第156話 メイド服
魔導王国イルームの宿にて商業ギルドのギルドマスター、シブルセとの会談を行った『ノブレス・エンジェルズ』の4人。
シブルセを見送った後、会談の内容について振り返りを行っていた。
「どうだった? 私の交渉、上手く出来たでしょ!」
「私は満足よ。でも良かったの? メルヴィン商会ばっかり儲かる話になってるけど……」
「30点ね、結局何も決まってないわ」
「あら、私としては100点よ。全て曖昧に収まってるもの」
ルリが職人たちと魔道具の勉強会を行う事で、メルヴィン商会の魔導王国進出に協力してもらえる。
メアリーとしては、得するだけなので全く問題がない。
ミリアは、交渉の進展を期待していたようだが、魔道具をクローム王国に流通させるという点においては、むしろ交渉が後退した感もあり不満げだ。
さらに、勉強会で何を話すかはルリの裁量次第なので不確定。メルヴィン商会が出店許可を得られるかについても、商業ギルドは前向きに協力するだけで、許可が得られるかは不確定。つまり、何も決まっておらず、曖昧だ。
セイラとしては、適当に何かが決まって今後の交渉に影響が出るよりも、むしろ、曖昧で終わった事を歓迎するらしい。
「あれ? それって、交渉失敗……?」
「失敗ではないわよ。新しい情報もあったし、導師を紹介してもらえるのだから、進展してるわ」
情報収集という意味では成功だ。
元々、今後の予定を決めるための摺り合わせだったのだから、重要な交渉がなくとも問題ないのである。
「とりあえず、シブルセさんの身辺は調べてもらいましょう。本人は独立性を主張していたけど、導師との癒着や黒い噂がないのか。信頼するかどうかは、その結果次第よ」
セイラが諜報の兵士に調査を依頼する。
相手は商売人を取り仕切る猛者であり、話した全てが演技という可能性だって捨てきれない。その辺の見極めは、ルリには難しい。
「それで、ルリは何を話すつもりなの? 魔道具の職人と話したとして、魔道具の作り方とか聞かれても答えようがないでしょうに……」
「うん、それなら大丈夫。私の元の世界……夢の世界の便利道具で、火や水、風の組み合わせとかで再現できそうな道具の事を伝えるわ」
例えば、お湯を出す魔道具が設置されている浴槽に、風の魔道具を加える事でジャグジーになる。
ドライヤーも、今はやたらとデカいが、風の出口を狭める事でコンパクトでも強い風を出せるようになる。
今ある道具の組み合わせだけでも、便利な道具はいくらでも作れるのだ。
「何そのジャグジー? マリーナル領の温泉に合った泡風呂が家でも再現できるって事? ぜったい売れるわよ!!」
「ドライヤーも、コンパクトなら家庭に普及するかもね!」
新しい魔道具の説明をすると、ミリアもメアリーも想像できたようだ。
便利そうな道具に、目を輝かせている。
「そのくらいなら、伝えてもいいかもしれませんわね。歴史が変わるようなことは、控えるのですよ」
「分かってるわ。そういう魔道具を提案するのは、クローム王国に有利になるように交渉できた後ね」
どこまでが歴史を変えるネタなのかが微妙ではあるものの、便利な魔道具が開発されて魔導王国だけが発展するような事態は、避けなければならない。場合によっては、力をつけて攻めてくるなんて事だって、有り得るのだから……。
テレビやラジオなどの情報媒体、それに電話などの通信手段、車や電車、飛行機などの移動手段は、開発されれば確実に歴史が変わるであろう。
地球ですら、それらの開発と戦争は同時に発展……むしろ、戦争を行う為に技術が発展したようなものであり、同じ歴史を歩む事は、絶対に避けたい事だ。
「勉強会は3日後なのよね。シブルセははっきり言わなかったけど、導師シェラウドは来るかなぁ?」
「どうでしょう。しばらく様子見、まだ直接の接触はして来ないと思うわ」
