第140話 森林開拓

 アメイズ領都の孤児院で、地図の書き方や魔法の使い方などを講義したルリ。

 院長に挨拶をすると、孤児院を後にした。


「何人かだけど、魔法のセンスを感じる生徒もいたわね」

「あの中から、冒険者とか領兵が育つのかなぁ。楽しみねぇ」


 ミリアやセイラも、生徒たちの優秀さに感心したらしい。

 特にセイラは、探知で魔力を測っていたようで、それなりの魔力量を持っている人も見つけたようだ。


「どう生きるかは彼ら次第だわ。もし魔法を扱う職に就くというのなら、応援したいわね」


 年齢も大して変わらないルリ達であるが、冒険者としても、魔術師としても先輩である。

 彼らの将来に、期待を寄せるのであった。




「さて、今日の予定は完了ね。暗くなる前に屋敷に戻りましょう」

「明日は東門で森林開拓でしたっけ? 疲れそうね……」

「そう言わないでよ……。もうちょっとだけ、お付き合いお願いするわ」


 ルリにとっては、アメイズ領発展のための重要な仕事であるが、ミリア達にとってはただのお付き合いである。


「土地の開拓なんて王都の西の森以来かしら。あの時は見てただけだったからね。今回は楽しみね」

「たまには身体動かさないとね」

「ありがとう。明日はよろしくね」


 気を使ってくれたのか、前向きに考えてくれるミリア達に、感謝するのであった。




 翌日の午前中。東門の前に向かう。

 1ヶ月前に、軍事演習でミノタウロスと戦った場所だ。


「あぁ、何か荒れ果ててるわね……」

「うん、まだ魔法の跡が残ってるかも……」


 ミリアとルリの二人で火魔法を連発した場所である。

 森の一部は焼け爛れ、あるいは更地と化している。

 逆に、魔法が通らなかった場所は、未だに木々が生い茂っている。




「リフィーナ様よぉ。わざわざ済まねぇなぁ」


 依頼主である環境委員会の代表は、大工の棟梁だ。

 アメイズ領では名の知れた職人で、頑固な印象を受けるが、実は面倒見のいい老人らしい。


「出来る限り、川の近くまで土地を広げたいと思うんだぁ。

 まだ本決まりではないが、奥の川をバーモの村と繋げようという話もあるからな」


 川を使った水運を提案したのはそもそもルリである。

 その企画を見越して土地の開拓を考えてくれている事に、思わず嬉しくなる。


「分かりましたわ。領都の土地を広げるためです。森林開拓、頑張りますわ!!」



 大工の棟梁に開拓場所のイメージを聞き、森の近くまで進む。

 手伝おうと集まっていた、棟梁の部下である男たちには、危ないから離れるように伝えると、ルリ、ミリア、セイラの3人で、作業を開始した。

 メアリーは、現場監督として東門側に残っている。



「まずは枝を落とすのね。風刃ウィンドカッター


 ミリアが木の枝に向けて風邪を飛ばすと、ずさっずさっと枝が落ちる。


「じゃぁ切り倒すわよ~」


 どごぉぉぉぉん


 枝がなくなった木に、ルリが、魔力を全力で纏った剣を振りかざす。

 スパッと切れて、木が倒れた。


『すげぇぇぇぇ』


 一瞬で丸太が出来上がったのを見て驚く大工たち。

 しかし、それで終わりではない。


「セイラ~、ここにお願~い」

「は~い。いくわよ~!! うぉりゃぁぁぁぁ!!!」


 身体強化したセイラは、人並み外れた力持ちだ。

 丸太を持ち上げ、メアリーが指示した場所へと放り投げる。


 ずどぉぉぉぉぉぉぉぉん


『うわぁぁぁぁぁぁぁ』

『なんだぁ???』


 華奢な少女……メイド服の少女が、突然丸太を持ち上げると、30メートルは離れた場所まで投げ飛ばす、……そんな異様な光景に、大工たちは腰を抜かして驚く。



「どんどん飛んできますから、離れててくださいね~」


 メアリーが差す場所に、どんどん丸太が飛んでくる。

 大工たちは慌てて逃げ出すのであった。




風刃ウィンドカッター!!)」

「それぇ~」

「うぉりゃぁぁぁぁ!!!」


 ずどぉぉぉぉぉぉぉぉん



 全て燃やしてしまう方が簡単なのだが、丸太は何かに使うだろうという事で、まずは木だけ切り出そうと決めていた。


(これは、いい運動になるわね!!)


