第160話 ユニコーン

「おはよう!」

「夜中は少し笑ったけど、よく眠れたわ」

「見張り、お疲れ様でした!」


 魔導王国イルーム、王都から半日ほど離れた山中で朝を迎えたルリ達。

 快適な睡眠で、今日も元気だ。


「魔物に注意しながらもう少し山を登って、お昼前には引き返しましょう」

「そうね、今日中に王都に戻らなくちゃだしね」


 セイラが行きたいのは、因縁の相手、ゴーレムがいるという中腹の岩場。

 以前は油断もありやられてしまったので、しっかりと倒しておきたい。


「魔石の調査という意味では、もう十分ね。魔物に魔石がある事はわかったわ」

「理由は不明だけどね。魔物の強さが変わらないのだとすれば、土地の環境の影響でしょうけど……」


 クローム王国にもいたオークなどの魔物は、強さが違うとは思えなかった。

 この地域で初めて倒した魔物については比べようがないが、べらぼうに強力という感覚はないので、地域的な特徴だろうと推測する。


(魔石が生まれやすい地域特性かぁ……。アメイズ領で真似するのは難しそうねぇ……)


 魔石が育つ理由を発見し、アメイズ領で再現したいと考えていたルリ。

 土地そのものの魔力が原因だとすれば、そうそう再現は出来ないであろう。

 アメイズ領の魔物でも魔石が獲れるようにと思ったが、難しそうだ。



「サクッとゴーレム倒して、帰りましょう!!」

「「「おー!!!」」」


 魔石の事はこれ以上考えても分からない。

 ならば、さっさと狩りを終えて、帰ろうという事で、山を登り始めた。




「もうすぐ岩場に到着ね!」

「ゴーレムらしき反応もあるわ。戦闘準備よ!」


「それで、魔法も物理攻撃も効かない相手よ。どうやって倒すの?」

「わたくしに、考えがあるわ。試してみたいの!」


 周囲は岩場。火事の心配がない。

 ミリアが張り切って魔力を高めている。



「いたわ。ストーンゴーレムにアイアンゴーレム。全部で5体!」


「みんなは、岩陰に隠れてて!」


 ちょうど、5体のゴーレムが纏まっていた。

 魔法で狙うには、絶好のシチュエーションだ。


 言われなくても、ミリアが全力で魔法を放ちたい事はわかる。

 飛び火してこないように、隠れて見守るルリ達。

 念の為、絶対防御バリアをいつでも張れるようにしておく。


「セイラ、一応、周囲に注意しておいてね」

「当然よ。もう二度と、不意を突かれたりはしないわ」


 周囲を警戒しながらミリアを見守ると、イメージが整ったようだ。


火炎旋風フレアストーム!!」

氷結旋風アイスストーム!!」

「プラズマ~!!」


 ごぉぉぉぉぉぉぉぉ

 ずどぉぉぉぉぉぉぉ

 バリバリバリバリバリ


 ミリアの特大魔法三連荘。

 灼熱の竜巻がゴーレムを襲い、動きを止めると、間髪入れずに、氷の粒を巻き上げた極寒の竜巻がゴーレムを包む。

 そこに、天空からプラズマの雷が落ちた。


 急激に加熱され、急速に冷やされる。

 熱処理の効果で脆くなった所に、雷で切り刻まれては、さすがのゴーレムもひとたまりもない。

 魔法や物理攻撃が効く効かない以前の問題だ。


 辺りには、粉々に砕かれたゴーレムの残骸が転がっていた……。



「ルリ~、見てた~? 出来たわよ~!!」


 轟音と暴風が収まると、駆け寄ってくるミリア。

 大魔法の連続使用はミリアとしてもチャレンジだったようで、満面の笑みだ。


 硬いものでも、急激に熱して冷やせば脆くなる。

 ルリが、以前教えた事を、しっかり実践したミリア。

 実戦での投入は初だが、イメージ通りに出来たらしい。


「ミリアぁぁぁ!! 最高~!!」


 爆風の方向なども見事に制御されたミリアの魔法。今までを考えても、かなり上手に出来ている。

 魔法適性の高いミリアだが、今でも一応、ルリは魔法の師匠的な立場だ。

 ルリに抱きついて、嬉しそうにはしゃいでいた。


 セイラも、何かした訳では無いのだが、目の前でゴーレムが粉々になるのを見たので、満足したようだ。

 ミリアの喜びは、セイラの喜びでもある。



「ゴーレムも倒したし、そろそろ帰りましょうか」

「待って、魔石だけ回収ね」


 岩や鉄のくずの中から、魔石を探す。10センチ以上の、大きな魔石を5個、探すことが出来た。


「キレイな魔石だねぇ」

「高く売れそうよ」


 魔石と、鉄くずを回収、アイテムボックスに収納すると、戦闘は終了だ。

 帰りは一気に山を降りるので、少し休憩した後に、出発する事とする。


「セイラ、一応警戒、お願いね」

「うん。それなんだけど……」


「何かいるのね? こっち来そう?」

「ううん、様子を見られてる感じかなぁ」

「ゴーレム? それとも違う魔物?」

「見た事のある反応ではないわ……」


 これ以上戦う必要もないので、避けられる戦闘は避けたい。

 探知を広げるセイラが、首をかしげた。


「何て言うんだろう。魔物なんだけど、反応がラミア達に近いのよねぇ」

