第169話 魔道具の起源

 魔導王国の王都を脱出。

 ユニコーンの里に招かれたルリ達は、ユニコーンのヨークに、願いを聞いてほしいと頼まれる。


「私たちにできる事でしたら、ぜひ聞かせてください」


『君たちならそう言ってくれると思ったよ。ええとねぇ……』


 ヨークが語り始めた。

 以前、娘が訪ねてきたと言う、その時の話を……。


 ユニコーンは、この地を守護する聖獣として、遥か昔から、この辺りに住み着いている。

 そもそも存在の格が違うの為、積極的な交流こそないものの、ヒト族との関係も、良好だったという。



 数百年前のある日、多くのヒト族の兵士が、山を登ってきた。

 魔物狩りにヒト族が訪れることは度々あったが、普段と違う様子に、ヨークも注目してみていたらしい。


 すると、一人の少女を残し、ヒト族の兵士は帰ってしまったそうだ。


 キレイな身なりで整った顔立ち。金髪の好く似合う少女。

 ヨークは、その身に秘めた魔力から、すぐに、誰だか分かったそうだ。


『女神アイリス様が、今の世界を創った際、賢人たちに特別なチカラをお与えになった事は知ってるかい?』


「王家の血筋は、初代賢人の血を引いていると聞いておりますわ。全ての国がそうとは限らないと思いますが……」


『賢人たちの血筋。そう、彼女には、そのにおいがあった。すぐに分かったよ』


 魔導王国の王族も、ミリア同様、賢人の血を引いているらしい。

 その中でも、稀に現れる魔力の強い個体……その地を守護する聖獣の加護を色濃く受けた個体が、生贄として山に置き去りにされた王女だったのだ。


(ミリアも聖獣の加護を受けてるのかなぁ。クローム王国にも聖獣がいるという事なのね……)


「最初の賢人さまや、他の聖獣について教えていただくことは出来ますか?」

『それは、またの機会にね……』


 女神がチカラを与えたという賢人の事や、他の聖獣については語ろうとしないヨーク。

 世界の神髄に迫る内容なので、簡単には教えられないのであろう。



『彼女は、しばらく一人でさ迷っていてね、僕たちユニコーンを探しているようだった。だから、声を掛けたんだ……』


 話を昔の王女との経緯に戻すと、ヨークはまた語り始める。


 彼女の望みは、流行している謎の病から、民を救ってほしいというものだった。

 ユニコーンの癒しのチカラを貸してほしいと、命を投げ出す覚悟で来たという。


『聖獣といっても、出来る事は限られていてね。直接、誰か個人にチカラを貸す事は禁じられているのさ。だから、病を治す方法を教えてあげたんだ』


 ユニコーン自らが、直接病を治療する事は出来ないらしい。ただ、知恵や手段を授けるという事なら、問題ない。広くヒト族全体の発展につながる場合に限っては。


 そこでヨークは、王女にユニコーンの角と、その使い方を教えた。

 短い時間ではあったが、楽しい時間を共有したらしい。


 癒しのチカラを持つ角。その魔力を魔石に付与する事で、治療具が出来る。

 その方法を、彼女は王国へと持ち帰った。

 どう活用するかは、ヒト族次第という事になる。


(あ、それが魔道具の始まり……起源だ……。でも?)



「あの、ひとつ聞いていいですか? 角のチカラを魔石に付与するとのことですが、付与できるのは癒しのチカラだけなのですか?」


『聞かれると思ったよ。僕たちの角は、女神様の加護が宿っているからね。万有の魔力を秘めていると言っていい。癒しのチカラ以外でも、角を通すことで、魔石に流す事はできるだろうね。

