第154話 魔導王国の闇
魔導王国イルームの王都にて活動中の『ノブレス・エンジェルズ』の4人。
冒険者ギルド中心に街の散策を行ったルリとメアリー。
そして、王宮にて国王との謁見を行ったミリアとセイラ。
ルリ達が宿に帰ると、ミリア達も、ちょうど戻った所のようだった。
「何ですの、あの人は? わたくし、気分が悪いのを通り越して憎しみすらもってしまいましたわ!!」
「ちょ、ちょっとミリア? どうしたの?」
余程、気に入らなかった事があったようで、ミリアの機嫌が明らかに悪い。
なだめるセイラも、困り果てた様子だ。
「ルリは安心なさって!! 絶対に渡さないって言い切ってやったわよ!!」
「私? 私の事で、こんな事になっちゃってるの?」
「あぁ違うのよ……。国王様がね、冒険者ルリを差し出せとか言うものだから、ミリアが怒ったの。でもそれは、些細な事よ……」
セイラが説明するには、ミリアが怒っているのはルリの事が原因ではないらしい。
国王の主張は、冒険者なのだから国が庇護するのはおかしいというもの。それを、子爵家の跡取りだからと一刀両断にしたそうだ。
多少、会話が平行線になったりもしたが、断ると言って出てきてしまったそうだ。
「大丈夫なの? 親善大使なのに……」
「平気よ。そのくらいのパフォーマンスは必要だわ。それに、ミリアの気持ちも分かるの。本当に、うざったい人だったから……」
問題は、国王の態度だ。いかにも自分が偉いと言わんばかりの上から目線、そして、それが気持ち悪く見えてしまう容姿……。
「例えばさ、レドワルド国王やアレク王子が同じ事を言ったら、ここまで不快には思わなかったと思うのよ。私も……」
人の態度や容姿の事なので、セイラも最後まで言おうとしないが、雰囲気は分かった。
(あぁ、余程キモい男だったのね……。相手も……気の毒ね……)
一応、使者としての役割は存分にこなしてきたらしい。
相手が気持ち悪い人物だろうが、仕事は仕事だ。
ルリの差し出しを拒否した以外は、ミリアの対応に問題は無かった。
ただ、二度と話したくないという思いだけは胸に秘めて帰ってきたため、宿につくなり爆発したようだ。
「兵士さん、ちょっといいかしら? 国王の噂とか、中枢部の体制、調べておいてくださる? まさかここまでとは、わたくしも思ってなかったので……」
国王の事は、ある程度は事前情報で知っていた。しかし、内情については、気にかかる部分もあったようだ。諜報活動が得意な兵を呼びつけると、調査を依頼する。
やっと、冷静に話せるようになったミリアに、セイラが諭す。
「ミリア、気は済んだ? 仮にも国王様ですからね、外では態度に出しちゃダメですよ」
「分かってますわ。全力で我慢しましたから、先方も気分よくいらっしゃるはずですの!!」
「ミリア、頑張ったんだね……」
話を聞いただけでミリアの苦痛がわかってしまい、思わず同情する。
イルーム国王は、まだ若く、20歳に満たない年齢だそうだ。
容姿はお世辞にも整っているとは言い難く、それを指摘する事はこの国のタブーとなっている。
もしルリが国王を見たら、不細工を売りにする芸人が特殊メイクをしたとしても、ここまで酷い姿にはならないと驚いたかもしれない。
そんな国王。王族の血筋と言うだけで、この国においては何の役にも立たないお飾りと言うのが大抵の評価だ。
その為、期待もされなければ必要な教育で知識を得る事も無かった。
ただ毎日、好きなものを食べ、運動もせずに寝る暮らし。結果、今に至る。……ある意味、可哀想な人である。
唯一、面白がったのが新しい魔道具で遊ぶこと。
隣国の冒険者が、魔道具に明るいとの噂を聞き、早速呼び寄せる事にしたのは、想像に難くない。
「国王の人となりは分かったけどさぁ、この国の政治は、誰が行ってるの?」
「12人の導師と呼ばれる人よ」
普通の疑問、国王がお飾りのぼんくらであれば、他に権力者がいるはずである。……よくある事である。
それが誰かと聞くと、如何にもな呼び名が出てくる。
