第145話 領主代行
「アメイズ子爵家は、王家の管理下に置くものとする」
エスタール帝国との論功報酬を祝う式典にて、アメイズ領内での不祥事の処罰を言い渡され、俯くルリ。
処罰を受ける事は想像していたが、アメイズ領の自治権が否定される程とは思っていなかったため、衝撃を隠せない。
「はっはっは。リフィーナ、面を上げぃ。そなたは、世界を巡るのであろう? 立派に成長して、領主として戻って来い。それまでの一時的な処罰である」
アメイズ領都にて墓参りをした時の話を、ミリアが伝えたのであろう。
ルリの先祖、アメリの言葉と思われる、世界を巡るというお告げ。
それを実現してから領主になれと言う、国王の寛大な処罰であった。
「第2王子、アレク、ここへ」
「はい」
「リフィーナが跡を継ぎ領主になるまでの期間、そなたをアメイズ領の領主代理に命ずる。婚約者や側近、従者も連れて行って構わぬ。発展途上の面白い領だ、勉強してこい!」
王宮で数度顔を合わせた事のある第2王子。ミリアのお兄さん。
ルリが、領都の改革をいろいろと推し進めている事は、当然聞いている。
国王としては、アメイズ領の跡継ぎ、つまりルリの婚約者として人を派遣したかったのであるが、人選が余りにも難航する為、王国の今後を担う王子に、ルリの知恵を学ばる方針をとったようだ。
「それから、第三王女ミリアーヌ、コンウェル公爵家のセイラ、以上2名には、アレクの補佐としてアメイズ領主および次期領主を監督する事を命ずる。
共に、世界を巡るがよかろう!!」
アメイズ領都には第2王子アレクとその側近が入り、領政を代行。
さらに、ミリアとセイラはルリの監督役……実質的にはルリと一緒に行動しろと命令された事になる。
表向きは子爵家に対して取り潰しに近いような処分を下しながらも、実際にはルリが成長するまでの一時的な処分。
ルリを囲い込みたい王家の思惑が見事に反映されているものの、アメイズ子爵家にとって悪くない状況である。
これを機にアメイズ領に人を送り込もうと狙っていた他の貴族家にとっては、第2王子という切り札の投入で、押さえつけられた形だ。
「ありがとうございます……」
涙ながらに、国王に頭を上げるルリ。
監督責任の処罰としては、聖金貨1000枚の没収と、王家の監督下に入るという処分は、決して軽くはない。
周囲の貴族からも同情が集まる。
当のルリは、処分の重さよりも、ミリアやセイラとまた一緒にいられる喜びに浸っていただけであるが……。
一度控室に下がったルリ。
そこに、ミリアとセイラもやって来る。
冒険者としての謁見がある為だ。
「ミリアぁ、セイラぁ、またずっと一緒にいられるねぇ。
王家の傘下とか言われた時はドキドキしたよぉ」
「しかも、子爵家の領主を継ぐまで、わたくし達がルリの監督をするのですから……」
「それまでは、一緒にいられるという事ですわ!!」
ミリア、セイラに抱きつくルリ。
学園卒業後の活動も保障された事を、3人で喜ぶ。
「ね、ね、何があったの?」
謁見の間にいなかったメアリーはきょとんとした表情で3人を見ていたが、話を聞いて満面の表情を浮かべた。
「私も、一緒でいいよね。監督する側でも、される側でもいいから……」
「当然ですわ。4人はずっと一緒ですの!!」
一緒に世界を巡ろうと決意を固めるのであった。
その後、謁見の間に呼ばれるルリ達。
「次、冒険者パーティ『ノブレス・エンジェルズ』、前へ」
「「「「はい!!」」」」
「戦時における多大な貢献により、聖金貨1000枚を与える」
『『『ぉぉぉぉ』』』
4人並んで報酬を受けるルリ達。
冒険者としては異例の多額な報奨金に、貴族たちにどよめきが生まれる。
しかし、街道で敵部隊を打ち破った話や、籠城するゼリスへの物資の輸送と兵の治療。さらに、兵を鼓舞し、勝利に導いたという功績は、王都にも報告が入っていた為、誰もが納得の論功行賞であった。
