第141話 アパート建設

 アメイズ領都、東門周辺を広大な更地に変えたルリ達。

 切り出した丸太をアイテムボックスに収納し、大工の棟梁の案内で拠点に向かっていた。


「森林の開拓、楽しかったわね」

「いい運動になったわ」

「もう汗だく。早くお風呂に入りたいわね」


 一仕事終えて、表情も明るい。

 作業内容に思う所もあったりするが、無事終わったのだから、……それでいいのである。


「棟梁さん、この丸太はどうするのですか?」

「あぁ、このままじゃ使えないからな。乾燥させて、板に加工するのさ。大きな家がたくさん立つぞ!」


 木材の加工は、どこの世界でも大きくは変わらない。

 現代日本のように大型の重機が無いので全て手作業にはなるが、丸太から柱や板を切り出して、家の骨格にするのである。


 魔物のいる森に隣接した東側では、家はもちろん、外壁も頑丈である必要があるので、たくさんの家を作るためには多くの木材を使うであろう。

 腕が鳴るという棟梁を微笑ましく見つめるルリ。



「棟梁さん。新しい土地……新しい家には、どんな人が住むのと思いますか?」

「そうだなぁ。新しく移り住んでくる人だろうからなぁ。商人か農民か、……冒険者も多いかも知れんぞ」


 基本的に、平民である事は間違いない。ただ、街の外れの居住区になる事から、駆け出しの商人や冒険者などが住む可能性が高いという。

 予想していた答えを聞くと、ルリは一つの提案を投げかけた。


「少し、家の形でお願いがあるのです。学園の寮のような建物を増やしては貰えませんか?」


「そりゃいいが、学園の無い場所に漁を作ってどうするんだい?」


 ルリが提案したのは、賃貸のアパートだ。戸建てを買うには早いような駆け出しの人たちが手軽に借りられる集合住宅。

 短期間の滞在になりやすい宿屋と比べ、賃貸のアパートであれば、長期間、領都にドド待ってくれる可能性が高まる。


「なるほど。玄関や炊事場も各部屋に作るのか。領や宿屋の作りとは少し違って面白い発想だな。確かにこれなら、狭いスペースでも多くの人が暮らせるぞ」


 一人暮らしなどした事がなかったルリではあるが、簡単な1DKの間取り図を書いて、棟梁に渡す。2階建ての建物、一棟で10部屋くらいの大きさならば、建築の難易度はそこまで高くはない。


「わかった。設計に入れさせてもらうわ。リフィーナ様、ありがとうな」






「ルリって、建築の勉強もしてたの?」

「した事ないよ。ただ、前の世界で、いい建物をいっぱい見た事があるだけ……」


 棟梁と家の間取りや建築について談義するルリに、セイラが疑問を投げる。

 技術面は全く分からないものの、建物の構造など、ルリが見てきた経験は、この世界では真新しい発想として受け入れられる。


 棟梁と別れを告げ、屋敷に戻る道中、日本の様々な建物を説明しては、キャッキャと騒ぐルリ達であった。






「こらぁ、身体洗ってからよ!!


 子爵家の屋敷に戻ると、さっそく入浴するルリ達。

 疲れているので少しでも早く浴槽に入りたい所を、セイラに注意される。


洗浄せんじょうの魔法は便利だけど、やっぱりお湯に浸かるのは別格よねぇ……)

 急いで汗を流すと浴槽に入り、手足をぶらんと伸ばして寛ぐ。


「今日は動いたし、マッサージしようか!」

「ひゃっ、ダメ、くすぐったい……!」


 マッサージの振りをしながらメアリーに絡みつくルリ。

 背中に手を回した所で、メアリーがギブアップして身体をよじらせる。


「ルリ~、やったわねぇ!!」

「ひぃぃぃぃ」


 逆襲してくすぐってくるメアリー。ミリアとセイラも加わりルリをくすぐり回す、たまらず逃げ出そうとするルリ。



「はぁ、はぁ。ちゃんとマッサージするから……」

「じゃぁお風呂上り、わたくしが最初ですわよ!」


 長く運動部にいたルリは、素人にしてはマッサージが上手い。

 ルリの悪ふざけ無しのマッサージを約束させられ、なんとかくすぐり地獄から解放される。


(なんか、私だけ余計に疲れたような?)