「それって、伝説級の魔物って事?」


 未知の魔物が、こちらを窺っている。しかも、『蛇女』のラミア同様、伝説になるような魔物と反応が似ているという。


「興味深いわね。逃げる? それとも……」

「遠くから見るくらいなら平気かなぁ?」


 顔を見合わせるルリ達。もちろん、好奇心は抑えられず……。


「いい? 遠くから見るだけよ。間違っても、戦おうとか考えない事」

「そうね。絶対に刺激しないように……」


「ただもし、ラミア達みたいに会話ができるのなら?」

「会話ができたとしても、味方とは限らないわ。ラミアとだって、最初は殺されかけてるのよ!」


 遠くから魔物の姿を確認したら、刺激せずに立ち去る。

 行動の方針を確認し合うと、少しずつ反応に近づいて行った。


「みんなは、少し離れてて!」

「いや、ここは、命を懸けてでもお守りせねば……」

「すぐ逃げるから大丈夫。もし追いかけてきて、どうしようもなくなったら時には、お願いするわ」


 兵士たちに、後方で待機するように伝えるミリア。

 自分が盾になると兵士が言うが、優しく拒否する。

 命を懸けて守ってもらうような状況になるなら、最初から近づいたりしてはならない。




「ねぇ、馬、かしら?」

「しかも白いわね。白馬?」

「角があるわ!」


 遠くに見えているのは、2頭の白馬。頭に1本の大きな角がある。


「一角獣……ユニコーン? 本当にいるんだ……」

「ルリ、知ってるの?」

「想像上の生き物って意味では……」


 実物を見るのは、もちろん初めてだ。

 しかし、目の前に存在する姿は、物語で見たユニコーンそのものだった。


「危険なの?」

「知らない……。聖なる存在、神様とかと同列で語られる事は多いけど……」


(確か、幼女好きなんだっけ……? 関わらない方がいいかも……)


 処女の香りに誘われたという伝説はあるが、幼女に限った話ではないであろう。少し勘違いしているルリ。


「とにかく、姿は確認したわ。長居は無用ね」

「わたくしも、何か視線にゾワゾワしますの。早く立ち去りたいですわ……」


 こっちを見つめている様に見える、2頭のユニコーン。

 もし、地球の伝説同様の存在ならば、ミリアの気配に誘われているのかも知れない。


「早く行きましょ。珍しい魔物だろうけど、気味が悪いわ」

「そうね、分かったわ……」


 早く帰りたがるミリアに、ルリとメアリーが同意する。

 セイラは、少し残念そうだ。


「いいの。あんな綺麗な白馬、なかなかいないでしょ。少し勿体ないって思っただけ……」


 4人の中では唯一、馬に騎乗ができるセイラ。

 ユニコーンにまたがる騎士の姿を想像したのだろう。


「白馬は一緒に探しましょうね。得体の知れない伝説級の魔物よりも、普通の馬の方が安全だわ」


 ミリアが元気付けるようにセイラに言うと、セイラも納得したようだ。

 急いで兵士たちの待つ場所へ走る、4人であった。




「貴重な経験だったわね」

「珍し魔物を見られたわ」


 山を下りはじめたルリ達。

 ユニコーンは貴重な経験だが、これ以上深追いはしない事にして、王都に戻る事にした。



「ねぇセイラ、ユニコーン、ついて来たりしてないよね?」

「反応は感じないけど、どうかしたの?」

「気のせいかな。まだ、ゾワゾワした視線を感じるんだけど……」


 気持ちの悪い視線が、まだ続いているというミリア。

 心配して周囲を見渡すが、魔物の気配はない。


(目を付けられた? 危険かしら? 伝説の魔物なら、気配を消す事も出来るのかも知れない。

 ならば、私が囮になって……)


 ミリアが目を付けられたとすれば、危険かもしれない。そう思ったルリは、行動に出る。



「ユニコーン、出てらっしゃい。幼女はここにいるわよ!!」


 シーン


 突然叫ぶと、装着そうちゃくの魔法で水着に着替え、ポーズをとる。

 しかし、……何も起こらなかった……。



「あれ? これでユニコーンが現れると思ったんだけど……」

「はぁぁぁぁ? 意味がわかんない」

「恥ずかしいから服着なさい!」


「ルリ、ちょっと、そこに座りなさい。あなたはねぇ……」


 本人は大真面目。ユニコーンを魅了しようと考えたルリだったが……。少し、いろいろと、……足りなかったようだ……。




「わかったわ。ユニコーンが幼女好きだというのね。ミリアを助けようと思った、その気持ちは、理解するけど……」

「ルリ、それじゃぁ、幼女じゃなくて痴女だよ……」


「しかし、ミリアに目を付けるとはねぇ。ユニコーンも見る目があるわね」

「どういう意味よ……?」


 結局、ユニコーンは現れず。

 ミリアのゾワゾワも、いつの間にか消えたようだ。


(なんか癪だけど、とりあえず、一件落着ね!)


 気を取り直して、王都へ向かって歩き始める、ルリ達であった。

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