第125話 模擬戦

 ゼリスの屋敷で朝を迎える。

 約束通りに、領兵の詰所を訪れた『ノブレス・エンジェルズ』の4人。

 兵士に囲まれ、アイドル張りの歓迎を受けていた。


 王女を間近で見ようと集まった者。

 聖女に礼を言おうと集まった者。

 噂に名高い子爵家令嬢を遠くから見つめる者。

 王女や聖女に軍師言わしめる平民の天才少女と仲良くなりたい者。


 身分制度の影響だろう。王族であるミリアやセイラには、順番に挨拶やお礼をする列ができている。


「ひぃぃぃぃ」

 メアリーは、同じ平民という事もあり、握手を求められてもみくちゃになっていた。


 ルリの周りにも人だかりができている。

 貴族なのでもみくちゃにされる様な事はないが、親しみやすさでもあるのか、……近い。


「あはは、皆さん、こんにちは。

 朝からお元気ですね……」


 思わずどうでもいい事を呟くルリ。


『おぉ、女神様のお言葉だぁ!!』

『元気です~!!』


 もう……意味がわからない。

 ルリの一言一言に反応する兵士たち。


(な……ななな……アイドルじゃなくて、見世物じゃんこれ……)



 困っている所に救世主が駆け付ける。兵長とも呼ばれるお偉いさん、ゼンフィスト子爵だ。


「皆の者何をしている。困ってらっしゃるでは無いか!」

「「「も……申し訳ございません」」」


 一言で群がる兵士たちを払う子爵。

 権力者はこれがあるから、すばらしい。


「ところで、『ノブレス・エンジェルズ』の皆さん。冒険者である皆様にお願いがあります。

 当家の息子を、パーティに加えてくれないだろうか?」


「「「「はい?」」」」


 救世主、と思ったらとんだ厄介事であった。

 子爵の希望としては、成人を迎えた息子を冒険者パーティに加え、共に旅に連れて行って欲しいというもの。


 見ると、子爵の後ろにに男子が一人、ふんぞり返っている。

 なんか偉そう、……当然、お断りである。


「子爵様、お気持ちはありがたいのですが……」

「「「「お断りですわ!!」」」」



 問答無用の全否定。

 こういう時は、グダグダするよりも、態度をはっきりとさせた方がいい。


 無理難題で試験をするなども可能ではあるが、時間の無駄。

 イラついたならば鼻をへし折るなどしてあげるのであるが、ルリ達は忙しいのである。


「という事で申し訳ございません。

 では、これより領都に向かいますので、失礼させていただきますわ」


 場が白け掛けたのでさっさと退散。

 引くタイミングを作ってくれたという意味では、子爵は救世主だったのかも知れない……。





 辺境伯と合流し、領都へと向かう。

 セリスの街を出るまでは大歓声に包まれ、まさに凱旋パレードの幕開けに相応しい雰囲気となった。


「勝ってよかったね」

「うん、笑顔、守れたね」


 満更でもない表情で街を抜ける少女たち。

 そのまま、街道に出ると、領都へ向かって進み始めた。


 騎馬隊を先頭にした、1000を超える兵を率いた一団。

 その中央に、ルリ達の豪華な馬車が場違いに配置されている。


「久しぶりにすごろくしよっか~」

「いいよ~。罰ゲームは、こないだのルリのダンスね!」

「なによ、それ!!」


 アイドルの真似をして、踊ってみたダンスが、罰ゲームのお題になってしまって怒るルリ。

 ルリとしては、ふざけていた訳では無いのである。


「混ぜて混ぜて~、何それ? 楽しそう~」


 面倒くさがりのラミアやツンデレのセイレンと違い、好奇心旺盛なアルラネは、馬車の中のゲームにのって来た。

 魔物三姉妹を加え、白熱した勝負が繰り広げられる。




 領都までは馬車で約4日。

 徒歩の兵士もいるため、5~6日かかるらしい。


「ちょっとのんびり過ぎるわよね、先に行く?」

「それも思ったんだけどさ、凱旋パレードに付き合うって約束しちゃったし……」

「そうよねぇ、辺境伯様、張り切ってたものねぇ……」


 結局、領都に着くまで辺境伯に同行する事になったルリ達は、仕方ないので、毎日すごろくとトランプをしながら過ごしていた。

 途中、食料調達もかねて近くの森で魔物を狩りに出かけたりしていたのは、せめてもの愛嬌である。



