第127話 報酬

 フロイデン領都での凱旋パレードを終え、辺境伯の屋敷で一夜を過ごしたルリ達。

 戦後処理で忙しい辺境伯とは別で朝食をとると、すぐに屋敷を出た。


 今日は冒険者としての活動なので、メイド三姉妹と魔物三姉妹は留守番だ。

 護衛の任についている騎士は後ろからこっそりとついて来ているが、同行している雰囲気は全くないので、大きな問題は無い。


「4人だけで出歩くのは久しぶりな気がするわね」

「うん、護衛騎士はついて来てるけどね……」

「観光はタリム君と一緒の時ね。今日はまっすぐギルドに行くわよ」


 今日の予定としては、冒険者ギルドに到着の報告を行い、学園の課題と出されている依頼を受注する事である。

 街の様子も見て見たいが、案内役のタリム君との約束がある為、寄り道はしない事に決めた。


「大通り沿いでお店に立ち寄るくらいはいいわよね?」

「そのくらいはいいけど……。気になるお店あったの?」

「別にないけど……」


 王都、マリーナル領都、アメイズ領都など、それなりに各地を回って来たルリ達。

 同じ王国内で、どうしても! という程、画期的に珍しいお店と出会う事は少ない。

 それでも、ウィンドウショッピングなどは、行いたいものである。


「武器や防具のお店が豊富ね」

「さすが戦闘民族の街って感じだわ……」

「ちょっと寄ってく?」

「掘り出し物があるかも知れないしね!」


 王族貴族に伝わる武具や、伝説級の魔物を素材にした装備を身に付けたルリ達に、今以上の装備があるとは考えにくいのだが、適当にお店を見ながら大通りを歩いて行く。



「おぉ、うちは子供の遊びで来る店じゃねぇぞ!」

「あら、これでも冒険者なんですが……」

「なんだぁ駆け出しか? だったら別の店に……。ん? 待て、その服、見せてみろ!!」

「ちょっ!?」


 頑固そうな店主が絡んできたと思ったら、いきなり服を掴まれ悲鳴を上げるルリ。


 コカトリスの羽を編み込んだミニ浴衣風ローブ。見え隠れするインナーは、竜の鱗をアラクネの糸で編んだチェーンメイル。

 見る人が見れば、とてつもない装備とわかる。


「ま……まさか、噂の……?」


 最初はルリの高性能装備に目を奪われた店主だが、ミリアの纏うローブに刻まれた王家の紋章を確認し、事態が呑み込めたようだ。


「しっ、失礼しやした。王女殿下御一行様。この度はありがとうございやしたぁ……」

「いやいや、頭を上げてくださいませ……」


 頭を地面に擦り付ける勢いで土下座され、思わず引き起こそうとするミリア。

 畏まられるのは、あまり好きではない。


「店主さん、今は冒険者として行動中です。気を楽にしてください。

 ところで、噂の……とは? どんな話になってるのかしら?」


「へ、へぇ。陥落寸前だったゼリス要塞で、王女殿下が女神様に祈りをささげて奇跡を起こしたと……」


「そう、ありがとう。商売、頑張ってくださいね」


 何か小物でも選んでもらおうかと思っていた所だが、店主が恐縮してしまって話にならなそうなので、さっさと店を出たルリ達。


「ミリアが奇跡を起こした事になってるようね」

「あながち間違いでも無いのが面白いわね」

「わたくしは困りますわ。女神の奇跡じゃなくて実力ですの!!」


 確かにその通り。セイレンの手助けはあったものの、電撃は紛れもなくミリアの実力なのだ。

 本人にしてみれば、奇跡で語られるのは不本意らしい。


「どこかのタイミングで、実力は公表した方がいいかも知れないわね。女神の奇跡を起こせるとか、教会が黙ってないわ。面倒事になる前に、対応しておきましょう」


 対応すると言って、後方の護衛騎士に何かを伝えるセイラ。

 噂の内容の確認と、揉み消しをお願いしたらしい……。


「とりあえず、ミリアーヌ王女に手を出せば、女神の天罰が下るって、噂に付け加えてもらうわ。間違ってはいないでしょ、ルリ?」


「もちろん許さないけど……」


 もう少し他の対策は無いものかと考える『女神の愛し子』ルリ。

 突拍子もない噂で上書きするのがいいのであろうが、ミリアが女神である! などと言っても、逆に信じられてしまいそうである。


(なる様になるか!)


