第4話
……フニフニと腕に感触を得る。
何度も触れられる。くすぐったいというか、むずがゆいというか。
そして軽く引っ張られたり、振り回されたりしている。
「……さーん。おじさーん。ごーはーんー。おーきーてーごはんー」
ゆっくり瞼を開くと、薄明りの中で少女が目の前にいた。
前回と同様に起こされる。
「あっ、おきた! ママがね、ごはんだよって!」
いい笑顔だ。無邪気さがまぶしい。
見た目がおっさんになって父性にでも目覚めたのだろうか、いや違う。
こう、全体的にちっこい。俺の腕に触れる手とか、きっと俺の半分くらいしかない。幼い顔も、腕も、首も。細っちい。
「……」
「んんんぅーうぅー」
少女のほほに触る。じれったいのかくすぐったいのか、はたまた喜んでいるのか。
ともかく心地よさそうな顔にこちらも頬が緩む
小さくて弾力と温度がある。
そこから少女の首に軽く触れる。身体の芯に近づいたからか、若干温度が高い気がする。細い首だ。片手で完全に覆うことができる。
きっと思いっきり握ってしまえる。もしそんなことしたら容易に折れてしまいそうな脆さを掌に感じる
もしそんなことをしたら、この少女はどのような表情になるだろうか。
死の際に。もし自分が死ぬとしたら。この純粋な面持ちの主は何を考えるだろう。
きっと今までそんなことなど考えた事も無いだろう。
絶望するのだろうか。何に? それまでの人生に? 今の境遇に? それらを恨んで顔を歪ますのだろうか?
そんな表情を垣間見ることができるだろうか? だとしたら……。
走馬燈とか見るんだろうか。俺には無かった。ん、待て、確か、俺は……。
…………そうだ、思い出した。
「わぁっ!?」
俺が突然目を大きく見開いたので、少女は驚いて後ろに身を引いた。
そういえば、先ほど目を覚ました時には靄だらけだったが、確か俺はあの時駅のホームで誰かに背中を押されて、そして……。
ホームに響く悲鳴と自分の体に鉄が食い込んで吹き飛ばし破砕していくあの感覚
……で、そういえばここはどこなんだろうか? そしてどうなった俺?
自分がどのような事態に陥ったのか判断できない。どんな状況だよ?
いや、落ち着け、落ち着け。とりあえず今は心身に異常はない。いや、明らかに俺、老いてるけど。でもとりあえず五体満足だ。
先ほど少女に触れていた己の手を、腕を見る。鬱血なし。いたって健康そうだ。元の俺より毛が濃いが。
電車で殺され起きたら見知らぬ少女。知らない部屋。はあ? 謎だ。
とりあえずベッドから降りる。やけに薄暗いと思っていたが、燭台が壁に掛けられ蝋燭の火がかすかに揺れている。窓の外は濃紺で少々の明かりしか映っていない。
どうやら夜のようだ。まずは情報を得るため少女とコミュニケーションを図ろう。
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