
「結婚、ですか?」
怪しげな微笑を浮べながら、そう問いかける山城。先輩の退学の理由なんてどうでもいいが、山城の嗜虐的ともとれる一面が見られたのは、大きな収穫だ。ナイス、先輩。
「以前から思っていたことなんだが、山城、お前本当は私のことが嫌いなんじゃないのか?」
先輩は、自嘲的な笑みを浮かべた。
「その通り。結婚だよ。私は、会ったこともない男と、三ヶ月後に結婚するんだ」
夏を閉じ込めたガラスケース 夕凪 @Yuniunagi
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