第7話
「何だ魔力も知らねえのか。俺たち人間も持ってるぞ。度合いは人それぞれだがな。にしても、全く何ならわかるってんだ?」
俺は一瞬考え。
「んーPCで言えばエクセルのVBはいけるな」
そのまま仕事で出来ることを答えてみた。
ヒデヲはキョトンとするが、すぐ笑って返してくる。
「だっはっはっ、そいつはなんの呪文だ?」
「うちがばーんと吹き飛んじまうようなやつか」
ヒデヲが酒を煽り、大仰にジェスチャーをしながら表情をコロコロ変える。
「ばーん! うちがばーん!」
メアも一緒にジェスチャーをマネてはしゃぎ始めた。
「ほうら、メア。しゃべりながら食べないの、落ち着いて食べましょうね」
「んふふー、はぁーい」
チヨが腰を浮かせて向かいのメアの口元を拭く、メアは食事を再開した。
見ていて穏やかな家庭だ。
とりあえず、色々教えてもらおう。
「すまん、実は名前以外に何も覚えちゃいないんだ。」
「ここはどこで? 俺は何者だ?」
「”ここはどこ俺は何者だ”とは傑作だなケンジ! ここはローン村だ。小さな村だから皆顔なじみだ、だがもちろん俺はケンジを知らないぞ」
ヒデヲは愉快そうに笑う。
酒が入る前からご機嫌のようだったし、陽気な性格が見て取れる。
ローン村、ね。覚えたぞ。
「小さな村だが安心しろ。モンスターが入ってこないように結界が張ってあるからな。ここのは強力だぞ! 一度もモンスターに荒らされたことはないからな」
「ちなみに結界は魔力を持っていると通れない、だから人間も入る時は出入口の関所を通るってわけだ」
「モンスターってのは、そんなに危険なものなのか?」
「ああ。普通の人間じゃ弱っちいモンスターでも襲われると危険だ。種類にもよるが、真っ向から戦ったらまず殺されるぞ。ま、村の中なら安全だからそう深刻に考える事でもないぞ」
「色んな種類がいるのか?」
「勿論だ。スライム、ウルフ、ベアー、グレムリン……他にも沢山だ。風のうわさでしか聞いたことはないが、ドラゴンとかっていう翼を持った火を吐く巨大なモンスターとかもいるらしい。こんな辺境の地では信じられない話だがな」
マジでファンタジーな世界にきたようだな。よくある異世界転移?この場合転生ってことになるのか。
少しおどけたように怖がる素振りを見せながら、
ヒデヲは目の前に並ぶ肉料理をつまむ。
「この肉は、モンスターのじゃないのか?」
「違う。モンスターの肉は食ったら数日は動けないぐらい調子が悪くなるらしい。それは村で飼育している家畜の肉だ」
どうやら人間以外の生物=モンスターというわけでは無いようだ。
「それと、モンスターのなかには魔王っていうとんでもないのがいるらしい。強いモンスターを何匹も従えているんだと。つっても全部人伝に聞いたことしかねえから、ほんとなのかは……わからねえけどな」
ぐいっと酒を煽るヒデヲのグラスを持つ手に力がこもっている。
目つきも、直前までと違ってグラスを射殺さんばかりに睨んでいる。
先ほどまでの陽気な表情とは一変だ。
「ヒデヲさん、顔がおっかないことになってますよ」
「ああ……あぁすまねえチヨ、ケンジ。嫌なことを思い出しちまってよ。」
「チヨ、もう一杯くれ」
「はいはい」
「ありがとさん」
チヨが丁寧にお酌すると、殺気立ったヒデヲも落ち着いた様だ。
「それでケンジ。お前さん、これからどうするよ?」
「どうするとは?」
自分で訊き返しておいてなんだが、そういえば俺はこれからどうすりゃいい?
普通に生活しようにも、何もないんだった。ノープラン。絶、望。
「当てが無いなら、しばらくうちにいてもいいぞ」
え、それマジか?
「え、それマジか?」
「おお、マジだ。さっきまで寝てた部屋あんだろ? 前は倅が使ってたんだが今は使ってない部屋だから自由に使ってくれていいさ。ほら、マブダチだろ。」
と、グラスを掲げてくる。
なんともありがたい提案だ。俺はしきりにうなずいておく。
「それじゃあ是非。しばらく厄介になる」
「おうよ。さあ、そうと決まりゃほら、食え食え! 全然食べてねぇじゃないか、もったいねえぞ美味いんだからよ。チヨの料理が冷めちまうぜ。がっつけがっつけ」
ヒデヲは食事を促しつつ肉を口に運ぶ。
「ん!んまいー!」
確かに脂も乗って美味しそうだ。
「あっ、ああ、じゃあ改めて、いただきます」
食材、食文化はどうやら同じようなものだな。白いご飯もあるしいくつか判別困難な料理はあるが、おそらく俺が食に疎いからだろうな。
炒めたもやしのようなものと肉をヒデヲに倣って豪快につまみ、そのまま一気に口に放り込んだ。
「あらあら、ふふふっ」
チヨは穏やかな笑顔で食卓の様子を見守っていた。
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