第144話 論功行賞

 研修の旅の報告を終え、第2学園の門に向かう『ノブレス・エンジェルズ』の4人。

 2ヶ月半という少女にとっては長い旅であったが疲れもなく、元気な様子だ。


「ミリアーヌ様、セイラ様、お迎えの馬車が到着しております」


 表で待っていたメイド三姉妹の長女アルナが駆け寄ってくると、ミリアとセイラに報告する。


「一度解散ね。また近いうちに集まりましょう」

「メアリーは私が送って行くわ。それでは、またね!!」


 ハイタッチでお互いの健闘をたたえると、それぞれの馬車に向かうルリ達。

 10日もすれば社交シーズンに入る為、その前に集まって情報交換をする予定だ。



『第三王女だ、お戻りになったんだ!』

『セイラ様、お綺麗ね……』

『噂の女神様がすぐ近くを歩いたぞ!!』

『メアリーちゃ~ん、こっち向いて~』


 豪華な馬車が3台並ぶ門前には、生徒たちが、何事かと集まっていた。

 有名人が突然現れた事に、歓声を上げている。


 そもそも、今年入学の1年生はミリアやセイラ、それにルリやメアリーとお近づきになりたくて入学した者が多い。

 入学早々に旅に出ているので、もはやレアキャラとなっており、遠巻きに発見されるだけでも騒がれる存在だ。


 そんな歓声を気にも留めず、それぞれの馬車に向かうと、優雅に礼をして馬車に乗り込んだ。

 すぐに冬休みに入る為、次に学園に来るのは、社交シーズンが終わってからになる。

 ルリ達に絡んでくる有象無象の追及は、思惑通りに避けられたのだった。




 なお、ルリ達は知らないが、研修の旅で不在の間に、学園を去った者が3名いた。

 王宮主導で徹底的に行われた生徒の素性調査。


 貴族に対しては、出自の確認が各貴族家にとられ、全員の実在が確認される。

 養子縁組にて貴族家に養われ、今回入学した生徒もいたが、帝国との関係は見いだせなかった。


 ただ、平民の中に、怪しい者が混じっていたらしい。

 帝国の大商会がクローム王国に進出し開いた商会の、支店長の息子。

 王国の商会だが、帝国人との密会を行っていた商会の息子。

 王女や噂の女神……ルリの情報を売れば稼ぎになると考えていた娘。


 特に、密会現場を目撃された商会の息子は、かなり厳しい取り調べを受け、一族郎党が処分されていた。


 帝国との貿易が全てNGな訳ではないが、そのやり取りの中で王国に不利になる様な……ミリアやルリの情報がやり取りされるかどうか。それが問題となる。


 実際に情報が漏れたかどうかは聞き入れる事もなく、怪しい3人は問答無用で学園から去る事になっていた。

 現実的には、目立つルリ達。王国中に放たれている帝国の間者によって、情報だけであれば筒抜けである。

 学園内に、暗殺を試みるような者が紛れ込んでいない事だけは、調査によって明らかになったのだった。





 メアリーを送り届け、久しぶりに王都のアメイズ子爵家屋敷に戻ったルリは、のんびりとした時間を過ごしている。


「アルラネ様のお部屋は、客間で準備しますね……」

「あ、セイレン様、すぐに入浴の準備をしますので少々お待ちを……」

「リフィーナ様、すぐにお茶を入れますので……」


 メイド三姉妹だけは、忙しく仕事をこなしている。

 留守中、護衛や清掃は代理の者が行っていたので綺麗に整ってはいるが、自由気ままな主が4人もいるので、お世話は大変だ。


「ねえねぇ? ここがルリの里なのかな? 妖精たち、呼んでもいい?」

「え!? いいけど、呼べるの? むしろ、来てくれるなら嬉しいわ!!」


 アルラネは、草木に言葉を運ばせることで、『アルラウネ』の里にいる妖精たちと通信することが出来る。

 来てくれるのであれば、それほど楽しい事はない。


 伝説級の魔物『蛇女』『人魚』『アルラウネ』と妖精、それに女神の『愛し子』ルリ。

 王都の、貴族としては小さ目な屋敷に、最大の希望とも脅威とも言える戦力が、人知れず揃うのであった。





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 その頃、敗戦国、エスタール帝国では……。


「それで、捕まった将軍は何をどこまで知っているのだ? 情報の流出はあるのか?」


「はっ。作戦の全貌は知っておりますが、裏側は知らない指揮官です。真の目的を悟られる事はありません」


「魔物を操る術についてはどうだ?」


「西国の技術という事は知っていますが、具体的な方法までは知らないはずです。帝国の重要情報が洩れる心配は少ないかと……」



 砦攻略からゼリス要塞の包囲と順調に進んでいた作戦が突然崩壊。

 女神だか死神だかの祟りに逃げたという信じがたい敗戦。

 怒り心頭に断罪が下されると思われた帝国王宮ではあるが、意外と落ち着いていた。


「魔物の実践投入実験としては、上々の結果であろう。捕まった将軍たちからの情報流出は気になるが、しょせん捨て石よ。たいした問題にはならん」


「はっ。では、計画はこのまま進めてよろしいでしょうか」


「いや、少しやり方は変えた方がいいであろうな。からめ手を入れるとしよう……」


 砦への侵攻は単なる実験……。

 今後の計画の実行に向け、怪しい会談が行われていた……。





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 3日ほど、屋敷でのんびりと過ごすと、王宮への呼び出しが届いた。


