第130話 白銀の兜
辺境伯の孫タリム君の案内でフロイデン領都を観光しているルリ達。
城壁最上部からの絶景に、心を癒していた。
「この平和な時間、ずっと続くといいわね……」
「その為にも、私たちが頑張らなきゃいけないわ」
「そう、ノブレス・オブリージュ、忘れない事ですわ」
感傷に浸るルリに、セイラとミリアが貴族の心構えを説く。
平和な時間を守るのが、自分たちの務め。……王族、貴族であるからには、平和は、自分たちで作らなければならない。
「ルリもメアリーも、王家に連なる、それに匹敵する人物になるのですから、意識を高く持ってくださいね」
「……」
「私も?」
セイラの気持ち……王族の誰かとルリをくっつけよう……が何となくわかるルリは返事に困る。
メアリーは、志高く生きる思いはあるものの、身分的には難しい願い事になるので、初めて同列に名前が挙がって驚いている。
「とにかく、わたくしたちは王国の為にも、ずっと一緒に頑張るという事ですの。よろしくて?」
「「うん」」
城壁での穏やかな時間を過ごすと、昼食はタリム君が選んだレストランに向かった。
高級な雰囲気ではあるが、庶民でも利用できそうなアットホームなお店。
畏まる必要が無いのが、ちょうどいい。
「おすすめの料理はいくつか頼んでおきました。追加、どんどん召し上がってください!」
タリム君のおすすめは、肉料理。
焼いた大きな肉の塊を切り分けて食べるスタイル、……シュラスコのような料理を堪能する。
さらに、肉を柔らかく煮詰めたトマト味のシチューのような物もある。
(王都と比べると食文化が発達してる気がする……)
この世界にしてはしっかりとした味付けで、食が進む。
また、焼き加減や煮込み具合にしても、熟練されている印象がある。
「フロイデン領では、いつでも身体を動かせるように、食事を大事にするのです。体力つけないと、いざという時に戦えませんから」
肉や野菜をたくさん食べるための工夫。その結果として、料理が美味しくなったとタリム君が教えてくれた。
「お料理が美味しくて、海にも近くて、最高ね!」
「また住みたいとか言うんじゃないでしょうね……?」
絶好調にこの街に住みたい! と宣言しそうになるルリであるが、辺境伯の事を考えると本当に屋敷を与えられかねない。
まだ8歳のタリム君とは言え、不要な発言は聞かせられない。
「アメイズ領からなら直ぐですからね。いつでも遊びに来れるわ!」
馬車で10日の距離は直ぐと言っていいのか微妙なものの、隣の領である事は確かである。
いつでも遊びに来るという言葉にタリム君が喜んでくれているので、それで良しとした。
「ねぇ、タリム君とルシアちゃんも、大きくなったらアメイズ領や王都に遊びにおいでよ」
「はい、必ず遊びに行きます!」
「私もいいのですか? ぜひ、お伺いしますわ!!」
いずれにしても、貴族家に連なる以上、社交などで王都に行く機会は出るであろう。
その時に知り合いが居るか居ないかでは、緊張感が違う。
たまたま領都の公園に居合わせただけのルシアにとっては、力強い味方が出来たと言って間違いない。
「うふふ、ぜひ2人でいらして。王宮も案内しますわ」
ミリア……ミリアーヌ第三王女、直々のお誘いである。
本心から嬉しそうなルシアを見て、温かい気持ちになるルリ達であった。
遅めの昼食を取った後も、タリム君の案内で街の施設を見て回る。
兵士の訓練場、休憩を取る兵舎、備蓄倉庫などの施設。
有事の際に敵を撃退する仕掛けや、情報を伝達するための工夫、それに避難路。
タリム君が知らない秘密の施設も、いくつかあるらしい。
(アメイズ領都から誰か研修に来させると良いかも知れないわね……)
領都の観光場所……ほとんど軍事施設であったが……を見て回りながら、アメイズ領で進めている防衛体制の事を思うルリ。
特色ある他領では、学ぶことが多い。
「ホント、軍事都市なのね。王都も見習わなければならないわ」
ミリアも同じことを考えていたようだ。
現実として、王国内では四方を他領に囲まれた王都であれば、他国が攻めてくる可能性は極めて低いのであるが……。
「皆様、お付き合いいただきありがとうございました。僕からの観光ツアーはこれで以上です」
「こちらこそ、案内ありがとう。タリム君、それにルシアちゃん、楽しかったわ」
「お屋敷につきましたら、お爺様が案内したい場所があるそうなので、すこしお時間をいただきます」
「わかったわ」
ルシアを見送り、屋敷に戻る。
辺境伯の所に行くと、地下の倉庫に付き合うように言われた。
「ここは、先祖代々が集めた武具が置かれておる。魔術師が使える品もあるかも知れぬでな、気に入った物があったら持っていくがいい。土産じゃ、がぁはっはっ!!」
宝物庫、と言うには未整理に武具が並んだ部屋。……骨董品屋の倉庫と言う方が正しいかもしれない。
