第126話 凱旋パレード
模擬戦などの余興もありつつ、領都へ向かう辺境伯とルリ達。
領都を目の前にし、一度休憩をとる。
「あれがフロイデンの領都ね、さすがだわ」
「頑丈そうねぇ、王都を越えるかも!」
10メートルを超える城壁に囲まれた街。
中の様子は見えないが、一目で堅固な城塞とわかる。
「がぁはっはっ!! でかい街じゃろう!!
これより凱旋のパレードを行う! 準備せい!!」
パレード用なのか、実戦用には不便そうな煌びやかな鎧を着こんだ辺境伯。
兵士たちも、汚れを落として準備している。
「私たちはどうしようか? ドレスコード?」
「冒険者の服装でいいんじゃない? あくまで、今は冒険者としての活動中だし」
既に王女様だのと騒がれており冒険者としての活動と言っていいのかは微妙であるが、公式に貴族で訪問してる訳では無いのも事実。
悩んだ末に、冒険者の鎧で凱旋パレードに参列することにした。
『辺境伯様のお帰りだぁ~』
『フロイデン領、万歳!!』
『辺境伯様、万歳!!』
歓声の中、門を通過し大通りに入る。
ルリ達の馬車は、辺境伯の少し後ろをゆっくりと走っていた。
『おい、あの馬車、もしかしてミリアーヌ王女様じゃないか?』
『きっとそうだよ! 一緒にいるのは聖女様か?』
ミリア達の活躍も、少しは噂として伝わっているのであろう。
観衆の中から、王女や聖女という単語が聞こえてきた。
凱旋パレードに華を添えて、笑顔で手を振るルリ達。
領兵の一団に、どうみても貴族らしき少女の馬車という異様な状態でもあり、噂を聞いていない住民にはさぞ不思議な光景に見えるだろう。
「がぁはっはっ!! フロイデンの民よ、勝利じゃぁ!!
優れた兵士と、勇敢なる冒険者の手により帝国は敗退した!! 勝利じゃぁ!!」
『うぉぉぉぉぉぉぉぉ』
『フロイデン領、万歳!!』
途中、観衆の多く集まっている広場のような場所で隊列を止めると、勝利を宣言する辺境伯。
その声に、大歓声が上がる。
街全体が揺れるような歓声は、後世まで語り継がれる事になるであろう。
そのままルリ達は、辺境伯の屋敷に通された。
凱旋パレードの余韻覚めぬ中、応接室に集められる。
「がぁはっはっ!! いいパレードじゃったぁ!! 皆の者、ゆっくりと休んでくれぃ」
軽くお茶などをいただきながら、今後の事などを話す。
領都滞在中は屋敷の部屋を使っていいと言われ、素直に受け入れた。
ルリ達の予定としては大幅に押してしまっている為、フロイデン領に留まれるのは最大でも一週間程度。
12月半ばの社交シーズンまでに戻るという約束があるので、移動に半月以上かかる事を考えると、そうゆっくりとは出来ないのだ。
「私たちは、冒険者ギルドに行って、いくつか依頼をこなして参りますわ。それが本来の目的であり、課題でもありますので。
余裕のある日は、街の中など見学させていただきます」
「では、明日にでもギルドに向かうとよかろう。そうじゃ、街の案内役を付けようかの」
(この可愛い少年が、いつかあの熊みたいになるのかしら……)
案内役として紹介されたのは、タリム君という可愛い少年だった。
例の、辺境伯のお孫さんらしい。
熊のような辺境伯の血を引いているとは思えないような、如何にも初心で大人しそうな少年。……実はまだ8歳らしい。
辺境伯の思惑も承知ではあるが、ルリ達は互いに頷き合うと、案内役として受け入れる事にした。
「タリム君、よろしくね」
「うん、お姉ちゃん、よろしくです」
翌日はギルドに行くため、2日後に街の案内をお願いする事を伝え、それまでに行先を考えておいてもらうようにお願いする。
「今夜は宴じゃ!! がぁはっはっ!!」
想像はしていたが、やはり夜は宴会らしい。
