第166話 秘密結社
魔導王国の王都で、何故か外出禁止を言い渡されたルリ達。
冒険者ギルドにいくと、一人の男性に声を掛けられ、一緒にギルドマスターの元へと向かった。
「アプトロさん、入るよ!」
「ナイトメアの皆かい、どうした、あれ? ルリさん達まで……?」
「例の件だ。今、いいか?」
意外な組み合わせに少し驚かれるが、ギルドマスターのアプトロはすぐに受け入れる。
ナイトメアというのは、ルリ達を誘った冒険者カルドたちのパーティ名。親密な関係のようだ。
そして、カルドの真剣な顔を見ると、何かを察して部屋の隅、テーブルではなく床に座りこんだ。
「すまんが、こっちで小さな声で話してくれ。外に聞こえんようにな」
床に座ると、体を寄せ合って話し始める。
どこに監視の目があるか不明なので、込み入った話をする時は小さく集まるのが、この部屋では普通らしい。
「嬢ちゃん、それで、話してくれないか? 何を見た、あるいは何を知ったのか?」
「カルド、焦っちゃいかん。まずは、こちらの自己紹介をしようじゃないか」
突然の質問に、答えに迷っていると、アプトロが自己紹介をするという。
(何? どういう事? 来るとこ間違った?)
話の意図を組みかねていると、アプトロが話し始める。
わざわざ内緒話にするというのだから、事情があるのだろう。
「私たちは、モノケロースという組織に属するものです。規制の厳しい魔導王国で、住民の生活を守ろうと活動している組織ですね」
「その為には、冒険者という身分が便利でな。魔石で金を稼いで、住民たちを支えてるんだよ」
驚いた事に、住民たちによる秘密結社のメンバーらしい。
レジスタンスというよりは、慈善団体のような言い方だが、真意は測りきれない。
「余った素材や肉は、密かに配ったりもしている。ほら、嬢ちゃん達が、森でごちそうしてくれたみたいにな。
その様子を聞いて、一度接触しようと思ってたんだよ」
「それで、組織の方が、何の御用ですの?」
突然組織などが出てくると、どうしても警戒してしまう。
特に安全意識の高いセイラが、不機嫌そうに尋ねる。
「話し方が悪かった。警戒しないでくれ……。
ユニコーンの話、それで伝わるだろう。少し情報交換をさせてくれないか?」
「ユニコーンの……話ですか? 全然分かりませんけど、どうしてそう思いましたの?」
「簡単さ。この王都で、外の者が疑われるとしたら、大概ユニコーン絡みだ。山に狩りに行って、戻って数日で外出禁止。
どうだい? 何か、見たり聞いたりしたんじゃないのかい?」
表向き、ユニコーンの話をしてはいけないという決まりはない。しかし、この王都でユニコーンの話は禁句。関わった者は、拘束される事が多いらしい。
ルリ達の場合は、他国の使者という立場もあるので、簡単に拘束は出来ず、王都内に軟禁するという手法がとられた可能性が高い。
「ユニコーンですか。近くで会ってみたいですわ。聞いた話では、すごく美しい生き物だとか……」
この国の王女がユニコーンを討伐したと信じているアプトロの事だ。実際に会ったと言ったら面倒な事になりそうな気がしたセイラは、適度に誤魔化した。嘘は言わずに……。
「ユニコーンを見た訳ではないのか? なら、なぜ外出禁止に?」
「それはわからないわ。魔道具の工房に入った事が影響してるのかしら?」
「工房に入ったのか!? あぁ……招待されたのだから当然か……。
それだな。そこで、見てはならないものを見てしまったのかも知れんな。可哀想に……」
勝手に勘違いしているが、そこは放置。「はい」とも「いいえ」とも言ってないので、問題はない。
ユニコーンと出会った事は隠しつつ、本心を探りながら会話する。
「ところで、ユニコーンの件ですが。アプトロ様の話と、私どもが聞いた噂話などを総合しますと、魔道具の制作にはユニコーンが関わっているとは推測しております。その辺って、どうなのでしょうか?」
「もしや、工房でユニコーンの話でもしたか?」
「ええ、長寿の種族の方がたくさんいらっしゃいましたので、伝説とかお聞きしようかと」
「それで、何か答えたか?」
「いえ、教えてはいただけませんでしたわ」