収集、あるいは贈答された品の中でも、近接戦闘を主としたフロイデン伯爵家の戦い方では使われなかった物、つまり不要とされた武具などが、保管されているらしい。
「辺境伯様、銀色の女性用の兜なんて、見た事ありませんか?」
「行方不明と言うアメイズ子爵家の兜か? 昔調べたが、見つからんかった……」
女神装備の兜がないか聞いてみるが、既に調査の依頼があったらしい。
武闘派で知られる元アメイズ領主……ルリの祖父は、辺境伯とも親交が深かったようで、真っ先に捜索の協力を行ったのだと聞かされた。
「辺境伯様、どれをいただいても良いのですか?」
「構わんぞぉ。当家には不要なもの故、好きなだけ持っていくといいわぁ」
家宝になる様な品は宝物庫にあり、その官邸にそぐわなかった品が置いてあるらしい。
確かに、ガラクタにしか見えないような物が多い。
装備など十分に整っているルリ達なので、特に必要なものは無さそうなのであるが、せっかくの気遣い、何か一つずつくらいは貰って帰るのが道理だと、選び始めるルリ達。
「これだけあると、選ぶのが大変ね」
「がぁはっはっ!! ひよっこよのぅ。一流の魔術師は、己の魔力を流す事で自分の波長に合った逸品を探すというぞ」
個人が持つ魔力の波長。自身に合う武具、装飾品は、魔力の波長が合う物なのだという。
「そうなのですか? 魔力を流せば何か反応するのでしょうか?」
「がぁはっはっ!! そうらしいのぅ。魔術師ではないのでよくわからんが……」
言われた通りに、目の前の剣に魔力を流してみる。
いい品なのであろう、魔力が通るのは分かるが、別に、特別な感覚を覚える事はない。
「ああ、でも、わかるかも。白銀装備をつけると、チカラが、魔力が湧いてくる気がするの。
そういった装備を探すと良いのかも知れないわ」
「よくわかんないけど、やってみる。探知する時と同じ感じだろうから……」
セイラがチャレンジする。
部屋全体に魔力を通し、真剣な顔で何かを感じているようだ。
「あれ? すごく惹かれる反応があるわ」
倉庫の隅の方でガサガサと探し始めたセイラが持ってきたのは、緑色の石があしらわれた指輪だった。
「何でかしら? これを手にしたら、すごく安心できるの。これが、魔力の波長が合うって事なのね……」
決して高価な指輪には見えないが、セイラの心に響く指輪らしい。
ミリアとメアリーも、同様に探し当てると、ガサガサと持ってくる。
「これ、何かしら? 何か魔物の皮? 布にしか見えないけど……」
ミリアが見つけてきたのは、何かの生地だった。
素材は分からないが、とにかく仕立てれば使えるのは間違いない。
「私、3つも見つかっちゃったんだけど……」
「全部持ってくと良いわぁ。遠慮はいらんぞ! がぁはっはっ!!」
メアリーは、反応を3つの品に感じたらしい。
髪飾り、腕輪、ベルトらしき物。実用的なデザインで少し手直ししたい雰囲気はあるが、相性のいい装飾品なのであろう。
「私もやってみるわね」
ルリも、部屋全体に魔力を通す。
少し流し過ぎたのか、部屋全体が光に包まれる。
そして、ある一か所が、輝きだした。
「そ、そこ! 何があるの?」
「兜ね、薄汚れた兜だわ……」
黒く薄汚れた小さな兜が、そこに転がっていた。
そのままでは使えそうにない……外れ感が半端ない。
「ま、まぁ、貰っておきなさいよ……」
「そうよ、ルリに合った兜なのは間違いないわ……」
今更拒否するのもどうかと思うので、兜を手にとるルリ。
「うわぁ……!!」
ルリが手にした途端、兜が光り輝いた。
輝きは加速度的に増し、目を開けていられない程になる。
「何? この反応!!」
「すごい!! まるで、待ちかねた主に出会ったかのような!?」
目を開けると、ルリの手の上に乗っていたのは、白銀に輝く兜だった。
主と出会い、真の姿に戻ったかのように、輝いている。
「白銀……、白銀の兜?」
「がぁはっはっ!! これは驚いたわぁ。伝え聞く白銀装備の兜にそっくりじゃ。
こんな場所に転がっていたとはのぅ。リフィーナ嬢の魔力に反応したのか?」
埃と錆びに蝕まれ、白銀らしさを微塵も残していなかった兜が、一瞬で新品同様に蘇る。
兜に込められた魔力のせいなのか、ルリの特殊能力なのか……。
奇跡的な光景を目にして驚く辺境伯とミリア達。
(やっと出会えたぁ……。お爺さまが探していた装備、これで揃うわね)
「ねぇルリ、全身、着てみてよ!!」
「うん!!」
初めて揃った全身の女神装備。当然身に付けてみたくなる。
「じゃぁ、兜も被るわね」
王冠のように装飾されたデザインの兜を被ると……。
『リミットの一部を解除します』
頭の中に声が響く。
(えっ? リミット解除? しかも、一部って何よ~!!)
意味不明な状況に困惑するルリ。
「ルリ!? どうかしたの?」
その様子を不思議そうな顔で見つめる、ミリア達であった。
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