第170話 教会へ

 ユニコーンの里にて、ヨークから依頼を受けたルリ達。

 王女救出作戦の実行に向け、王都に向かう事にする。


『とりあえずもう夜になるし、明日の朝出発したら?』


「ここに泊まってよろしいのですか?」


『構わないよ。何もないけどね』


 聖獣という存在は、特に食事や睡眠などを必要とはしないらしい。

 そもそも、時間の感覚もルリ達とは異なるのかも知れない。


(馬だし野菜なら食べるのかなぁ……)


 ちょっと失礼な発想ながらも、彩り鮮やかなサラダを作ってヨークにも渡してみる。


『美味しいね……。あの子も、木の実とか採ってたっけ。僕らも一緒に食べたんだよ。でも、こんなにいろいろな種類を一度に食べるのは、僕は初めてかも知れないな』


 珍しい食事に興味を持ったのか、他のユニコーンも、嬉しそうに食べてくれた。

 数百年前の出来事も、ユニコーンにはつい先日の出来事なのかもしれない。

 皆一様に、しみじみとした顔をしている。



 その夜は、ユニコーンにもたれかかって眠りについた。

 フワフワした白い毛皮が心地よい。


『一緒にいれて、嬉しいよ』

「わたくしもですわ」


 地球の知識であれば、女性の膝枕で安心したと言われるユニコーン。

 今はどちらかというと、ユニコーンを枕……布団にして寝ている状態。

 お互い満足できるならそれでいいか……。

 ユニコーンがエロイなどという考えは、読まれないよう心に仕舞い、快適な夜を過ごすのであった。





「では、行って参ります」

『待ってるよ』


 ユニコーンの里を出たルリ達は、一路王都に向けて山を駆け下りていた。

 もちろん、絶対防御バリアでの特攻状態である。


 近づく魔物、邪魔な枝を吹き飛ばしつつ麓まで降りると、ちょうど冒険者が狩りに出ている所に出くわす。


「嬢ちゃん、聞いてるよ。カルド達の依頼でユニコーン探してるんだって?」

「へ? どういう話になっているのですか?」

「そのままだよ。聞いただけさ、俺たちもモノケロースの一員だからな」


 何故知っているのかと驚くが、秘密結社の一員らしい。

 そもそも、王都の冒険者の大半は、組織に所属しているのだそうだ。


「これから山に登るのか?」

「う~ん。今は情報収集ですね……」


 昨日王都を脱出してから、まだ1日も経っていない。

 普通に考えて、既に山の頂上まで往復してきたというのは、時間軸がおかしい。


 全力の身体強化と全体防御バリアの特攻で為せる業であり、その説明も面倒なので、回答を濁す。


「お聞きしてもよろしいでしょうか?」

「あぁ、何でも聞いてくれ」


 知りたい事は、追放された王女がどこに行ったのか。

 真正直に聞いては怪しいので、他の質問と混ぜながら聞いてみる。


「ユニコーンて、どの辺で目撃されているのでしょうか。昔、王女が生贄で向かったという場所とか、聞いたことないですか?」


 以前は、魔道王国の至る所でユニコーンは目撃されているらしい。事件以降、姿が見えなくなったというのは、直接聞いたので間違いない。

 もちろん、王女が向かった先も、この山だと分かっている。


「山の中腹に、小さな祭壇があるだろ。生贄になった王女を供養するための祭壇だそうだ。ギルドマスターの話では、生贄にはなっておらずユニコーンを討伐したらしいがな。王国が作った偽装かも知れんな」


 実はルリ達も、先程、祭壇に立ち寄っていた。

 殺されてしまった王女が祀られているとしたら、その祭壇であろう。

 ユニコーンに変わり、花をお供えしてきたのだった。



「祭壇は拝見しました。随分荒れていましたが、王国で管理はしていないのですか? 仮にも、王国の危機を救った王女が祀られているはずですのに……」


「王国兵がこの山に近づく事はないよ。だから俺たちも、悠々自適に狩りが出来るというものだ。恐れているのか、違う理由があるのか……」


 王国としても、後ろめたい思いがあるのであろう。

 ユニコーンが王女に託した角のチカラを独占し、事もあろうか、使者である王女を殺してしまったのだ。


 噂されるようにユニコーンが討伐されたという事実はどこにもなく、まだユニコーンが山にいる事を王国は知っている。ならば、山に近づこうとしないという事にも頷ける。



「そう言えば、国王様にはお姉様がいらっしゃるとか。生贄に送られた王女同様、器量の良い方だそうですね」


「ギルマスに聞いたのか? 何でも導師の策略で追放されたとか……」


「その話なのですが、追放されてどこに行ったのかお聞きになった事は?」


「確か教会が絡んでるとか……。あくまで噂だがな……」


「教会……。公聖教会ですか……?」


「あぁそうだ……」



(またあの怪しげな教会……?)