工房でユニコーンの話をしたと言った途端、ギルドマスターのアプトロも、同席している冒険者たちも目を丸くしている。
余程、まずい話題だったのであろうか……。
「はぁ。それだな。噂だが、あそこには、昔、王女が持ち帰ったユニコーンの角が保管されているらしい。その事実を、王国は必死に隠していると、我々は睨んでるんだ」
表向きは生贄として送り出された王女が、実は、信仰の対象であるユニコーンを討伐し、角を持ち帰った……。
確かに、真実なら、国としては隠したい事実であろう。
「お嬢ちゃん方、残念だが、闇に突っ込んでしまったようだな……」
外出禁止と言われた時点で、ただ事ではないと分かっている。それに既に、魔導王国の闇に片足を突っ込んでいる事は自覚がある。
だから何? とでも言いそうな気分だが、そんな表情は一切せずに、冷静にセイラ返す。
「王国に目を付けられてしまったのですね。残念です。……親善大使の筈なのですが……」
「どうにかなりませんの? わたくし、困るのですが……」
相手の意図もわからないので、ここは、少女らしく困った素振りを見せるミリア。
セイラ同様、完璧な役者だ。
国に指名手配されているような状態。ギルドマスターや冒険者程度でどうにか出来るはずもないのだが、ミリアは得意の上目遣いをしていた。
「事情は理解した。こっちの事も、少しは分かってくれただろう? どうだい、取引しないか?」
「取引と言いますと?」
「街の外へ出るためのルートを用意してやる。その代わり、組織に協力してほしい」
「協力? 何をすればよろしいので?」
「情報、いや、証拠が欲しい。ユニコーンの角が、魔道具工房に存在するという証拠をな……。その調査に、協力してくれないか?」
(ん~? もともとそのつもりだったのだけど……?)
目的は違えど、やりたい事は一緒だった。
ルリ達も、ユニコーンの証拠をつかむべく、山に行こうとして、止められたのである。
「証拠を見つけて、何をなさるつもりですの? 犯罪には協力できませんが……」
セイラの口調が、どんどん丁寧になってくる。
細心の注意を払って言葉を選んでいる証拠だ。
「目的は言えんが……。真実を明らかにし、魔導王国をあるべき方向に導きたい。その為の第一歩になる」
「ふふふ。ハッキリ言えばよろしくてよ。国王を、……違いますわね、導師を引きずり下ろしたいというのでございましょう?」
レジスタンスに協力する訳にはいかない。他国とは言え、王族の一員なのである。
図星を突かれて言葉を無くすアプトロにきつく言い返すセイラ。
しかも、不敵な笑みを浮かべている。
「あなた方は、ユニコーンの真実を元に導師を追い出したい。私たちは、魔導王国と仲良くなって、クローム王国に魔道具が流通できるようにしたい。
あなた方に協力するいわれは無い事、ご理解いただけますよね?」
「ああ、巻き込んで済まなかった。嬢ちゃん達に無理はさせられない。脱出のルートは教えよう。だから、もし、ユニコーンの情報があったら、教えてくれ」
「あーもー。わかってませんわね。利害が一致すると言っておりますの。
協力は出来ませんが、あなた方の企てに期待はしますわ。国の代表が国王や導師から他の誰かに変わろうが、私たちの目的は変わりませんから。ね、わかるでしょ?」
直接的にレジスタンスに協力するとは言えない。しかし、面倒な導師が勝手にいなくなってくれるなら、それに越した事はない。
(あれ~? 思いっきり協力しようって話になってるけど……?)
そんなルリの心配をよそに、話を進めていくセイラ。
いつの間にか、上から目線の命令口調に変わってきている。
「ねぇ、アジトとかございませんの? まずは、私たちを脱出させてちょうだい。作戦会議が必要ですわ。案内なさい?」
(なんか、セイラのスイッチ入っちゃった……? 秘密結社、傘下にするつもりだわ……)
セイラが、クローム王国の不利になる様な判断をするはずがない。
信じて展開を見守るミリアとメアリー。
(秘密結社でクーデター? 面白くなってきた~!!)
映画のような場面に、一人ドキドキが止まらない、ルリであった。
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