 大量の木々を丸太に変えながら、作業を繰り返すルリ達。

 魔力強化状態で動いているので、見た目ほど疲れる事は無いのだが、何十回、何百回と言う繰り返しは、さすがに、いい運動になった。



「ねぇ、この枝葉はどうするの?」

「邪魔でしょ。わたくしが燃やして差し上げますわ!」

「あ、使い道があるの!」


 辺りに散らばった木の枝を見ながらセイラが尋ねる。

 ミリアは全部燃やす勢いだったが、そこにルリが待ったをかけた。


「棟梁さん、お手伝いいいかしら。大工仕事で使いそうな枝だけ確保してもらえますか」


 上空を飛び交う丸太を見てびくびくする大工たちであるが、意を決したように一斉に動き出すと、太目の枝をせっせと集めた。また、塗料の原料になるなど素材として有用な葉もあったようで、嬉しそうにより分けている。



「それで、この残りはどうするの?」

「肥料を作ろうと思うの。畑の実りが良くなるのよ」


 肥料と言う概念がない訳ではないが、研究が進んでいる訳でもなく、森で自然に出来た堆肥を畑にまく程度がせいぜいであった。

 せっかく大量の葉っぱがあるので、人工的に堆肥を作ってみようというのである。

 もちろん、自分で行った事など無いので、出来るかどうかは分からない……。


「棟梁さん、川の近くなら、街の外になりますよね?」


 街造りの邪魔にならない場所を聞き、ミリアに巨大な穴を掘ってもらう。

 以前、土魔法の練習で落とし穴を作って遊んだりしたので、穴掘りは魔法で一瞬で終わってしまう。


『『『便利だぁ……』』』


 何をするのかと見に来た大工たちから感嘆の呟きが聞こえた。

 人力でやれば何日かかかりそうな事を、ミリアの魔法なら瞬時に完了できるのだから当然だ。


「ミリア、その辺の葉っぱ、この穴に集めてくれる?」


「面白そう、やってみるわ。旋風ストーム!!」


 小さめの竜巻が起こり、周囲の葉や小枝を巻き上げられていく。

 太目の枝は残しつつ巻き上げ、さらに穴の中に着地させるという調整は、ゲームのようで面白い。


「どう? どう? 上手く出来たと思うのだけど?」

「いい感じね。さすがミリアだわ!!」


「棟梁さん、このまま放置しておけば、春には畑の肥料に変わると思います。

 時々、様子を見るようにしてください。できれば、かき混ぜたりするといいはずです」


 肥料の話は、大工の棟梁には難しかったようだ。農家の人に伝え、管理は任せる事になった。

 川の近くで適度な水分があるし、微生物などいくらでもいそうな大自然の中である。いずれ、どうにかなるだろう……。


 すぐには無理でも、毎年落ち葉を放り込めば堆肥が育つ、ぬか床のような場所になってくれればと、願うルリであった。





「これでひと通りかしらね。残ってる枝は燃やしちゃう?」

「そうね」


 数時間前まで荒れた森だった場所は、完全な更地へと変わっていた。

 多少残った枝切れは、ミリアが燃やす。


火球ファイヤーボール!!!」


 余程燃やしたかったのか、嬉しそうに火球ファイヤーボールを連打するミリア。

 森を拓くと聞いてから、ずっと火魔法を思いっきり放つつもりだったようなので、念願叶った様子だ。





「棟梁さん、ひと通り完了しましたわ。こんな感じでいかがでしょうか?」

「リフィーナ様、感謝だな。バッチリよ。ただ、1点お願いがあるんだがいいかい?」

「ええ、何なりと!」


 棟梁のお願いとは、切り出した大量の丸太を、大工たちの拠点まで運ぶのを手伝って欲しいというものだった。

 魔力強化したルリ達なら軽々と持ち上げられるような丸太であるが、普通に運ぶのは確かに大変だ。



「あ、私が運びますわ」

「ん? 全部かい? さすがにそれは無理だろう……」


 大工たちに荷車の準備をするように指示する棟梁を止め、丸太に近寄るルリを、不思議そうな目で見つめる棟梁と大工たち。


「全部収納して持って行きますわ。拠点まで案内してくださいね」


 数百本の丸太の山を、一瞬で消し去るルリ。

 また大量収納を人前で見せつけて! と怒られる場面であるが、時すでに遅し。


「「「「あっ……」」」」


 気付いて、同時に声を上げるルリ達『ノブレス・エンジェルズ』の4人。

 しかし、気付いた内容は、大容量の収納を使ってしまった事では無かった。


((((丸太も枝葉も、収納で運べばよかったんじゃない……?))))


 セイラが怪力を披露して丸太を飛ばす必要も、ミリアが魔法で枝葉を飛ばす必要も、実は無かった……。

 収納すればよかっただけの事だったのだ……。


 気付いたものの……今更声に上げる者は、いなかった……。

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