第157話 非常識
早朝、魔導王国イルームの王都、宿の前。
8人の選ばれた騎士が、整列して主の到着を待っている。
兵士たちは、昨夜、大騒ぎだったらしい。
急きょ決まった『ノブレス・エンジェルズ』の魔物狩り決行。
野営の可能性もあるとの事で、近衛騎士団としては、誰が同行するかで揉めた。
誰もが腕に自信あり。それに、噂に聞く少女たちの戦いぶりも見てみたい。
最大8名と言われた護衛枠に、我こそはと名乗りを上げる。
「セイラ様、申し訳ございません。同行希望を譲らない者が多すぎまして……」
「張り切らなくてもいいですのに……。では……」
セイラとしては別に誰でもよかった。戦う事はないだろうし、仕事は野営の警戒に付き合ってもらう程度だ。立場上、兵を連れて行かないのはまずいと考えて、兵を連れて行くだけ……。
本音を伝えるのは気が引け、若手を中心に人選する。もちろん、連携が崩れないように配慮も行って。
結果、セイラ直々の指名を受けた兵士たちは、朝早くから、意気揚々と『ノブレス・エンジェルズ』の到着を待つ事になったのだ。
「では、参りますわ。目的は、魔石の調査です。
狩場には、未知の魔物がいるかもしれませんので、慎重に、かつ楽しんで来ましょう!!」
「「「「「おー!!」」」」」
準備が整い表に出ると、ミリアの掛け声で出発。
森に入れば邪魔になるので、馬車は使用せず、徒歩での出発だ。
もちろん、動きやすいように、服装は冒険者の衣装にしている。
1時間ほど北東に向けて進むと、森が見えてくる。
この先に、魔物の生息域があるらしい。
「他にも冒険者が来てますわね、何組もいそうですわ」
「魔導王国は冒険者が多いみたいよ。ギルドも賑わってたわ」
セイラの広域探知が、人の姿をとらえたらしい。
全員、魔石を求めてきているのであろう。この国の冒険者は、朝野菜を収穫するかのように、職業として魔石を集めに魔物狩りに出るのが日課となっている。
「周囲に魔物の姿は無いわ。すでに狩られたか、あるいはもっと奥が生息域なのか」
「では、奥まで進みましょう。他の冒険者とかち合わないように注意ね」
魔物の横取りはご法度だ。時には協力して戦う事もあるが、冒険者パーティはそれぞれの距離を保ちながら狩りをするのが、暗黙の了解となっている。
さらに1時間ほど奥へと進む。
魔物の姿は見えるようになってきたが、他のパーティが戦っているようなのでスルーして進んだ。
「人が多いわね。いっそ、山まで向かった方がいいのかしら?」
「そうね……。だったら、この辺でお茶にしましょうよ」
2時間近く歩いて、少し疲れも見える。……兵士たちが。
周囲の安全を確認すると、テーブルを並べて、休憩をとる事にした。
クローム王国からの馬車での移動中に1ヶ月近くトレーニングし、体力が底上げされたうえに、武器を収納して軽装のルリ達と違い、全身フル装備の兵士は、疲れるのである。
「兵士さんもゆっくりなさって。警戒しなくても、魔物が近づけばわかるわ」
「セイラ様、ではお言葉に甘えて」
近衛騎士団は、そのほとんどが貴族の出身だ。
爵位は様々だが、文武に長け、王家に忠誠を誓う家柄で育ったものが修練を積み、初めて近衛の地位を得る。
当然、お茶の心得もある。
森の真ん中に出来上がる優雅な空間。
偶々通りかかった冒険者たちが、不思議そうな……白い目で見ていくのは、当然であろう。
「他の冒険者の実力も見たいわね」
「毎日狩りをしてるとしたら、かなり強いのかしら?」
「そうそう、ギルドでは魔術師っぽい人も多かったの。魔法使える人が多いのかも!」
クローム王国では、近接戦闘を得意とする冒険者が多かった。正確には、魔法をまともに使える冒険者は、ほとんどいなかった。
ルリとメアリーが見た冒険者ギルドの様子では、魔術師らしき服装の冒険者が多く、それなりに魔法を使える者が多いだろうと想像できる。
しばし休憩し、さらに奥へと進むと、少し上り坂になっているのを感じる。
山が近づいて来ているという事だろう。
「前方200メートル、戦闘中みたい。行ってみましょう!」
「わかった。邪魔しないようにね」
休憩からさらに2時間ほど歩いたところ、やっと狩場についたようだ。
他の冒険者の様子も、今までとは違い、戦闘モードになっていることが分かる。
「見てみて! 魔法で戦ってるわよ!」
「ホントだ。しかも、かなり強力ね!」
戦闘中のパーティを遠巻きに見ると、火や水の魔法で攻撃しているのが見えた。
威力もありそうで、オークが火だるまになっている。
(さすがに、呪文は詠唱するのか。でも、あんな威力の魔法、ミリア以外では初めて見たわ……)
今のミリアと比べるのは可哀想だが、出会った頃のミリアに近い、強力な魔法。
