第135話 暇つぶし

 フロイデン領での用事をすべて終えたルリ達。

 一息ついたのち、アメイズ領経由にて王都へ帰還することを決める。


「今日は休養。明日出発して、アメイズ領へ戻りましょう」

「ねぇ、アメイズの領都までは10日くらいなのよね。

 途中で、アルラネと出会った温泉に寄ってかない?」

「いいねぇ、そうしましょう!!」


 アルラネに確認すると、『アルラウネ』の里に寄る事も問題ないらしい。

 戦争が終わって里に戻った妖精たちも、喜ぶだろうとの事だった。



 部屋でのんびりしていると、突然ルリが叫ぶ。

「あ、忘れてたわ。辺境伯に相談があるんだった!」


 慌てて辺境伯の元に行くと、忘れていた相談事が山のように浮かんできた。


 冒険者学校をつくりたいから協力して欲しい事。

 アメイズ領の防衛のために、知恵を貸して欲しい事。

 今後も、隣領として、交易を盛んにしたい事。

 アメイズ・バーガーの支店を領都に開店したい事。



「やばい、ギルドにも伝えなきゃいけないじゃないの!」


 午後はゆっくりしようという予定だったが、慌てて街に出る。

 冒険者ギルドや商業ギルドに飛び込むと、何とか顔を繋ぐことが出来た。


 詳しくは、アメイズ領の担当者や、紹介などを通じて段取りするという事で、協力を約束させる。

 若干、戦争で功績を上げた子爵家令嬢という立場でゴリ押ししたのは、内緒である。



(これで、本当にやる事終わったかしらね。戦争のバタバタで、本気で忘れていたわ!)




 翌朝、辺境伯の屋敷にて、別れの挨拶を行うルリ達。


「がぁはっはっ!! この度の働き、誠にあっぱれであった!!

 『ノブレス・エンジェルズ』の名は、フロイデン領にて語り継がれるであろう!!」


「お姉ちゃん、遊んでくれてありがとう。またお会いしましょう!」


「辺境伯様、タリム君、この度はお世話になりました」


 がぁはっはっ!! という胃に響く声も、これで聞き納めだ。

 互いの健闘を称え、辺境伯の屋敷を後にした。



 大通りをゆっくり進む。

 豪華な馬車は目立つため、ルリ達に気付く住民も多い。


『王女様ぁ、お元気で~』

『聖女様ぁ、ありがとうございました~』

『女神様ぁ、大好きだぁ』

『軍師様ぁ、また来てくださいね~』


 慣れた様子で、声援に手を振るルリ達。

 多少おかしな事を言われても、今となっては気にする事もない。

 王都を出た時はオドオドしていたメアリーも、今は堂々としている。


「いい街だったわね」

「うん、軍事主義って言うから少し緊張したけど、みんないい人だった」


 戦果を挙げたミリア、そして多くの兵を救ったセイラはもちろん、今回はあまり表に出なかったルリとメアリーも、大満足だ。


(軍事主義かぁ。いろいろと参考になったなぁ。領に戻ったら伝えなきゃ)