 浴室から出るとマッサージを受け、スッキリした表情のミリア、セイラ、メアリーの3人。

 ルリは一人、スッキリしない気分になるのであった。





「王都に出発するまで余裕があるけど、どこか行きたい所ある?」

「あのさ、メルダムの街に一度顔出したいのだけど……」


 夕食時、今後の予定を考えるルリ達。

 王都帰還の期限まではまだ半月以上あるので、一週間程度であれば、アメイズ領に滞在しても問題ない。


 領都でゆっくり過ごしてもいいし、温泉や妖精たちのいる『アルラウネ』の里に行くのも一案だ。もちろん、早めに王都に戻るという選択肢もある。


 ただ、ルリはメルダムの街が気になっていた。

 前回の訪問時は中途半端に丸投げした状態。男爵の事件についてはケリがついているものの、一度顔を出すべきと考えていた。


「そうね、しばらく来れなくなるだろうし、少し顔出そうか」

「じゃぁ明日の早朝に出発ね」

「「「おー!!!」」」


 アルナに確認すると、特に急ぎの面談予定はないそうで、急きょメルダム行きが決定するのであった。





 翌朝、領都を出る。

 従者はメイドのアルナとイルナのみ。ウルナは魔物三姉妹と共に留守番だ。

 気が向いたら、『アルラウネ』の里に行くつもりらしい。


 馬車を飛ばせば、翌朝には街に入れる。

 さらに、夕方にメルダムを発ち、すぐにアメイズ領都に戻る。

 3日で往復するという強行日程。


「そんなに急がなくてもいいのじゃなくて?」

「まぁそうなんだけどさ。忙しい中、少しの時間だけ顔出したって言う方が、格好良くない?」

「「「そんな理由!?」」」


 実際の所、大臣からの報告でだいたいの状況は掴んでいるので、何か用がある訳ではない。

 それに、下手に滞在してしまうと、王都に戻る時間に間に合わなくなってしまう。

 半日程度、挨拶だけして去る事に意味があるというルリの説明に、一同呆れる。




 そんなこんなで馬車を走らせ、メルダムの街に到着。

 街の様子は、特に何も変わっていなかった。


「相変わらず人少ないわね……」

「でも雰囲気は悪くないわよ。前回よりは……」


 豪華な馬車が門を通り抜けると、人が集まってくる。

 まだ1ヶ月しか経っていないので、ルリ達の姿を覚えている住民は多い。


「あれ見て! 冒険者ギルドよ」

「まだ作ってる途中って感じだけど、ちゃんと進んでるのね!」


 せっかくなので立ち寄ると、出張所の準備中らしい。

 戦争で少し予定より遅れたらしいが、着実に進行しているのが嬉しい。


「こんにちは。ご苦労様です」


 職員に挨拶し、労うと、進捗状況を教えてもらった。

 約1か月後、年明けまでにはメルダム出張所として業務を開始できるらしい。

 既に、何組かの冒険者パーティがアメイズ領都から来ているらしく、周囲の魔物の調査などにも協力しているそうだ。


(冒険者が集まれば宿屋も使うし、飲食店もにぎやかになる。この街も動き出したわね……)


 ルリの目指す場所は、この街を冒険者の集まる街にすることである。

 学園都市構想の実現まではまだまだハードルがあるが、第一歩を踏み出したとは言えるであろう。




「お屋敷、見に行きましょう!!」


 ルリ達に気付いて歓声を上げる住民たちに一人ひとり笑顔を返しながら、冒険者ギルドの予定地を後にし、街の中央にある屋敷へと向かう。

 屋敷は門が開いており、護衛の兵士が一人立っていた。


「リ、リフィーナ様!?」

「こんにちは。中に入ってもよろしいかしら?」

「は、はい、もちろんです」


 突然の領主家ご令嬢の登場に驚く門衛。

 許可を取る必要も無いのであるが、一言断って中に入る。


「ん? 何か人の気配が無いのですが……」

「は、はい。コリダ男爵様の一族は既に出ており、ここには使用人が残っているだけとなっております……」


 考えてみれば当然である。

 家主がいない屋敷。自由に使っていいとは言ってあるものの、勝手に住み着くような者はまず居ない。

 それに、屋敷を持つからには、それを維持するだけの財力が必要となる。

 住民たちがそれを為すのは、正直難しかった。


 私財も没収され、空っぽになった屋敷は、使用人だけが残り、次期の家主の到着を待っている状態になっている。



(あぁ、いきなり民主化とか無理だものねぇ……。代表者が来るのを待つ選択をしたのかぁ……)


 メルダムの街再建のために作った復興委員会。

 そのメンバーが住民の代表として街のトップになり、屋敷もうまく使うかと思っていたが、考えが甘かった。


 屋敷の使い道という問題に直面し、頭を悩ませるルリであった。


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