第161話 イルームの伝説
魔導王国イルームの王都近くの山中で、魔物の討伐……魔石狩りを楽しんだルリ達。
今は、王都へ帰る為に、全力で山を下っている。
「昼までには麓に行くわよ。帰れなくなるわ」
「うん、でもさぁ、ユニコーン、何だったのだろう……」
「結局、謎なままよね。また会えるのかなぁ」
「でもあの視線、敵ではないかも知れないけど、嫌だわ……」
ルリの勘違いに端を発する痴女騒動……一発ギャグ以来、視線を感じる事もなく、ユニコーンの気配は消えたままだ。
そもそも、実際の接触は遠くから眺めただけであり、残りは感覚と妄想の話。詳細をわかろうとする方が無理な話だ。
「次、出会う事があったら、その時に考えましょう」
「そうね。いきなり襲ってくる訳ではなさそうだしね」
いったんユニコーンの事は忘れる事にしたルリ達。
どういった存在なのかは、街で噂などを聞けばわかるであろう。
お昼を少し回った頃、なんとか山の麓まで、たどり着いた。
昨日と同様に、冒険者たちが狩りを行っている。
「嬢ちゃん達、無事に帰ってこれたんだな」
「魔石はどうだ? 大量か?」
魔導王国の冒険者にとって、魔物を狩る事は、魔石を獲る事に等しい。
肉などの素材は、二の次。魔石がどれだけ獲れたか、興味深そうに聞いてくる。
「熊と牛が大量にいましたの。魔石もしっかり手に入れましたわ!」
「そうか、そりゃよかった」
「いいか、売る時には工夫しろ。一度に大量に売ると願崩れるからな。少しずつギルドに持って行くのが重要だ」
大量の納品の場合、買いたたかれる事があるらしい。
需要と供給のバランスを考えながら売る事が、儲ける為の秘訣だと教えてくれる。
それは、他の冒険者にとっても重要な事で、魔石が値下がりしないようにするのは、この街の冒険者の暗黙のルールなのだそうだ。
「わかりましたわ。値崩れしないように、注意して報告しますわ」
お金に困っている訳ではないルリ達。正直な所、全ての魔石を売ろうとも思っていない。
他の冒険者の迷惑にならない範囲で売却することを約束し、お礼を言う。
「夕方までに帰れるかしら? 明日は魔道具職人さん達と会う予定ですから、今日中にギルドに報告したいわね」
昨日同様に、他の冒険者を巻き込んでの昼食。
熊肉は珍しいらしく、甘くてホロホロと溶ける脂に、全員で感動する。
「ありがとうな。何か困ったら、いつでも声かけてくれ」
もう少し粘って狩りをするという冒険者たちに別れを告げ、一足先に王都へと向かって歩き出したルリ達は、そのまま王都へと到着した。
チロリン
冒険者ギルドのベルを鳴らす。
突然の少女たちの登場だが、今日の視線は、いつもの不埒なものとは違った。
『お、噂の嬢ちゃん達の到着だ』
『聞いてたより可愛いじゃねぇか』
『からかうなよ。えげつない魔法使うらしいぞ』
昨日披露した戦闘の様子が、早くも噂になっているようだ。
それに、焼肉を御馳走した事もあり、好意的になっている。
「Cランクパーティ『ノブレス・エンジェルズ』です。北東の山での狩りより戻りました」
『『『『おかえり~』』』』
魔石のお陰で景気のいいこの街の冒険者は、外から来たルリ達にも、優しかった。
「魔石を少しと、お肉などの素材を売却したいのですが」
「分かりましたわ。お肉……解体は必要ですか?」
受付嬢に討伐の報告をすると、解体場に連れて行かれる。
ルリの収納魔法の話も、昨日の一件と一緒に伝わっているようだ。
「噂のパーティか。大容量の収納使いなんだってなぁ。そこら辺、空いてる所に出していいぞ」
「わかりました~」
ずどぉぉぉぉん
ずどぉぉぉぉん
ずどぉぉぉぉん
「「「「……」」」」
「ぐほっ、こりゃぁ驚いた。大容量っても限度があるだろうよ、限度がぁ」
いつもの慣れた光景だが、解体場のおじさん達が目を丸くする。
むしろ、ルリはそれを楽しんでいる節もある。
「メリカバイソン、10体です。魔石があったらそれの売却もお願いします。それとお肉、少し、売却ではなく、寄付にします。良かったらギルドの皆さんや冒険者さん達で召し上がってくださいね」
最近覚えた事。ギルドで解体、買取された素材は、ギルド職員といえども自由に食べたりは出来ない。売り物になるからだ。
しかし、買い取りではなく、自分たちの所有物として寄付したのであれば、お裾分けが可能だという事。
「嬢ちゃん、ありがとうよ。すぐに査定するから、受付で待っててくれぃ」
ルリが異世界で学んだ事。仲良くなるなら胃袋を掴め。
冒険者ギルド職員と冒険者たちの胃袋をがっしり掴むことに成功したルリであった。
「あ、『ノブレス・エンジェルズ』の皆さん、ギルドマスターがお会いになりたいそうです。少し、お時間よろしいでしょうか」