 大量の魚介入手など嬉しい事がたくさんあった領都だが、何よりルリが感銘を覚えたのは街の防衛だ。アメイズ領ではこれから整える予定なので、参考になる。


 辺境伯とお互いの交流を盛んにしようと話した事もあり、アメイズ領についたら誰かを実地研修に派遣しようなどと考えていた。





「目指すは温泉。街道を一気に進みましょう!!」

「アルラネ、一週間後くらいに里に到着するから、伝えておいてね!」


 アメイズ領都までは一本道だ。

 途中、小さな宿場町がある程度で、特に見どころがある訳ではない。

 どこでも野営出来るルリ達は時間を最大限に使えるので、最短で到着することが出来る。


「セイラ、探知、よろしくね!」

「分かってるわよ。美味しそうなの探せばいいのでしょ」


 移動中は常に探知を働かせているセイラ。

 本来ならば、襲ってこない限り魔物だろうが盗賊だろうが、あるいは帝国の残兵だろうが無視してもいい。

 ただ、食材になる魔物がいたら狩る。それが、ルリ達の暗黙の了解だ。



「森の中にオーク、数は7」

「はい! 行ってきます!!」


「あっちに猪の群れがいるわよ」

「「了解!!」」


「大きめの熊が1体、行く?」

「「「任せて!!」」」


 セイラが見つけて、敵の数や強さに応じて、2人か3人程度で狩りに出る。

 余程の魔物でない限り、遠くから魔法を放てば戦闘が終わり、あとは、ルリが回収してくれば狩りは完了だ。




 魔物を狩る以外は、特にやる事もないので、馬車の中では、すごろくかトランプをして過ごす。


「そうだ。簡単なゲーム思い出したの。「しりとり」って言うんだけど……」


 さすがに毎日、すごろくかトランプだけでは飽きてくる。

 単純な言葉遊びのゲームを提案するルリ。


 女神の自動翻訳で言葉を理解しているルリなので少し心配だったが、言葉遊びのゲームも普通に楽しむことが出来た。

 長く異世界にいて、もう翻訳無しで読み書きを覚えてしまっている可能性もある。


「おうさま……、まほう……、うま……」


 しりとり、りんご、ゴリラ、ラッパと繋がるのが王道なのであろうが、ゴリラもラッパも見た事がないので、意外と難しい。


「り……、りぼん!」

「はい、ブブー!! メアリーの負けね!!」


 焦って答えて、間違えて落ち込むメアリーが、なんとも可愛らしい。



「後はねぇ、「連想ゲーム」。手拍子を討ちながら、リズムに合わせて単語を言うの」


 ルールが簡単なゲームは、この世界でも受け入れられやすい。

 街道をひた走る豪華な馬車からは、しばらく少女たちの陽気な声が、響き続けるのであった。




 食事時、新しい暇つぶしを考えようと、話しかけてみる。


「ねぇ、なぞなぞって知ってる?」

「知らないわ」


「言葉遊びのクイズなんだけど……。

 持つだけで手が震える家具は何? 答えは、手がブルブルでテーブル、って感じ」


「面白そうね、他には?」


「じゃぁ、大きくなるほど小さくなるものって何?」


「……」


「ヒントは、身長」


「あぁ、分かった! 答えは、ルリの慎重さね?」


「どういう事?」


「事件が大きくなればなるほど、ルリっていい加減になるのよね……」


「なっ!? 確かにそうかもしれないけど……。いや、そういう事じゃなくて、身長、背の高さよ。背が伸びると、小さくなるものがあるでしょ!!」


「洋服!!」


「当ったり~!!」


 メアリーはルールを理解したようだ。

 ルリの弱点を的確に指摘したセイラは、まだなぜ正解じゃないのか不満げな様子。



「私からも問題いいかな! 焼いても食べられないパンは?」


「堅パン! あれは無理だわ……」


「そういう事じゃないの。わたくし分かりましたわ。答えは、フライパンですの!」


「ピンポ~ン」


 メアリーの考えた問題に、ミリアが答える。

 少しずつ、なぞなぞの形になってきた。


「じゃぁ、明日までに、全員問題を考えておくこと。いいわね!」


 楽しくなったミリアが提案すると、全員頷く。

 翌日の馬車が、少女たちの唸り声で異様な雰囲気になった事は、言うまでもない。





 約1週間の馬車旅を経て、温泉の近くまでやってきた。


「セイレン、アルラネ、温泉の場所がわかったら教えてね」

「仕方ないわね」

「もう少しだよ~」


 森の中の街道。正直、同じ景色にしか見えない。

 探知でも温泉は見つけられないので、水に敏感な『人魚』のセイレンに探索を頼む。

 もちろん、里の場所を把握しているアルラネにも、近づいたら教えるようにお願いした。



「そろそろだよ~。道を開くから、横にそれないように馬車を進めてね~」


 温泉の場所に近づいたようである。

 アルラネが森を見つめると、森が割れ、ちょうど馬車が通れるくらいの道が出来ていく。

 木々によってつくられたトンネルを抜けると、目的地の温泉についた。


「ついたよ~」

「ありがとう!!」

「周囲に敵なし、さっそく入りましょうか!」


 まだ昼間であるが、温泉に来て、入らない道理はない。

 周囲を確認し、全員で温泉に飛び込む。

 もちろん、護衛騎士は、事前に遠くに控えさせてある。


「思ったより早く着いたわね」

「アメイズ領都まではすぐよ。少しゆっくりしていきましょ」


「ルリルリ、ちょっといい? この後、里に行きたいの。

 その時ね、妖精たちにも海の食べ物、分けてあげてくれない?」


「もちろん。戦争の時は、がんばってくれたからね。みんなで食べましょう!!」


(へへ、海の幸、いっぱいあるからね!)


 セイレンと顔を合わせてニヤニヤするルリ。

 実は、夜中にこっそりと、セイレンに魚介を集めてもらい、全て冷凍保管してあるのである。

 表向きはメアリーが交渉で勝ち取った……購入した分しか持っていな事になっているのであるが、アイテムボックスには、その3倍程度の、グルメクラブを含む魚介が収納されている。




 温泉で夕方まで過ごし、アルラネの里に向かう。

 グルメクラブなど、漁師町での戦利品を妖精に渡すと、嬉しそうに調理場に運んで行った。

 食べるよりも作る事の方が好きなのかもしれない……。



 妖精たちが作ってくれた魚介料理は、漁師町で食べるものとは違う、なんとも言えない美味しさがあった。

 魚を草で包んで蒸したり、貝を木の実と一緒に煮込んだり。

 自然の素材の味を生かした料理は、職人が醸し出すような味わいだ。



「妖精さんの料理、美味しいわよね~」

「うん、これは真似できないかも……」


 満腹になるまで味わうと、そのまま草木のベッドで眠りについた。


 大自然に囲まれてのやすらぎの時間。

 アメイズ領都到着を目の前に、英気を養うルリ達であった。

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