第3話

振り返ると女性がドア前に立っていた。


「あははーおじさん起きてるー! あそんでー!」


女性の背後からさっきの少女が顔を出し、部屋に飛び込んできた。

仕舞いには俺の足にしがみついた。

勢いに押されオレは少しふらつく。元気がいいな。


「こらっ、騒がないの。おじさんが困っちゃうでしょ。こっちおいで。……ごめんなさいね」


女性が申し訳なさそうに謝罪するが少女の天真爛漫な笑顔に悪い気はしない。

確かに頭痛は相変わらずだが、気がまぎれる。


「あなた、村の前の草原に倒れていたみたいよ? たまたまうちの夫が見つけて運んできたから助かったものの…」


草原に倒れていた? そうだったか? 直前の記憶が思い出せずはっきりしない。


「た、助けられたようで、感謝、いたします」


久々にしゃべったようで言葉がつかえてしまった。感謝いたしますってなんか半分仕事モードのような応対になってしまった。

おそらく心身に思った以上に余裕が無いのだろう。

そもそも、そんなに人と仲良くできる人種じゃないしな。俺。


「村の外から来たんですか? お名前を教えていただけますか?」


「名前、名前は……」


ふいに思考の海に溺れているような感覚。えっ、自分の名前が思い出せないくらい重症なの? んなことあるか?

いやいや、いつも誰かに呼ばれてる名前だぞ。


そう…そうだ。

「ケンジ。俺は、清原ケンジだ」


ほらちゃんと出てきた! 頭を抱え気味に必死で答えたけど!


「ケンジさん? えっと、まだだいぶお疲れのようですし、もう少しゆっくりしていてください」


「それは……痛み入ります。まだ体調が万全ではないようで……」


「ええ、私から見ても顔色が優れないのがわかりますよ。何か食事とお飲み物を持ってきますか?」


女性は穏やかに微笑む。


「いえ、もう少し休めば体調も回復すると思いますので。お気遣い痛み入ります」


「そうですか。もうお昼過ぎなので夕食のご用意が出来たらお声がけしますので、是非召し上がってください」


おそらく少女の母親だろう女性の暖かさを感じる対応。

世界には拾う神もいるということか。捨てられた訳ではないけど、いや俺は優しさに飢えていたのか? 沈鬱で思考が重いだけだよな?


「ほら、メア。おじさん休むから、邪魔しないように居間に戻るわよ~」


終始ニコニコしていた天使な笑顔の少女は、メアという名前のようだ


「はーい。おじさん後でねー。ママー、今日のご飯なにー?」


両腕をぶんぶんと回しはしゃぎながら部屋から飛び出して行った。


「ゆっくりしてくださいね~」


女性も続いて退出していく。最後にドアの閉まる音がカチャっと部屋に響いた。

静かになったとたんに全身から力が抜けていく。

ドッと頭痛や疲労感が押し寄せてくる。


(あぁ、こりゃもう、無理だわ)


フラフラとかろうじてベッドへ倒れこむ。

そして再び意識が闇の中へと沈んでいった。

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