セイラの見立てでは、ルリとの接触はまだ先だろうとの事だ。
したたかな人物らしく、商業ギルドや職人とのやり取りの中で実力を見極めた後、動くのではないかとセイラは予想した。
「それに、シェラウドの目的がわからないわ。純粋に魔道具の技術を発展させる為にルリを呼んだのなら、シブルセの話でも好意的に語られると思うの。でも、そうではなかった……。という事は、別の目的も、裏にはあると考えるのが妥当……」
「セイラの言う通りね。わたくしも、あの方には裏があると思う。どのタイミングで接触しても大丈夫なように、心構えしておくのよ」
「わかったわ」
敵国という程ではないが、いつ危険が迫ってもおかしくはない。
常に4人一緒に行動する事を原則として、危機管理を確認するルリ達。
「ルリがメインで動く時は、他3人が護衛として同行、ミリアが王宮に呼ばれた時は、他3人が従者としてついて行く、それでいいわね」
「うん。でもさ、従者って、服装どうするの? セイラは、騎士でもメイドでも変装できるけど……」
「変装じゃないわ。メイド服は私の制服です!!」
「あわわ、ごめんセイラ、そうよね、制服……知ってたわ」
「で、ルリとメアリーの服装……。もちろん、メイド服よ!!」
「「えぇぇぇ」」
王宮での謁見において、冒険者が護衛につく事は有り得ない。
一緒に王宮に入れるのは、呼ばれた本人と従者程度であり、ミリアの護衛を全員で行うとなれば、必然的に、ルリとメアリーはメイドに変装する事となる。
その後、服の仕立て直しもあるからと、メイド服を着せられるルリとメアリー。
「ところで皆様? 4人でメイド服をお召しになって、どうしましたの?」
「え? えぇと、……王宮に呼ばれた時の練習?」
「「はい……?」」
なぜかミリアも含め、4人ともメイド服になっている。
クローム王国から付き従って来たメイド達含め、きゃっきゃと騒ぐ『ノブレス・エンジェルズ』の4人であった。
「そうだ、時間あるし、明日は狩りって事でいいのかしら?」
「うん、魔石獲れるか実験だね」
メイド服騒ぎが収まり、落ち着くと、ふと冷静になる。
勉強会までは3日あり、決まった予定は入っていない。となれば、魔物の狩りに行って、直近の関心事項である魔物討伐を行うのが必然だ。
「狩場は聞いてるの?」
「王都から1時間くらいの、北東の森がおすすめですって。ただ、山まで行くと魔物が強くなるから近づかない方がいいって言ってたわ」
「それって、山まで行けって言われてるようなものじゃない?」
「まぁ、状況次第でね。山までは半日、下手すると現地で夜になるから、日帰りならやめた方がいいわ」
「日帰りなら……ね……」
戦闘狂という訳ではないし、別に山に宿泊したい訳でもない。
ただ、魔物の生態や魔石の具合の違い、原因が分からなければ、先に進む必要があるというだけである。
「アルナとイルナ、それから兵士さん何人かにも一緒に来てもらいましょう。野営の見張りとか、お願いしたいし」
そもそも、お世話や護衛対象の4人が外に出るというのであれば、従者や兵士が王都に留まる理由すらない。かと言って、兵士を100人も連れて行っては、邪魔である。
戦えるアルナとイルナ、それに、数名の兵士だけを護衛として連れて行く事にする。
どっちが護衛なのか……。むしろ、ルリ達が兵士を護衛しながら動く事になるのは、言わないお約束である。
「それじゃぁ、明日は早めに出発ね!」
「「「おー!!!」」」
長ければ1泊での狩り。通常であれば野営の準備などで忙しくなるのだが、便利なルリがいるので、食料を少し増やす程度で出発できる。
早々に支度を整えると、早めに就寝につくルリ達であった。
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