第153話 魔石
翌朝。
魔導王国イルームの宿にて目覚めたルリ達は、それぞれの準備を整えていた。
王宮に向かうミリアとセイラ、そして、街に出ようというルリとメアリー。
「ミリア、頑張って!」
「ルリ達も、捕まらないようにね!
「お互い、気をつけて行動しましょう」
「「「おー!!!」」」
ミリアの王宮行きは午後らしく、まだ時間がある。
先にルリ達が宿を出た。
メイド兼護衛のアルナとイルナ、それに騎士が数名一緒である。
「適当に歩きながら、冒険者ギルドを目指しましょうか」
ギルド行きを想定しているので、服装は冒険者らしくした。
ただ、派手だと言われたので、黒い大きめのローブを上からかぶっている。
これはこれで、目立つのではあるが……。
クローム王国のような街の喧騒はなく、整然とした印象の街並み。
歩く人々も、大人しそうに見える。
「隣国から訪れた冒険者、しばらく滞在する予定という設定でいいのよね?」
「そう。どうせバレるから、貴族……高位の身分の令嬢が冒険者をしてるって感じでいいわ」
冒険者の身分であれば、ある程度の自由は認められるはずである。
目立たないように、街中ではただの冒険者の振りをするというのが、メアリーの作戦だ。
従者と騎士が後ろをピッタリと付いて来ている、少女二人。
立ち振る舞いやオーラが、メアリー含め、どう見ても貴族にしか見えない少女二人。
どう見ても貴族にしか見えないルリとメアリー。
目立つなと言う方が難しいのだが、リスクは避けておきたい。
チロリン
冒険者ギルドを見つけ、ドアを開けるルリ達。
国家を超えた機関、冒険者ギルドでは、どこの国に行ってもベルの音は同じらしい。
いつも通り、鋭い視線にさらされる。
明らかに未成年な少女二人の来訪は、場違い感この上ない。
後ろからメイドと騎士が顔を出すと、視線が消える。
令嬢がお忍びで立ち寄り、もしくは、依頼者として訪れたと思われたのであろう。
「とりあえず、依頼見てみようか?」
絡まれたりしない事を確認すると、奥の依頼ボードへと進む。
ギルドにたむろっていた冒険者たちの視線が、再びルリ達に集中。
まさか、依頼を受けるとは思ってもみなかったのであろう。
『依頼、受けるのか?』
『いや、さすがにそれはないだろう』
『従者もいるしな、止めるだろうよ』
『ちっ、観光地じゃねぇんだよ、ここは……』
護衛騎士付きの令嬢に正面切って絡む冒険者はいなかったが、ひそひそと話す声が聞こえる。
もちろんルリとメアリーは、そんな声はお構いなしだ。
「みてみて、魔石回収の依頼ばっかり!!」
「ホントだ!! でも、オークとか、魔石獲れたっけ?」
「おいおい嬢ちゃん、そんなことも知らないで、魔物を相手しようってのか?」
「そうよ。危ないからやめておいたら? お連れさん達も、何か言ってあげてよ」
魔石依頼の多さに驚くルリ達。
そこに、親切心なのか、周囲の冒険者が話しかけてくる。
(魔物の生態も違うのかなぁ? オークの魔石なんて、ほとんど出た事ないのに……)
魔石は、魔物を討伐した際に稀に獲れる。
魔力の強い……上位の魔物から獲れやすく、オークなど弱い魔物では、体内に魔力が貯まらないのか、魔石はほとんど出てこない。
「あの、オークなどを倒しても、魔石が獲れるのですか?」
「そりゃそうだろ。魔物を倒せば、中に魔石があるのは常識だ。嬢ちゃん達、魔物と戦った事ないのか?」
むしろ心配されるルリ達。
依頼を受ける事は諦めて、早く用件を済ませるようにと言われる始末だ。
「ありがとうございます。勉強になりました……」
悪気が無い事は分かっているので、軽く礼をすると受付へと向かう。
今は、無理に言い争う場面ではない。
「いらっしゃいませ。冒険者ギルド、魔導王国イルーム王都支店へようこそ。
本日はご依頼ですか?」
「いえ、まだ王都に着いたばかりでして、とりあえず情報収集にと……」
「そうですか。先ほど依頼ボードをご覧になっておりましたが、依頼を受けるには冒険者の資格が必要でして……」
「あ、その点は大丈夫ですわ。一応、冒険者ですので」
そう言い、身分証を提示するルリとメアリー。
「拝見します。えっ? いえ、失礼しました。Cランク冒険者のルリ様とメアリー様ですね。確認いたしました。
もし依頼をお受けになる際は、依頼書をお持ちになってください」