 でも、思い通りに付与できるとは限らないよ。本来の使い方じゃないからね』


 思った通り。

 魔道具は、ユニコーンの角を通じて、魔法を魔石に付与する事で作られる。

 付与される魔法がランダムだというのも、元々の仕様らしい……。



「それって、使い方しだいではすごく危険な……」


『だから、愛し子である彼女に託したのさ。希望のチカラを広め、ヒト族の発展に役立ててほしいってね。

 それから、安心していいよ……』


 万有の魔力を秘めた角など、危険極まりない。

 ルリの心配を察したヨークは、安心するように言う。


 角を渡したのはもう何百年も前の事で、角自体のチカラはほとんど残っていないらしい。

 魔力を通す機能は残っていても、魔力を増強するなどは難しく、そのままの威力で流す程度しか出来ないとの事だ。


(あれ? でも、ここまでなら、いい話にしかならないのでは……?)


『彼女には悪いことをしたと思ってるよ……』


 相変わらず、心を読んで返答してくるヨーク。

 いずれにせよ、王女に角を渡して病を癒したのであれば、美談として伝わっているべきである。

 ヨークの、悪い事をしたという言葉も気になる。


『彼女はね、角を持ち帰った後、殺されてしまったんだ……』


 悲しそうなヨークの一言。

 王女が殺されたという事実を知り、ユニコーン達は、ヒト族と距離を置くようになったのだという。


「当時の王家が、角のチカラを独占しようとしたのでしょうね……」

「チカラを広めようとした王女が邪魔だった……」

「生贄が生きて戻って来たのも、都合が悪かったのでしょう……」


 殺された理由についてヨークは話さなかったが、同じヒト族のルリ達にしてみれば、理由はいくらでも想像がつく。

 王女が生きていては、王家にとって不都合……。

 ただその理由で、ユニコーンに認められた愛し子は、殺されてしまったのであろう……。


「それで、あまり姿を見せなくなったのですね……」

「魔道具の起源についても、概ね理解しました。ありがとうございます……」


「ところで、お願いというのは? まさか……?」


 愛し子を殺した王家を滅亡させてほしい等と頼まれたら、少々困る。

 今更後には引けないのであるが……。



『僕たちはね、この地のヒト族、そして他の種族を守りたいんだ。そんなお願いはしないよ。』


「では、私たちは何をしてくれば……?」


『あの子と同じように、僕たちの加護がついたヒトが、今の時代にもいるんだ。そのヒトを、助けてほしい。ちょっと前に、悲鳴が聞こえたから……』


(今代の愛し子、それって……)


「追放されたという王女よね。生きてるんだ……」

「きっとそうね。条件的に、王女しかいないわ……」


 導師によって追放されたという現国王の姉。ヨークは、王女が悲痛な叫びをあげて連れ去られたことを感じ取ったらしい。

 王女を助け出す……。それなら、ルリ達にも達成可能そうな依頼だ。



「分かりましたわ。その依頼、『ノブレス・エンジェルズ』が受領いたします!」


『ありがとう。僕たちは、ここで待ってるから。希望のチカラを、今度こそ、君たちのチカラで広めてほしいんだ……』


 追放された王女を探し出し、ユニコーンの里に連れ帰れば、依頼達成だ。その上で、王女と協力して、ユニコーンの角を正しく使うように、広めればいいのであろう。



「あれ? 希望のチカラを広めるという事は、角をいただけるという事ですか?」


『うん。そのつもりだよ。君たちなら正しく使ってくれそうだからね。

 何、問題はないよ。角ならすぐ生え変わるから……』


「「「「えぇぇぇぇ?」」」」」


 目の前でヨークが角を折ってみせる。

 すると、たちまち、新しい角が生えてきた……。


 思わず角に手を出したくなるが、ここは我慢だ。



「まずは、王女の行方をつかむ事ね」

「うん、王都に戻りましょうか……」



 ユニコーンのヨークから、昔、魔導王国で起こった事件の真相。そして、魔道具が生まれた起源を聞いたルリ達。

 新たな目的として、追放された王女の救出というミッションを受ける。


(報酬はユニコーンの角! 最高の依頼だわ!!)


 心が読まれる事も忘れ、胸を弾ませるルリであった。

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