ルリの召喚状に署名があったシェラウドも、その導師の一人らしい。
今日のミリアの謁見の際にも、全員ではないが導師がずらっと並んでいた。
「今後は、その導師、シェラウドって人と話すの? 私たちの目的は、この国の権力者と仲良くなって、友好関係の絆を作ることなんだから、国王と話さなくてもいい訳で……」
「それが厄介でね……」
国王と話す必要は、もう無いのかも知れない。
しかし当然、12人の導師には権力争いがある。シェラウドという導師に取り入る事で、他の11人と反発する可能性もあるのだ。
導師の上下関係を見極め、適切な立ち回りが求められるというのが、セイラの見解だ。
「権力争いにだけは巻き込まれないように注意しないと……」
魔導王国の攻略ポイントは、導師の理解を得られるかが重要だ。
セイラとしては、導師の何人かでも味方につけ、今後の交渉事の足掛かりになればと期待していたのだが、今日の話では、そのきっかけすら掴めなかったそうだ。
「面倒ね……。他の導師は、どんな感じなの?」
「情報は少ないわ。どの導師も一筋縄ではいかない感じ。確かなのは、必ずしも貴族ではないという事。軍上がりとか、成り上がった商人とかも幅を利かせているみたいよ」
(ある意味、民主制なんだ……。意外ね……)
実際には、金か武力で権力を掴んでいるので、民主主義とは程遠いのであるが、クローム王国とは違う文化に驚くルリ。
「誰か、仲良くできる人がいるといいけど……」
「難しいわね。簡単に言うとね、民の事なんて誰も考えてないのよ。それぞれの利権しか見てないの」
言葉の上では民の為などと嘯きつつも、実際には自分の利益しか考えない政治家など、どこの世界にも溢れている。しかし、ここでは、全員がその状態。
とてもとても、親善をはかる雰囲気ではなかったというのが、ミリアとセイラの結論だ。
「全員ダメって事か……」
「どの導師と接触するにしても、細心の注意を払う必要があるわね」
「シェラウドって人とは必ず会うだろうからね。気をつけるわ……」
(どの導師も、何か泥臭い裏がある……という事ね……。関わらないようにしなきゃ……)
事情がどうあれ、他国の政治に口を出すつもりは無い。
しかし、この国では魔道具は重要な役割を占めており、ルリが導師と接触を持つ可能性は高い。
くれぐれも一人で行動しないようにと、釘を刺されるルリであった。
「そう言えば、そっちの収穫は? 冒険者ギルド行ったんでしょ?」
「うん、冒険者の様子、見てきたよ。何て言うんだろ、みんな、魔石回収に特化してるの。だから、冒険者は魔石を取る職業みたいになってる」
「え? じゃぁ、この辺りの魔物は魔石が獲れるほど強力なの?」
「そうでもないみたい。オークとかでも魔石が獲れるんだって」
ミリアとセイラの認識でも、魔石は強い魔物からしか獲れないはずである。
クローム王国とは、魔物の生態が異なるのか、あるいは土地の魔力など環境が異なるのか……。
「時間ある時に、狩り行ってみようか。本当に魔石が獲れるのか、興味があるわ」
「そう言うと思ったわ。常時依頼とか、魔石の買い取りとかは話聞いてきたから、いつでも行けるわよ」
「決定ね。いつ行けるの?」
「そうだった。商業ギルドの人がスケジュール調整で来るはずなんだけど……」
メイドのアルナに確認してもらうと、明日の朝、担当者が来るとの事だった。
「当面の予定。ルリは、魔道具の件に集中。特に、裏で絡んでる導師に注意ね」
「わかったわ」
「私たちは、他の導師の情報をつかみましょう。無茶はしないように」
「それで、空き時間は狩りって事ね!!」
魔導王国への滞在は、最大1か月程度を予定している。
ルリ次第な部分もあるが、時間は充分にあるだろう。
権力争いに巻き込まれないようにと言いつつ、魔導王国の暗部へと、着実に近づきつつある、『ノブレス・エンジェルズ』の4人であった。
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