第146話 勅命
王宮から屋敷に戻ったルリは、早々にベッドに潜ると今日の出来事を思い出していた。
戦争における論功を受け、同時に没収されたアメイズ子爵家。
しかも、王家の管理下に入り、第2王子がアメイズ領を見る事になる。
(傘下の貴族が王族に切り掛かったのですからね。最悪、領主の座から追われるとも言われてたし、温情ある処分だったのよね。それに……)
ふと思う……。
(結果としては王家を巻き込んでアメイズ領の改革が進展するし、ミリア達ともずっと一緒にいられるし、オールオッケー、問題なしじゃない?)
大勢の貴族の前で処罰を受けたのだから、貴族としては恥である。
ただ、そんな大人の事情……体裁など気にしないルリにとっては、やりたい方向に事態が進んだ、いい結果としか思えてならなかった。
「リフィーナ様、朝ですよ」
「アルナ、おはよう……」
考え込んでいたら夜更かししてしまったルリ。
メイドのアルナに起こされ、朝の支度を行う。……と言っても、もう昼に近い。
「リフィーナ様ぁ、大変です! 王宮から使者が来ました。今すぐ登城するようにと!!」
遅い朝食を取っていると、イルナが飛んでくる。
昨日の今日での王宮からの呼び出し。
何かあったと、思わずを得ない……。
直ぐに着替えて、王宮へと、馬車を走らせる。
「あれ? メアリーも呼ばれたの?」
「そうなの。ルリもなのね? 心配して焦っちゃって……」
王宮の前で、少し汗ばんだメアリーと合流する。
突然の呼び出しで、驚き飛び出して来たらしい。
王宮の部屋に通されると、ミリアとセイラも待っていた。
どうやら、『ノブレス・エンジェルズ』としての呼び出しだった。
子爵家の話では無さそうで、少し安堵するルリ。
「ミリア、セイラ、何の話か知ってる?」
「まだ分からないわ。全員揃ったら伝えるからって……」
「お揃いですね。では、応接室へどうぞ」
案内されて通された部屋には、国王と側近、そして、冒険者ギルドと商業ギルドの両ギルドマスターが座っていた。
ルリ達も、大きなテーブルを囲んで席につく。
「早速だが、本題に入ろう。今朝、王都の冒険者ギルドに、ある国からの書状が届いた。
その件で、皆に集まってもらったのだ」
国王が口火を切る。
今朝方、冒険者ギルドのギルドマスター、ウリム宛に書状が届き、慌てて国王に相談したらしい。
「それで、内容は……?」
「ミリアーヌ、そう急かすでない。
折りしも昨日、そなたらに世界を巡って成長するように伝えた所だが……。世界を巡り経験を積みたいという心に偽りはないか?」
「「「「はい」」」」
「世界を、知らない世界を、見てみたいですわ!! わたくし達4人とも、同じ想いですの」
「ならば、勅命である。リフィーナ、いや、冒険者ルリ。さらに、冒険者パーティ『ノブレス・エンジェルズ』に命ずる。
これより、魔導王国イルームへ向かえ!!」
世界を巡りたいと宣誓したミリアーヌ、そしてルリ達。
それに対する国王の回答は、魔導王国イルームへ向かうという勅命だった。
クローム王国の東側に隣接する、魔導王国イルーム。
その名の通り魔法の技術に長け、クローム王国で日常的に使われている魔道具も、そのほとんどが魔導王国イルーム製らしい。
「お父様!! それは本当ですか? わたくし達が、魔導王国へ向かうという事ですか!?」
真っ先に反応したのは、ミリアだった。
魔法に関する知識が豊富に得られそうな魔導王国。ミリアがずっと行きたがっていた国だ。
その点では、ルリにしても同感である。
尤も、ルリが本気で行きたいと考えているのは、米の産地、農業国ザバスではある……。
「遊びに行くのではないわ! クローム王国の名代も兼ねての訪問だ。しっかりと準備せい!!」
一瞬、また旅行に行けると喜んだミリア達だが、名代と聞いて緊張する。
そもそも、まだ何をしに行くのかすら、聞いていない……。
「書状、正確には召喚状となるが、こう書かれておる……」
----冒険者ルリなる者、魔導技術に長けた者と聞く。ぜひ教鞭を賜りたく、お招き申し上げたく……
国王が書状を読み上げる。それは、技術者としての召喚状。魔導王国にて職人たちに技術を講義してほしいというものだった。
(魔導王国に興味はあるけど、私、いつの間に技術者になった?)
