第4話 能力(イデア)【後編】
先ほどまでそこにあった顔なしの
「変身するタイプの魔物ってか……?初めての戦闘でそれは無しだろ……!」
ゲームや漫画なら、初めての戦闘はスライムだとかゴブリンのような低級の魔物というのがお決まりだが、現実はそんな甘くないようであった。変身するタイプなんて物語の後半かボスの特権だというのに、初っ端から大盤振る舞いである。
「魔物……ではないと思います。勇者様が全ての魔物を討ち滅ぼしてくださいましたので。それに、魔物とは違って感情の残滓が視えます」
魔物でなかったなら何なのかとか、勇者やら感情がどうとかいう気になることが山積みだったが、今はそんなことを聞いている余裕はなさそうであった。
――こいつら無限に増えるとかないよな……?
もしも、
奏多の
つまるところ、奏多が取れる戦法は最速で
「正面突破して奥にいるアイツを倒す。俺が戦っている間に逃げ――」
「逃げません!命の恩人を置いて逃げるなんて恥知らずな真似は致しません。微力ですが、魔法で支援します。それに、もし私が足手まといになったら見捨ててしまって構いません」
言い切る前に、強い意志を持って断ってくる。その姿にどこか親友の姿を連想してしまう。
どこまでも真っ直で自分を貫き通すぶれない意志を持っていた親友。もし彼がこの場にいたら同じことを言っていたと思うと自然と笑みがこぼれる。
「ああ、分かった。見捨てるつもりはないが、庇う余裕もない。なるべく後方に位置してくれ」
「はい!あなたも気をつけてください、アレからはどこか人間に近いものを感じます。油断しないでください」
少女は満足したかのように笑みを浮かべた後、神妙な面持ちで注意を促してくる。
人形だから人間に近い……ということではないだろう。真意はわからないが、油断するつもりもない。
奏多は剣を地面から引き抜き右下段に構え、少女は後方へ下がっていく。
後方の足音が止まるのを確認した次の瞬間、
加速された感覚の中、奏多は間髪入れずに前に飛び出し3体の
奏多は中央にいる1体の胴に目がけ剣を振り上げ、斬り裂く。続け様、左側の
響く剣戟音に続き、撃ち込まれる左の刃が届く刹那――
引き伸ばされた時間の中、撃ち込まれた刃を
上段から放たれた袈裟斬りは最後の1体の
引き上げたブーストを戻した瞬間、身体の内側に走る激しい痛みを精神力によりなんとか無視し、本命の
一拍の間。奏多の頬から汗が垂れ落ちる。同時、奏多は見た。
その瞬間、目の前に倒れた
「なッ……!」
強烈な悪寒が走り、心臓が跳ねる。すぐさまバックステップで後退しようとする。瞬間、目の前のエネルギーが膨れ上がる。
爆音。衝撃が体を叩きつけ、宙を舞う。吹き飛ばされた勢いのまま地面に叩きつけられ、しばらくの間地を転がる。吹き飛んでいる
辛うじて意識はあった。だが、全身が酷く痛み立つこともままならない。視界も半分が赤くボヤけており、頭部から出血しているかもしれない。
バックステップがギリギリ間に合い、爆発の直撃は避けることができたが、衝撃はもろに受けてしまった。加え、
ボヤけた視界で元いた場所を見ると、地面がえぐれ焦げついていた。
そして、
迎え撃とうにも、身体がいうことを聞かず立つことが出来ない。
「ファイアーボール!」
後方から凛とした声が聞こえると同時、迫り来る
「私が相手をします!来なさい!」
2体の
「なっ……!ファイアーボール!」
少女は無視する
「ウィンドブレス!」
倒れている奏多の頭上を突風が吹き抜ける。目に見えない風は流石に避けれなかったようで、
駆け寄ってきた少女は
「ロレンツ王国第二王女、アリア・ミューゼス・フォン・ロレンツがお相手致します。かかってきなさい」
――ロレンツ王国……第二王女⁈
痛みを忘れ、目の前の少女を凝視してしまう。どうやらこのアリアという少女は、どこかの国の王女様らしい。言われてみれば、その雰囲気はどことなく高貴さを感じさせる。
そんなことを思っていると、何処かから声が響いてくる。
「かかってきなさい、じゃないですよアリア様。戦闘苦手なのに無茶しないでください」
声と同時に左手の森の中から、騎士服を纏った1人の女性が現れる。
腰まで伸びた銀色の髪。儚さを感じさせる大人びた容貌にその格好が相まり、その姿はある種幻想的であった。
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