一度興味を失いそれぞれの席に戻っていた冒険者たちであるが、冒険者と言う単語が出たことで、グワッと顔を上げ、ルリ達を見つめる。
『おい、Cランクって言ったか?』
『そう聞こえた。駆け出しでもねぇのかよ』
『どうみても未成年だぞ、天才系か?』
ギルドにたむろする冒険者の注目を一手に集める、ルリとメアリーであった。
「いくつか、お聞きしてもよろしいですか?」
「はい、もちろんです」
「魔石って、依頼が出てるもの以外でも買取してくれるのでしょうか。それと、この辺りの魔物は、弱い魔物でも魔石が獲れるのですか?」
周囲のざわめきが収まるのを待って、ギルドの受付嬢に質問を投げるルリ。
ヒュドラにデビルベア、コカトリスや黒蛇……。最初にこの世界に飛ばされた時、森の泉で無我夢中で魔物を倒し、入手した魔石が、アイテムぼっくにはまだ残っている。
他にも、
「はい、お買取りさせていただきますよ。魔石がございましたら、ぜひ買取カウンターまでお持ちください。
魔石が獲れるかに関しては、余程弱い魔物でない限りは、たいてい魔石は見つかります。小さいと見逃しがちですから、注意してくださいね」
(今まで魔石を見逃していたのかなぁ? そんなはずないのだけど……)
何度も魔物は解体しているので、魔石を見逃すとは考えられない。
思わず顔を見合わせるルリとメアリー。
(魔物の種類が違うのか、土地の魔力が強くて魔石ができやすいのか……)
「「要調査ね」」
簡単に魔石が獲れると言うのなら、狩ってみるのが一番早い。
滞在中に魔物狩りに行こうと、意見が一致するルリとメアリーであった。
その後、魔物の生息場所や強さなどの情報を聞き、冒険者ギルドを後にする。
Cランクパーティであれば、この辺りの狩りに問題は無さそうである。
「ねぇルリ、手元の魔石は売っちゃうの?」
「ううん。売らないわ。作りたい魔道具があるの。その材料にとって置くわ」
移動手段としての自動車または飛行機、それに通信が出来る道具、つまり電話。それに、テレビやラジオ、レコードなど、欲しいものはたくさんある。……あり過ぎる。
実現の可否も含め、魔導王国の滞在中に、何かしらの結論は出るであろう。
もし作れるのであれば、強力な魔石が必要と思われ、その時に、手元の魔石は使用したいと思っていた。
「便利な道具、作れるといいわね」
「頑張るわ!!」
ルリの夢想する道具については何度が聞いているが、想像が出来ないメアリー。
ただ応援する事だけを伝えると、それ以上は追及せずに、見守ることを決めるのであった。
夕方頃まで、街をさ迷って、宿に戻る。
魔道具で便利ではあるが、今日立ち寄ったお店を見る限りでは、人の暮らしはクローム王国とそう大きくは変わらなかった。
むしろ、自由がある分、クローム王国の方が生き生きと暮らしているかのようにも感じる。
それほどまでに、この国の締め付けは厳しいらしい。
便利で楽できるものの自由のない国か、不便さもあり苦労はあるが自由な国。どちらを選ぶのかは、難しい所だろう。
(冷蔵庫とかエアコンとかくらいは教えてあげてもいいかなぁ。オーバーテクノロジーって言われちゃうのかなぁ……)
風と氷の魔法を使えば、冷蔵庫やエアコンくらいは作れそうである。
似たような魔道具はあったが、構造が悪いのか、あまり実用的に仕上がっていない。
例えば冷蔵の魔道具は、ただ冷えるだけ。
空気の循環や密閉性が考えられていない為、効率が悪いし、すぐに霜がついてしまう。
ちょっとした工夫だけでいい商品に仕上がりそうな魔道具が、お店には並んでいた。
便利の為なら自重するつもりのないルリであるが、少し慎重になるのであった。
宿に戻ると、ちょうどミリアが王宮から帰ってきた所だった。
明らかに機嫌が悪そうに見える。
「わたくし、あれは生理的に受け付けませんわ」
「気持ちは分かるけど、使者なんだからね」
「でも、あのデブ……いえ、あの態度が……」
怒るミリアをセイラがなだめている。
話しぶりから察するに、国王がよほど気に入らなかったのであろう。
「ちょっと、何があったの?」
心配して駆け寄るルリとメアリー。
その後、一晩中ミリアの愚痴を聞き続ける事になったのは、言うまでもない……。
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