第152話 魔導王国

 魔導王国イルームの、最初に立ち寄った街にて、散策を楽しむルリ達。

 街並みの違い……魔道具を存分に活用した街並みに驚く。


(街灯が多いなぁ。それに……)


 決して繁盛しているようには見えないような小さな露店でも、火や水の魔道具を設えて店舗を構えている。

 共同の井戸などを水場にしているクローム王国とは大違いだ。

 各家庭への普及率も、相当高いのだろうと推測される。



(国が魔道具の利権を主張したりしなければ、この世界はもっと豊かになるのだろうに……)


 魔道具を独占し国外への持ち出しに制限をつけようとする魔導王国の姿勢に疑問を感じるルリ。

 高い手数料……関税のようなものがなければ、クローム王国、それに帝国へも魔道具が広まるであろう。


「ねぇ、何で魔導王国は、魔道具を独占しようとしてるのかなぁ」

「自国を豊かにするため?」

「でもさぁ、税率を適度な所に抑えて、国外と貿易した方が儲かる気がするんだけど」

「国外に売れる程、魔道具は数を作れないとか?」


 真意は直接聞いてみないと不明だが、何かしらの理由があって、魔道具が国外に流れにくくなるような政策を取っているのは間違いない。



「国王と話す際に、クローム王国に魔道具を安く流してもらえないか、聞いてみますわ」

「うん、文官の方々にも相談しておきましょう」


 通商交渉などはミリアの担当では無いはずなので、文官にも状況を伝え、改善を図ろうと話すルリ達。今日始まった制度ではないので文官たちは承知していることかもしれないし、その改善のための交渉は、既に行われている可能性が高い。

 早速宿に戻り、打ち合わせを行うのであった。




 魔道具が豊富な、魔導王国の宿は、クローム王国では考えられない程に快適だった。


「お湯の出がいいわね。それに、灯りが豊富だから明るい……」

「これは何? 風が出てくるけど……ドライヤー?」


 入浴後、設備を前に騒いでいるルリ達。

 メアリーが見つけたのは、昔の美容院にあったような、頭をすっぽりと覆うタイプのドライヤーだ。

 ルリ達は、普段から風魔法をドライヤー代わりに使っているので、魔道具としてのドライヤーを見たのは初めてだった。


「こっち来て!! マッサージの椅子もあるわよ!!」


 ツボなどの医学的な知識は広まっていないのであまり気持ちよくはないが、マッサージチェアらしき椅子もある。座ってみると、身体が壊れそうに痛い……。


(魔道具で回転とかの動きも出来るのかぁ。やっぱり、モーターみたいなのがあるのかなぁ……)


 火や水、風邪を出す魔道具であれば、魔法を詰め込んだのであろうと想像がつく。しかし、回転運動などを行う魔道具は、クローム王国では見た事がなかった。

 原理は不明なものの、モーターのような動きが出来るのであれば、ルリの目指す、自動車などへの応用も期待できる。


「ちょっとルリ、壊さないでよ!!」


 動く原理が知りたくてマッサージチェアを裏からのぞき込むルリ。

 ひっくり返してカバーの布をはがそうとした所で、待ったがかかる。


「これ、どうやって動いてるのかなぁ」

「そりゃ、魔法で動いてるんでしょ?」


 結局、中身を見ることは出来ず、分からずじまいで終わるのであった……。





 魔導王国イルームの王都到着までは、その後も何度か街に立ち寄りながら進む。

 事件も無ければ、収穫も無し。

 魔道具店に立ち寄っても不思議な道具を目にするだけで、作り方など不明なままだ。

 また、お店で売られているのは生活に密着した魔道具中心で、想像を超えるような物はなし。


(ネコ型ロボットみたいな不思議道具はさすがに存在しないかぁ……)


 少しだけ期待していたのであるが、どこにでも行けるドアや、頭に付けるだけで飛べるような便利道具は存在していない。

 さすがに、そんな道具があれば、文化が変わっているであろう……。





「あと数時間で、王都到着となります。お着替えお願いします」


 結局毎日、運動を欠かさずに行って来たルリ達。

 街に出る時以外は運動着で過ごしていたため、ドレスに着替えなおすように言われる。


 なお、ゆっくりとであれば、1時間のジョギングも余裕で走れるくらいに、成長している。

 出発前と比べて、明らかに体力がついたようだ。


「着いたらどこに行くのかしら?」

「宿が準備されておりますので、まずはそこに。追って、王宮へ向かう段取りとなっております」


 王都でも最高級の宿が準備されているらしい。

 隣国からの公式な使者なので、最上級の待遇となっている。


 本日は宿にて待機、明日、ミリアが王宮へと挨拶に向かう予定と聞く。

 同席するのは、セイラと文官たちだ。


 ルリは、しばし自由時間と言われた。

 商業ギルドの担当者が、スケジュール調整の為に訪ねてくるとの事で、予定はこれから決まる。


「メアリー、明日時間ありそうだし、街に出てみない? 冒険者ギルドとかも行ってみたいし」

「いいよ。私も、街で売ってる商品とか、どんなものがあるのか調べておきたいわ」


 ミリアとセイラが羨ましそうな顔をするが、王族の仕事が優先、仕方がない。

 4人揃って出かけられる機会もあるであろうと、納得してもらう。





 門を入ると、クローム王国の王都に引けを取らない立派な街並み。

 道の両側には兵士が一列に並び、通行を規制している。


 物珍しさなのか足を止めて使節団一行を眺める者もいるが、特に歓迎のムードなどではなかった。


「なんか寂しいわね」

「他国だし、仕方ないわよ」


 唯一目を引くとすれば、最も目立つ馬車に堂々と乗車するミリアだ。

 どこのお姫様かなどと小声で話すらしき声も聞こえてくるので、気付いた人も多いのであろう。


 この国の文化なのか、単に興味がないのか……。とにかく静かな雰囲気の中、通りの真ん中を進む一行。

 ルリとメアリーは、適度に手など振りながらも、大人しくしているのであった。



「着いたわねぇ」

「長かったわ……」


 とにかく、魔導王国イルームの王都に到着だ。

 宿の部屋に入ったルリ達は、長旅から解放されて一息ついていた。


「それにしても、街、静かだったわよね」

「軍の統治がかなり厳しいそうよ。歓声あげたりしちゃいけないみたい」

「そうなんだぁ。堅苦しそうな国ねぇ……」


 街の雰囲気に違和感を持ったセイラが、先に情報を集めてくれていた。

 魔道具の扱いで規制がある以外にも、住民の暮らしにはいろいろと制約があるらしい。

 軍隊が常に目を光らせているようで、窮屈な国のようだ。


 クローム王国と比べると自由が制限されているので、街を出歩く時は、騒いだりしないように注意しろとの事だった。


「具体的に、何がダメなの?」


「例えば、派手な服装がダメだったり、食べ歩きがダメだったり……」

「なにそれ? それで、違反するとどうなるの?」

「軍人に見つかると、最悪捕まっちゃうみたいよ……」


(なんか、校則みたいね……。しかも風紀委員がいるとは……)


 サッと聞いただけでも、くだらない規則が多い。もちろん、統制の為には必要なものもあるであろうが、行き過ぎた規制は、人の自由を損なう場合もある。


「他国だから従うけど、面倒な国ね」

「とにかく、軍人には近づかない事。それに限るわ」


 見つからなければいい、という訳ではないが、トラブルは避けるに限る。

 行動に注意し、軍人はとは絡まない事。

 ルールを確認し合う、『ノブレス・エンジェルズ』の4人であった。

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