第165話 外出禁止

「み、皆さん、お話はこの辺で……」


 魔道具工房で職人たちと会話していると、話がユニコーンに触れたことに焦った、商業ギルドのギルドマスター、シブルセが止めに入ってくる。


 和気あいあいとした勉強会の場が、ユニコーンの名前が出て以降、雰囲気も微妙になっていた。


(これ以上は何も教えてくれそうにないわね。しかも、規則というよりは、彼らの感情としてユニコーンを恐れているような気もするわね……)


 魔道具工房とユニコーンには関係がある。……それは間違いない。

 長寿のドワーフやエルフが、伝説を知らないとは思えず、ユニコーンの話題を避けようとするのは、この工房とユニコーンに関わる、後ろめたい事情があると考えるのが妥当だろう。



「話題が逸れてしまって申し訳ございません。魔道具の試作品、完成しましたらぜひ教えてくださいね。楽しみにしてますわ!」


「嬢ちゃん、今日はありがとうな」

「とても楽しかったわ。早速、新しい魔道具を仕上げてみるわ」


 職人たちに別れを告げ、工房での勉強会は終了となった。





「セイラ、どう? 何かわかった?」


 帰り道、工房を出ると、セイラに話しかける。

 全力の探知で、ユニコーンの痕跡を探してもらっていたのだ。


「気配はすごく薄いけど、たぶん、魔石に魔法を付与する工房のあたりね」


「やっぱり。……魔石に魔法を付与する時に、ユニコーンの力を使ってるのね」


「それが、魔導王国が魔道具を隠す理由になる、という事ね……」


 セイラが探知したユニコーンの影は、魔石の工房の付近から発せられていた。

 ユニコーンの身体の一部……角か魔石と考えるのが無難だろう……に、魔法を付与する力がある。


「ユニコーンから奪い取ってきた角か魔石を使ってる。その事実に怯えてるのかな……」


「間違いなさそうね……」


 昔の王女がユニコーンを大量に討伐したという、冒険者ギルドのギルドマスター、アプトロの話。そして、現在、ユニコーンの素材を利用して魔道具を作成していると思われる工房。