「これからも、王国の為、民の為に尽くすように」
「「「「はい!!」」」」
無事に式典を終え、午後は国王が時間を作ってくれるというので打ち合わせを行う。
今回からは、第2王子のアレクも同席する事となった。
学園都市の件があるので、冒険者ギルドのウリムも、第2学園のグルノールも集まってくれている。
(王子様と一緒に領政を行う事になるのかぁ……。決まった事だから仕方ないけど……)
自分たちよりも遥かに身分の高い領主代行を迎える事になり、アメイズ子爵家は困惑を極めるであろう。しかし、王家の意向とあってはどうしようもない。
「アメイズ領の話は、ミリアーヌからいつも聞いているからね。一時的とはいえ、しっかりと統治させてもらうから安心してよ」
「アレク様、ありがとうございます。この度は、よろしくお願いします」
初対面と言う訳ではないものの、少し緊張した様子のルリ。
第2王子アレクは、気丈に話しかけてくれる。
何とか現在行っている領政の話を説明し、理解を得た。
「平民の代表が集まる委員会か。ミリアーヌが仲良くできるのだから、僕だって大丈夫なはずさ。任せてくれ!」
少し調子のいい性格なアレクに心配になるが、わざわざ移り住んでくれるというのだから、文句は言えない。
いつも以上に熱心に、想いを伝えるルリであった。
「それで、ここから本題です。メルダムの街について、ご相談があります」
国王の目を真っ直ぐに見据え、学園都市の構想を説明するルリ。
ウリムやグルノールも、適度に補足してくれる。
「貴族中心ではなく学園を中心に発展する街か。教育の方針には王家からも口を出させてもらうぞ。その為には、教育者の選定が重要になるな……」
学園の創設や街づくりに関しては、国王も同意してくれた。
ただ、教育者の人選には注意するようにと言われる。確かに、王国に反逆しようとするような者が育ったりしたら、たまったものじゃない。
ノブレス・オブリージュを教育の本筋に置き、王国の発展、世界の発展に寄与する冒険者の育成、それが出来る教育者が必要になる。
「アレク、どうだ? 第2王子の名のもとに、人集めを行っては?」
「はい。僕もそう思っておりました。教育者はもちろんですが、学園建設の職人や、資材や食料を調達する商人の選定も必要です。春までに人選を行い、着工の準備を整えてみせましょう」
ちょうど先程、王家がアメイズ子爵家の面倒を見ると発表したばかりである。
今のタイミングであれば、アメイズ領内の事業を王家主導で行っても問題はない。
結果的には、学園都市の構想を、王国全体の事業として進められる事になったのである。
第2王子の呼びかけとなれば、ルリが一人で騒ぐ時と比べ、より多くの人の目に付きやすくなる。職人や商人も、集まりやすくなるであろう。
ルリの思い描いた学園都市が、絵空事ではなく、実現性のある計画として、ついに着手されたのである。
第2王子のアレクは、なかなかに優秀だった。
その後の夕食会でも、ルリ達に優しく接し、他の貴族との間を取り持ってくれる。
「社交シーズンが開け次第、アメイズ領に顔を出すよ。最初の内は王都と行き来する事になるだろうけど、いずれは居住地を移すつもりだ。婚約者も、理解してくれている」
間もなく14歳を迎えるルリなので、成人して領主になるまでの期間はそう長くはないであろう。
それでも、与えられた役割をきっちりこなそうとしてくれるアレクの心意気に、感銘を覚える。
「ルリ、安心なさい。アレクお兄様は、絶対にやり遂げてくださるわ。わたくしの自慢の兄ですから!!」
「アレク様、しばらくの間、アメイズ領をよろしくお願いいたします」
ミリアの太鼓判もあり、安心するルリ。
もちろん、ルリも精一杯の協力を行う訳だが、いったんは、アレクの好意に甘える事にした。
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