 またもや、公聖教会の名前が出て来た。

 ルリにチカラを授けた女神アイリスではなく、デザイアという女神を祀る教会。


 魔力に秀でた娘に目をつけ、修道女として引き抜くらしく、いい噂は聞かない。

 事実、ルリ達『ノブレス・エンジェルズ』の4人も、先の戦争の時に狙われている。


「確か、公聖教会の本部は、ここからですと北の方角ですわよね」

「そうだな。正確には北西、クローム王国との境に近い山中に拠点を構えている」


 ユニコーンに頼まれた愛し子、つまり追放された王女は、魔力に秀でていたという。

 その少女を欲する公聖教会と、排除したい導師の利害が一致。

 王女を、王国が教会に引き渡したと考えれば、辻褄は合う。




「教会か……」

「教会ね……」

「関わりたくなかったけど……」

「行くしかないわね……」


 親善大使という立場上、魔導王国内にて表立った調査は行いにくい。

 となれば、教会に乗り込むしかない……。


「王女を探すのか? ユニコーンが王女の所にいると?」

「まぁ、可能性の一つですわ。それに、追放されたのであれば、何か知っているかもしれませんわよ」


 秘密結社モノケロースの目的は、王国の不正を暴いて導師を引きずり下ろす事。

 その目的においては、王女から情報を聞き出しても達成できる。


「危険だぞ……」

「承知してますわ!」


 王都に戻るまでもなく、王女の行方の手掛かりを得たルリ達。

 冒険者に礼を伝え、移動を開始する。



「馬車で10日くらいの距離って言ってましたわね」

「全力で走れば半分でつきますわ!」


 新たな目的地、公聖教会の総本山に向けて、全力で走り出すのであった。





 身体強化による全力疾走。

 トレーニングで一般人よりは体力がついていることに加え、疲れたら回復魔法(ヒール)でドーピング。馬よりもはるかに速いスピードで走る少女たち。……ハッキリ言って反則だ。


 後に、「街道を恐ろしい速さで走る、貴族とメイドの亡霊を見た」などと噂される事になるのであるが、お構いなしに走り続ける。



「ねぇ、教会に行ったとして、どうするの?」

「忍び込む?」

「真正面から入れば良いのでは?」

「近くで倒れて保護してもらうとか!」

「そんな演技力ないわよ……」


 街道脇にテントを張りながら、教会への侵入方法について案を出し合うルリ達。

 正面から入れるならば苦労はないが、閉ざされている可能性もある。

 侵入は避けたいし、保護される保証もない。

 とにかく、情報が少なすぎて、作戦の立てようがなかった……。



「どこか街に寄って、情報収集しましょうか」

「そうね、そこでちょっと回復魔法使ったりして……?」

「うまくいけば、連れ去ってもらえるかも?」

「聖女セイラ様がいるからね!」


 教会の総本山に近い街であれば、教会の影響を受けている可能性が高い。

 もし、その街で回復行為でも行おうものなら、教会に連れ去られ……招かれる可能性もある。


「私たちは、旅の冒険者。教会の高潔な理念に惹かれて参じた冒険者よ。

 まずは中に入って、王女の行方を捜しましょう」


 教会侵入作戦。

 まずは、教会を信仰する冒険者として接触し、教会の情報を集める。

 その上で、回復魔法が使える事を伝え、中に入る方法を探ろうと決まった。


「変装とかする? 偽名とか……」

「そうしたいけど、無駄でしょうね……」

「何で私を見るわけ!?」


 面白がって変装を提案したルリだが、全員に睨まれた。

 結局バレて正面突破。それがいつものお約束だ。


 既に教会にマークされているルリ達でもあるので、今更ちょっと変装した程度では、すぐに見破られるであろう。

 何より、そんな演技力はない。




「街を探しながら進みましょう!」

「「「はい!」」」


 クローム王国の貴族だけ隠せば、後は何でもいい。どうせ、難しい事など出来ないのである。

 目的を確認し合った『ノブレス・エンジェルズ』の4人は、今日も街道をひた走る。


 天敵とも言えそうな教会との直接対決は、目前に迫っていた。


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