 どちらも証拠はないが、辻褄は合う。



「証拠……欲しいわね」

「そうね、ユニコーンの角でも見つかれば、事実だってわかるわ……」


「解き明かして、どうするの? 盗む?」

「さすがにそれは、まずいわよ。バレたらクローム王国と戦争になりかねないわ」

「では、事実をネタに、脅す?」

「争いになるのはダメよ……。」


 ルリ達の目的は、魔導王国との親和、そして魔道具の流通を実現する事だ。

 魔導王国を脅して言いなりにさせたり、過去の悪事を暴いて政変を起こしたい訳ではない。


「もう一度、ユニコーンに会ってみる?」

「まだいるかな? それに、話せるの?」

「分かんないわよ。でも、魔道具工房と事を構えるのが得策でないなら、ユニコーンと接触するしかないじゃない?」

「とりあえず、そうね……。ユニコーンの角とか入手できるかも知れないし……」



 魔導王国とユニコーンの間で、過去に何があったのか。

 そして、現在の工房で、何が行われているのか……。


 その謎を解き明かすことが、魔道具製作の鍵になるであろう。

 早速明日にでも、ユニコーンのいた山に登る事にした。





 翌朝、今度は数日間の狩りという予定で、宿を出発したルリ達。

『ノブレス・エンジェルズ』の4人と、メイドのアルナとイルナ、そして8人の兵士。


 兵士のメンバーは、入れ替わっている。

 何度も同行するのはズルいと、担当が交代制になったらしい。


 昨夜も、諜報の兵士からの報告はあった。

 これといった新しい情報はないものの、逆に、ユニコーンの情報を、特に伝説がどう語られているかを調べるようにお願いする。



「じゃぁ、ユニコーン探しに、行きましょうか!」

「「「おー!!!」」」


 元気に出発すると、宿から街の門に向かう。

 普通なら、そのまま出れるのであるが……。


「クローム王国使節団の皆様ですね。申し訳ございませんが、外出禁止との指示が来ておりますので、お通しできません」


 門を通ろうとしたら、兵士に止められた。

 外から中ではなく、中から外で止められるのは珍しい。


「どういう事ですの?」


「申し訳ございません。理由はこちらでは把握しておりませんが、使節団の方は外に出すなと指示が出ております。こちらが書面です」


 クローム王国使節団の外出禁止という触書が書かれている。

 王宮発行の指示書、導師シェラウドの署名まである。




「動いて来たわね」

「対応が早すぎるわ。工房を出てすぐに報告が入ったという事ね」

「魔道具の核心には触れていないけど、……ユニコーンの話をしたからかしら?」

「そう考えるのが妥当よね。ユニコーンは禁句という事……?」


 その場で兵士と言い争っても仕方ない。

 王宮の指示が出てるとなれば、兵士は従う以外にないのだ。

 事情を把握しているとも考えにくい。


「一度宿に戻りましょうか」

「ですね……」



(使節団は外出禁止かぁ。冒険者パーティとは書いてなかったなぁ……)


「ちょっと、寄り道していきませんか?」

「うん、私もそう思った……」


 良からぬ事を考えていたのは、ルリだけではない。

 顔バレしているので街から出るのが困難なことは変わりないが、冒険者が出るなとの指示は無いので、もし見つかっても、言い逃れは可能だ。……屁理屈でしかないが。


 事情の聞き出しには、文官を遣わす事にして、冒険者ギルドに向かう事にしたルリ達。

 目立つので兵士には帰ってもらった。

 アルナとイルナは、隠密にも長けている為、陰からこっそりとついて来ている。




 チロリン

 冒険者ギルドの扉を開き、中に入ると、大勢の冒険者が出迎えてくれた。


「お、今日も狩りかい? お嬢ちゃん達もがんばるなぁ」

「相変わらずかわいいねぇ~」

「ずっとこの街にいてくれよ~」


 ルリ達が他国の貴族である事くらいは、とっくに話が広まっているであろう。

 しかし、王族だろうが貴族だろうが、冒険者として活動する限りは、身分は関係なし。それが、冒険者たちの約束事である。

 気兼ねなく話せる環境に、心が安らぐ。




「街の外に行く依頼、受けようかと思いまして」

「あん? 依頼はほとんど街の外だろう。魔物は外にしか居ねえからな」

「もしかして……。ちょっと、こっち来い!」


 何か勘づいたのか、一人の冒険者が手招きしている。

 テーブルに向かうと、声を小さくして話し始めた。


「なあ、なんかやらかしたのか? 街の外に出れねぇ事情があるんだろ?」

「あはは、何故か門で止められてしまいまして。外出禁止みたいなんです……」

「ぶはははは。そりゃ面白れえ!」


 街に来てまだ数日である。

 余程の犯罪者でもない限り、街からの外出禁止が言い渡される事などない。

 この短期間で外出禁止になったという事は、つまり、余程の事をやってしまったという事だ。


「犯罪とかはしてないのですよ」

「分かってるよ。何かに深入りし過ぎたんだろう? 知らなくていい事を知ってしまったとかな?

 嬢ちゃん達は強い。目を付けられても理解できるさ」


 その通り。ルリ達は目立つ。……悪目立ちするのだ。

 知らなくてもいい情報というのが、魔道具とユニコーンの件なのであろう。



「ギルマスの所に行こう。協力してくれるはずだ」


 カルドと名乗る冒険者が立ちあがると、そのパーティメンバーらしき人たちが続く。

 大きな斧を持った、いかにも冒険者という風某のカルド。

 そして、男性が他に2人と、女性が2人の、計5人のパーティ。


 この街の冒険者たちは、単純に魔石を売ってお金にする生活を行っている。

 国の政情や利権とは関りがないので、この国では最も信頼できる人種かも知れない。


 冒険者ギルドもまた、必要な数の魔石さえ納めれば文句も言われないので、規制の厳しい魔導王国にありながらも、一定の自由は維持できていた。



「大丈夫? 信頼できるの?」

「でも、協力してくれるって……」

「いざとなったら、……任せなさい!!」


『リミットの一部を解除します』


 女神装備にさっと着替えたルリ。

 いざとなったら、冒険者ギルドを壊滅させてでも仲間を守る。


 ルリの決意を感じ、ミリア、セイラ、メアリーも立ち上がる。

 カルドという冒険者の誘いに乗り、ギルドマスターの部屋へとついて行く事にした。

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