「まずは、ミリアーヌ様たちと事前の打ち合わせ、その後、アメイズ子爵家と『ノブレス・エンジェルズ』の戦果に対する報奨の授与式がございます。

 その後、国王陛下がお時間を取ってくださるそうなので、学園都市や他の案件につきましても、相談できるとの事です。

 それが終わったら夕食会もありますので……」


「はぁ、何も一日に詰め込まなくてもいいのに……」


「国王陛下はお忙しいのです。そんな事言ってはなりません。それよりも、授与式のお召し物ですが……」


 式典と言うのは、あまり好きではない。……しかも、今回は、冒険者としてだけでなく、アメイズ子爵家を代表しての登城となる。

 一段と豪華な衣装を並べられ、どの服装にするかと迫られるルリ。


(あ、でも……。この衣装……可愛いわ……)


 本来ならば緊張してあたふたする場面であるが、そこはまだ、13歳の女の子である。

 可愛い、豪華な衣装を並べられたら、心が躍るのを止められるはずがない。

 衣装選びでキャッキャと騒ぐ、度胸の据わったルリであった。





 式典当日、着飾ったルリは、王宮の応接室にてミリア達を待っていた。

 メアリーも既に到着しており、長いオレンジ色の髪を揺らしている。


「ミリアーヌ様、セイラ様のご到着です」


 従者の案内で部屋に入るミリアとセイラ。

 その姿は、如何にも王族と言った豪華な衣装だった。


「ミリア、なんか本当の王女様みたい!」

「本当に王女ですわ!!」


 ドレス姿が珍しい訳ではないが、気合を入れたドレスアップは滅多にない。

 お互いの姿を讃えつつ、笑い合う、『ノブレス・エンジェルズ』の4人であった。




 式典には、辺境伯の代理としてフロイデン領の次期党首となる長男と、付き添いでタリム君も訪れていた。

 戦勝の最大の立役者は、フロイデン伯爵家であるので、当然と言えば当然である。


 タリム君との再会に喜んでいると、まだ8歳とは思えないようなしっかりとした態度で、丁寧に挨拶された。


「ご無沙汰しております。戦争の報告の為、先日より父と王都に来ておりました。ご挨拶が遅くなり申し訳ございません」


「私たちも数日前に到着したばかりですから。遠い所、王都までご足労、ありがとうございます」


 タリム君を含むフロイデン領の使者は10日ほど前に王都に到着していたそうだ。

 ルリ達がフロイデン領都を発って、程なく出発した事になる。


 戦争の報告を行い、報奨の対象者が決定。

『ノブレス・エンジェルズ』の到着を待って、式典の開催となったようだ。



『フロイデン伯爵家に聖金貨3000枚と宝物3点を授与。さらに、侯爵に陞爵するものとする』

『ぉぉぉぉぉ』


 戦勝の功績者として、辺境伯は爵位が一つ上がる事になり、周囲の貴族から歓声が上がる。

 稀に見る厚遇ではあるが、突然の戦争を、領地を失うことなく食い止めたのであるから、誰も文句はない。


「次、アメイズ子爵家、リフィーナ。前へ」


 子爵家の代表として呼ばれるルリ。緊張しながら前に出る。

 出陣はしたものの実際に戦闘はしておらず、子爵家としての戦果は薄いため、少し肩身が狭い。


「アメイズ領都からの迅速な参陣は賞賛に値する事から、聖金貨1000枚の授与とする」


 国王が強調したのは、王国からの要請が行われる前に出陣したという点だった。

 周囲の貴族家へ、そういった姿勢を賞賛すると、誇示する意味合いが強いのかも知れない。

 しかし、国王の言葉は続く。


「ただし、同時期に起こった子爵家傘下、コリダ元男爵の不祥事を鑑み、報奨金は没収。

 さらに、アメイズ子爵家は王家の管理下に置く事にする。よいな?」


「は、はい……。謹んでお受けいたします……」


 報奨金には特に期待していなかったルリではあるが、後半に告げられた処分は、正直痛かった。事実上、アメイズ子爵家の独立性が否定された事になる。


 俯きながら、頷くしかないルリであった。

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