「私、技術者では無いのですが……」
慌てて否定するルリ。
思い当たる事はたくさんある。あり過ぎる……。
だからと言って、本物の職人に教えられるようなものではない……。
あくまで、完成形を知っているだけで、それの作り方など分からないのだから……。
「以前お話しいただいた、蒸気機関か鉄道の件かが伝わったのかと思われます……。知識も技術の一つです。同じ話をしていただければ大丈夫かと……」
口を開いたのは商業ギルドのギルドマスターだ。
王都の西の森の探索で鉱石らしき物を見つけた際に、それを運ぶにはどうしたらいいかと、蒸気で動力を作る話や、鉄道を引いて物流網を作る話などをした。
それを聞いた技術者たちが、実現の為に知恵を借りようと、魔導王国に向かったらしい。
タイミング的にも、その件が今回の事態につながっているはずだと説明される。
「しかし、名代とはどういう事ですか? 今の話なら、職人たちに会いに行くのが用件に見えますが……」
ミリアが疑問に思う通り、国王の名代として動くような案件には見えない。
むしろ、冒険者のルリ宛に話が来ており、冒険者として向かう方が正解に見える。
何より、国家間で人を呼びたいという話であれば、冒険者ギルド宛ではなく、王宮宛に直接書状が届くであろう。
「ここを見てみろ。この署名……」
国王の指差す署名欄には、シェラウドという名前が記載されている。
肩書が書かれていないので、どのような人物かは一見分からないのであるが……。
「問題は差出人の署名だよ。何度かお会いしたが、これは、魔導王国の重鎮の名だ。裏に、国王が絡んでいると考えて間違いない」
「イルーム国王に謁見する可能性があるという事でしょうか?」
「ああ、ほぼ確実にな。それだけならいいのだが……」
「他にも問題が?」
「懸念で終わればいいが、取り込まれる可能性がある……」
レドワルド国王の懸念。それは、ルリが魔導王国に軟禁される事。
冒険者であれば他国に移る事は珍しくも何ともなく、また、そこで囚われたとしても、他国が口を出せる事では無い。
しかし、王家の名代と共に行動するのであれば、そうそう手を出せなくなる。
クローム王国としての正式訪問の形をとる事で、ルリの安全を確保しようというのが、レドワルド国王の狙いらしい。
もし何かがあっても切り抜けられそうなルリ達ではあるが、他国ではくれぐれも暴れるなと釘を刺された。
「分かりましたわ。わたくしが、クローム王国の代表として魔導王国に向かいます。
そこに冒険者ルリが同行するという形を取ればいいのですね?」
「ああ。頼んだぞ。勅命、全うしてこい」
役目を理解したミリアが、父である国王に告げる。
しかし、静観していたセイラが、口を挟んだ。
「あら、国王様。そういう事なら、もう一つ、やっていただくことがありますわ」
「国王様、名代のミリアは勅命かも知れませんが、『ノブレス・エンジェルズ』は冒険者ですの」
「セイラめ、言いよるな。ではわかった。指名依頼だ。『ノブレス・エンジェルズ』、魔導王国に赴き、召喚に応じた後、無事に戻ってこい」
「承りましたわ!!」
しっかりちゃっかり。冒険者としての報酬を請求するセイラであった。
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