戦闘で決め手になり得る威力の魔法を他人が使っているのを、ルリは初めて見た。
「おいおい、こないだのお嬢様かい? こんなに奥まで来たら危ないじゃないか」
戦闘を終え、ルリ達に気付いた冒険者たちが近づいてくる。
ルリは覚えていないが、先日ギルドに居たパーティらしい。
「先日はお騒がせしました。全然魔物がいなくて、奥まで来てしまいましたの」
「手前はほとんど狩りつくされたからなぁ。でもこの先は魔物も多い。帰った方がいいぞ」
元々はもっと手前まで魔物もいたらしいが、毎日冒険者が押し寄せれば、魔物もさすがに減るであろう。
「でもCランクでしょ、この辺だったら大丈夫なんじゃない?」
「そうだな。護衛の兵士さんもいるみたいだし……」
『兵士と従者を連れて冒険者ごっこかよ……』
『魔術師3人か? 誰も武器持ってないとか死ぬ気か?』
『こら、聞こえるでしょ……』
奥でひそひそと話している声も聞こえる。
言われてみればその通り。どうみても未成年の魔術師らしき少女が3人とメイド姿が3人。
さらに、兵士が8人というパーティは、異様だ。
しかも、戦闘中ではないので武器は収納中。ミリアが杖を持っているだけだ。
冒険者ごっこと思われても納得できる。
「ご忠告ありがとうございます。もう少し進んで、無理なら帰らせていただきますわ。
それに、この先なら魔物がいるのですわね。情報、感謝します!」
少しイラついたのだろうか。ミリアが返事すると、先に進もうとする『ノブレス・エンジェルズ』。いずれにしても、ここで引く訳にいかない。
「待って、北に500メートル、オーク10。他に冒険者の姿なし、こっちに向かってるわ」
「了解! 戦闘態勢!! 行くわよ!!」
「「「はい!」」」
セイラの探知が魔物を捉えた。
それぞれ、収納していた武具を取り出す。
「出でよ~大盾~」
「メアリー、行くよ~」
背丈ほどもある大盾を目の前に出すと軽々と持ち上げるセイラ。
ルリも、メアリーの弓と自分用の双剣を取り出す。
今では、アイテムボックスの使い方にも慣れ、直接メアリーの手元に出現させる事が出来るようになっている。傍から見れば、メアリーが自分で収納から取り出したように見える。
『おい待て、何で魔物いるのがわかる!?』
『それにあの盾、どっから出てきた? しかも細腕で軽々と……?』
「弓と剣もだぞ!! このパーティ、全員収納使いか???」
『『『『『ありえねーだろ』』』』』
目を丸くする冒険者たちを後目に、走り出す『ノブレス・エンジェルズ』の4人。
アルナとイルナ、兵士も慌てて続く。
「距離100メートル、もうすぐ視認できますわ」
「
「
まだ距離があるが、メアリーの
ルリも、
「戦闘開始よ! 目的は魔石、殲滅するわよ!」
「「「おー!!!」」」
魔石は体内にあり、そう壊れるものではないので、思いっきり魔法を使っても大丈夫だ。
森の中なので火事だけ注意すればいい。ミリアが嬉しそうだ。
前衛として戦闘メイドのセイラ、アルナとイルナが並び、中衛にルリ。
ミリアとメアリーが後衛で、兵士もそこに並んでいる。
「行くわよ、
「
「
「突撃~!! うりゃぁぁぁぁ」
一斉に放たれる魔法攻撃。狙いは、胸のあたり、魔石のある場所だ。
さらに、メイド姿の3人が止めを刺そうと突撃する。
ビシュン
バシン
ズドーン
戦闘は一瞬。真っ二つになった10体のオークが残るだけだった。
『何なんだよ、あのパーティ』
『ま……魔法が浮いてる?』
『詠唱……してなかったよな……』
『メイドが前衛で兵士が後衛とか……どうなってるの?』
追いついた冒険者たちが驚いている。
ルリ達の戦闘風景は、魔導王国においても、非常識なようだ。
「強さは変わらないわね。魔石はある?」
「4センチくらいの魔石があるわ」
「普通のオークなのに、魔石はあるのね。不思議だわ……」
倒したオークを解体しながら、魔石を探すルリ達。
小さめではあるが、確かに魔石はあった。魔物の強さが変わらないとなれば、環境的な要因で、魔石が出来ると考えるのが妥当ではあろう。
「もう少し、様子を見てみましょう。次、行くわよ」
「うん、奥まで行ってみようか」
先に進もうとするルリ達に、後ろで唖然としていた冒険者が話しかけてくる。
「おい、待ってくれ。お嬢さんたち、本当にCランクか? 非常識すぎるだろ!!」
「クローム王国所属、Cランクパーティ『ノブレス・エンジェルズ』ですわ!!
お見知りおきを!!!」
厳密には、4人の冒険者パーティとお供のメイドと兵士なのだが、まぁいいだろう。
高らかに宣言し、山へと向かって歩き出す、ルリ達であった。
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