一度部屋に戻り、身支度を整えた後、食事のホールに集合するように言われる。
貴族とは言え形式にとらわれない辺境伯。堅苦しくない食事であれば、ルリ達も大歓迎である。
簡単にドレスアップし、参加させてもらう事にした。
「あれ? 辺境伯様、もしかして海が近いのですか?」
「馬で一日ほどじゃ、今日は特別に運ばせておった!!」
出て来た料理に驚き、思わず尋ねるルリ。
内陸では味わえないはずの、魚介料理が並んでいたのだ。
(地図だともっと遠そうだったけど、意外と近いのね……。
時間が取れたら仕入れに行きたいわね……)
現実としては往復2日の時間をとる事は難しいのであるが、無理と決め付けるのはまだ早い。
「ルリ、もしかして海に行きたいって思ってる?」
「うん、海に行くか、もしくは魚介を手に入れたいなって」
「明日ギルドで依頼を受ける時に、海方面、探してみようっか!」
「「「賛成!!」」」
魚介料理に目を丸くしているルリを見て、セイラが気を使ってくれた。
最優先は海ではなく魚を入手する事。それだけなら、出来る可能性も高い。
「お帰りになる前に、もう一度魚介を運ぶように指示しておきます。
皆様が魚介好きとは知りませんでしたよ」
会話に入って来たのは、フロイデン領の跡継ぎ、つまり辺境伯の長男だ。
いい大人ではあるが、物腰柔らかで、親しみやすい。
やはり、熊の血を引いているとは思えない……。
「息子のタリムが案内役をする事になったとか。ご迷惑をお掛けしますが、どうぞよろしくお願いします」
「こちらこそです。楽しみにしていますわ」
「ところで、王都の社交場では魚介料理は出回らないと思いますが、どちらで?」
「先日、マリーナル領に行きましたの。その時に……」
ミリアとセイラは親し気に話している。
社交場を好まない辺境伯に変わり、社交の場は長男が主に出席しているから顔が知れ射ているのだと、後で教えてもらった。
ルリも、たぶん出会っているのであろう……覚えておらず申し訳ない。
「私も父も、しばらく戦後処理でバタバタする事になります。
王宮への報告や帝国への抗議、捕虜の取り調べもありますのでね。あまりお構いできないのですが、どうぞゆっくりなさってくださいね」
フロイデン伯爵家としては、実は、宴に興じている場合ではなかった。
戦後処理では、やる事が山のようにある。
実務的な事では辺境伯が役立たずのようで、長男中心に行うらしい。
「お邪魔にならないようにしますね。お仕事を優先なさってください。
それで、分かったら教えていただきたい事があるのですが……」
「お話しできる範囲でしたら、取り調べの結果、共有しますよ」
「
他の魔物も、同様に操ることが出来るのか、それが知りたいのです」
「それは私も気になっていました。何かしらの魔術なのか、薬品を使用するのか、あるいは別の方法なのか……。聞き出してみせますよ!」
ずっと気になっていた事。
馬車の中でも何度も考えたが、結局わからずじまい。
もし、他の魔物も操れるのだとすれば、王国にとっては脅威が深まる事になる。
ルリとしては、質問したのには、もう一つの意図があった。
何としても欲しいのが高速の移動手段である。
自動車や電車、飛行機を作る事は、現実的に難しい。
しかし、もし魔物を操る、
(魔物を操る魔法とかあるなら、すごく便利だよなぁ……。
何かしらの技術があるなら、帝国に侵入してでも習得したいわね……)
さすがに、すぐに帝国に潜入などとは考えていないが、それだけのメリットはある。
いつかの
ルリのやる事リストに、帝国への侵入という項目が、付け加わったのであった。
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