受付に戻ると、ギルドマスターの元へと案内される。
階段を上がった2階、奥の部屋に通され、ギルドマスターのアプトロと面会する。
「魔導王国イルーム王都、冒険者ギルドマスターのアプトロだ。
噂のCランクパーティ、どこかで名前を聞いたと思ったが、あの召喚状のお嬢さんか」
「Cランクパーティ『ノブレス・エンジェルズ』、冒険者のルリと申します」
最初は、噂の少女たちに会ってみようと思った程度だったらしい。
しかし、名前を聞いて、召喚状の事を思い出したそうだ。
「召喚状をいただき、クローム王国より参りました。みんなは護衛として一緒に来てくれております」
「あの召喚状の中身については、あまり把握していないのだがな。商業ギルドのシブルセが、クローム王国の冒険者に書状を届けたいから、協力しろって言って来たんだよ」
想像通り、冒険者ギルドは、ルリの召喚に関しては関与していないらしい。
相手が冒険者という事で、巻き込まれただけのようだ。
「書状を見ると、導師シェラウドの名前まであるからな。さすがに断れなかった。苦労かけたな」
「いえ、お陰で楽しい経験をさせてもらってます。お招きありがとうございました」
軽く礼を言い合い、雑談などを行う。
せっかく、ギルドマスターと話せているので、疑問をぶつけてみる事にした。
「2つほど、お聞きしてもいいでしょうか。
まず、この辺りで、ユニコーン……一本角の白馬の噂など、聞いた事はありませんか?」
「ユニコーンか。久しぶりに聞く名前だなぁ。魔導王国では有名な伝説だよ」
その昔、数百年も前の事。建国間もないイルームで、謎の病が流行った。
当時のイルーム国王は、土地の守り神とされるユニコーンに祈祷し、生贄として娘を差し出したそうだ。
「伝説では、祈りが通じて、山から下りてきたユニコーンが、病を癒し、イルームが救われたとされている。
だがな、ここだけの話、事実はもう少し裏があるらしい」
「裏と申しますと?」
「ここからは半分推測だがな……」
生贄を捧げた事で、土地の守り神が救いを与えるというのは、よくある話だ。しかし、推測と前置きしつつ、アプトロは話を続けた。
「噂で聞いたんだが、ユニコーンの角には、病を癒す力があるらしい。昔は、薬としてユニコーンを狩るやつすらいたそうだ。
しかし、この数百年、ユニコーンの姿を見たという話はない。という事はだ……」
「伝説の出来事が起こるまではユニコーンは普通に山にいたと。それで、何があったかは分からないけど、以降、ユニコーンが姿を現さなくなるような事件が起こったという事ですね」
「そうだ、嬢ちゃん鋭いな。俺の予想はこうだ。生贄で娘が差し出されたのではなく、娘を中心とした軍が、ユニコーンを狩りつくしたのではないかと」
イルーム王国では、稀に、魔力の強い女児が誕生するらしい。
魔術に長けた王女が、軍を率いてユニコーンに挑み、討伐。薬効があるという角を持ち帰った。
しかし、それ以降、ユニコーンはいなくなってしまったが、守り神が消えたというのは不都合な為、話が捻じ曲げられたのだろうというのが、アプトロの推測だ。
「昔は大きかったというユニコーン信仰も、今はほとんど残っていないしな。もし、ユニコーンと会うようなことがあったら、注意しろよ。俺は、恨まれていると思っている」
事実がどうであれ、アプトロは冒険者ギルドのマスターとして、ユニコーンが危険だという結論に達し、冒険者には注意を促しているようだった。
「そうなのですね。もし、ユニコーンと出会う事があったら注意しますわ」
「あぁ、そうしてくれ。それで、もう一つの質問というのは?」
「はい、シェラウド様の事です。率直に、どういった方なのでしょうか?」
「まぁ、一言で言えば、したたかなお方だよ。現国王のラグマン様を担ぎ上げた張本人さ。その辺は、街でも噂で広まっているので、言ってもいいだろう」
「あら? 言ってはまずい事でも、ご存知ですの?」
「はっはっはっ。相変わらず鋭いな。実は、ラグマン王には姉、つまり王女がいてな。その王女が、さっきの伝説の王女同様、魔法に長けていたという話だ。
魔法に長け、しかも頭脳明晰な王女と、あの国王、どっちが扱いやすいか……。
おっと、これ以上は止めておこう。誰かに聞かれでもしたら殺されちまう……」
導師の傀儡となっている現国王には、実は優秀な姉がいた。
その王女を何らかの形で排除し、弟を国王に祀り上げた。
アプトロの話が本当なら、この国で、良からぬ事が起こったのは、間違いなさそうだ。
ギルドマスターとの会談を終えたルリ達は、真意を確かめる為にも、調査を依頼している兵士たちが待つ、宿へと急ぐのであった。
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