 人の噂話には蓋は出来ない。教会や近隣諸国から目をつけられたら、その時に対処するしかないと、考えるのを放棄するルリであった。




 チロリン


 そうこうしている内に、冒険者ギルドに到着。

 どこの街でも同じ音のベルが鳴る。


 少女たちの登場に、ギロリと走る視線。

 女子供が何しに来た~と誰かが絡んでくる流れのはずだが、少し雰囲気が違った。


『おい、あれ、パレードに居た連中か?』

『って事は、王女殿下?』

『あぁ、それに聖女様だぞ!』


「なんか、やりにくいわね……」

「うん、でも、やるしかないわ!」


「こんにちは! Cランクパーティ『ノブレス・エンジェルズ』です。

 冒険者の研修の旅で参りました。よろしくお願いします!!」


『『『……』』』


 王女様御一行のはずが、冒険者パーティを名乗る事に驚きが隠せないギルドの冒険者たち。

 しかも、研修の旅という。何とも言えない静寂がギルド内に広がる。


「あれ? 間違えた?」

「合ってる。大丈夫」

「いいから早くいきましょ。空気に耐えられないわ……」


 そそくさと受付に向かうルリ達。

 全員の注目を集め、視線が痛い。




「ようこそ、冒険者ギルドフロイデン領支部へ」


 多少緊張している様子はあるが、普通に対応してくれる受付嬢に安心する。

 研修の課題として依頼を受けたい旨を伝えると、すぐに手続きをしてくれた。


「では、『ノブレス・エンジェルズ』の皆さんですね。すでに書類は出来ております。依頼達成、おめでとうございます!」


「「「「えっ?」」」」

「まだ何もしてないけど……」


 まだ受注もしていないのに達成と言われて驚くが、ふと、フロイデン領で依頼を受けていた事を思い出す。


「あ、輸送依頼ですね。そう言えば達成の報告、ギルドにはしていませんでしたね。ここで出来るのですか?」


「はい、ディフトでお受けした依頼ですが、領都でも報告が可能ですので、こちらで手続きさせていただきます。

 それから、あと4件の達成依頼もありますので、そちらも手続きさせてください」


「あと4件……?」


 輸送依頼の他にも4件、達成済みの依頼があるらしい。

 意味がわからず聞き返す。


「辺境伯様からの指名依頼が4件、達成済みになってますよ。サインもありますので間違いありません」


「なっ?」


 辺境伯の治療、そして兵士たちの治療で、依頼が2件。

 さらに、戦争の協力、つまり参戦の依頼が1件で、領都までの兵士の護衛が1件となっている。


 依頼として行った訳ではないが、確かに治療をしたし、戦争にも参加した。

 領都までの道中は、どちらかというと護衛を受けている気がするが、同行した事は間違いない。


「報酬は、合計で聖金貨120枚となっております」


「「「「はい?」」」」


 金額を聞いて、さすがに、ミリアとセイラも聞き返す。

 メアリーは、腰を抜かしそうになっていた。


「依頼報酬に加え、辺境伯様からの謝礼がついてますね。

 準備してきますので、少々お待ちください」




「辺境伯様ったら、言ってくれればいいのに。驚いちゃったわ」

「ね、普段は調子いいのに、こういう時だけお茶目なんだから……」


 セイラが説明するには、兵士ではない『ノブレス・エンジェルズ』が戦争に参加しているだけでもイレギュラーであり、本来受け取るべき論功報酬を渡しにくいらしい。

 冒険者という立場を利用し、依頼という形をとる事で、謝礼を行ってきたのだろうとの事だった。


「それにしても、多すぎない?」

「街ひとつ救って、戦争を終わらせたのよ。そう考えれば少なすぎるくらいよ」


 理屈は分かっても金額に信じられないでいるメアリーであるが、セイラにしてみれば当然の報酬額のようだ。


(だいたい1億2000万円かぁ。国の危機を救った英雄と考えれば、確かに少ないのかなぁ……)


 そもそもお金欲しさで戦争に参加した訳では無いので多い少ないはあまり興味が無いのであるが、冒険者としては破格の報酬である。


「辺境伯に、お礼言わなくちゃだね」

「うん、今日は早めにお屋敷戻ろうね」


 サプライズで報酬を準備してくれた辺境伯に感謝。何よりも、冒険者としてポイントの高い依頼達成が出来た事に、素直に喜ぶルリ達であった。

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