「セイラ嬢とリフィーナ嬢はおるかぁ? 模擬戦をするぞぉ、がぁはっはっ!!」


 外で突然、大声がする。もちろん、辺境伯だ。

 休憩後の訓練で模擬戦をするから参加しろという事らしい。



 兵士たちが集まっている場所に行ってみると、兵士たちが打ち合っているのが見える。

 さすがは辺境伯の領兵、……強い。


 戦争中は籠城しており近接戦闘を見る機会が無かった為、初めて本気の戦いを見たルリ達。

 その迫力に、圧倒される。


「あの兵士たちと模擬戦ですか? 私たちなんてとても敵いませんわ」

「がぁはっはっ!! やってみん事にはわからんだろう!」


 学生の中ではかなりの高レベル、その辺の魔物や兵士には負けない程度の剣技は身に付けているつもりだが、謙遜してみせるセイラ。

 しかし、辺境伯が一蹴。断る間もなく、参加が決まった。


 近接戦闘においては、防御に特化したセイラと、素早い攻撃に特化したルリ。

 まずは小手調べにと、セイラが兵士と勝負する。


 ガキン


「重い! 王都でもここまでの重圧は滅多にないわ。本気で行くわよ!!」


 ドゴン

 ガゴン


 ひたすらに受けに回るセイラであるが、徐々に剣筋に慣れてきようだ。


 バキン


「勝負あり! 勝者、セイラ様!!」

『『『おぉぉぉぉ』』』


 最後は、大盾で剣ごと相手を弾き飛ばし、武器を落とした相手にセイラが詰め寄り勝利。

 重量だけならセイラの倍はありそうな相手が吹っ飛ぶ様子に、歓声が上がる。


「次はリフィーナ嬢だな!」

「はい、頑張ります!!」


 呼ばれて前に出ると、これまた強そうな兵士が相手のようだ。

 アメイズ流の双剣を構えてステップを踏み始めるルリ。


 カキンカキン

 バキン


「勝者、リフィーナ様!!」

「……?」


 兵士の重い攻撃も、当たらなければ意味がない。

 右へ左へと動きながら相手の剣をいなすと、くるっと回って首筋に打撃。

 ルリ本人が驚く程、あっさりと倒せてしまった。


「がぁはっはっ!! やはりアメイズ流の剣舞とは相性が悪いのぅ。どれ、少し邪魔をしてやろうか!」


 なんと続けざまにもう一戦。しかも、歩兵2名と魔術師2名を相手にする事になった。

 さすがに抗議するが、余興だからと戦闘開始が告げられる。


(相手に魔法使いがいるんだから、こっちも魔法使っていいのよね?

 でも、剣で倒さないと許されない雰囲気……)


 期待されているのはアメイズ流の剣舞。

 相手が何者であろうが魔法で倒せば簡単なのだが、それを求められてはいない気がするルリ。

 いつもの氷槍アイスランスは出現させずに、正面から立ち向かう事に決める。


「・・・赤く燃え滾る想いよ力を為せ、原始の炎と成りて、火球ファイヤーボール


 開始と同時に、魔術師が魔法を詠唱。

 突進してくる兵士の後ろ、ちょうど剣を避けるあたりに火球ファイヤーボールを飛ばしてくる。

 訓練された連携パターンなのであろう。


「私に魔法は通じませんわよ!!」


 兵士の横を超スピードですり抜け、真っ直ぐ火球ファイヤーボールに飛び込むルリ。

 双剣をテニスラケットのように振りかざす。


 ボシュン、ボシュン


「「ひっ!?」」


 ルリの近くで爆発するはずの火球ファイヤーボールが、勢いを増しつつ跳ね返って来た事に驚く魔術師たち。

 当然、想定外で避けられるわけがない。


 魔術師2人を戦闘不能にし、そのまま兵士に襲い掛かる。

 驚き棒立ちになった兵士など、ルリの敵では無い。



「がぁはっはっ!! 参った!! そこまでじゃ!!

 リフィーナ嬢よ、今何をした? 魔法を剣で打ち返したように見えたが……」


「得意技です! 秘儀、リターンエース!!」

『『『おぉぉぉぉぉぉぉぉ』』』


 テニス用語、カタカナでは伝わらないのであるが、雰囲気は理解されたようである。

 ルリの妙技に、歓声が上がる。



「リ、リフィーナ様! どうやるんですか?」

「教えてください!!」

「弟子にしてください! ずっとついて行きます!!」


 感覚で行っている為説明が難しいのだが、剣に魔力を込める事など伝えるルリ。

 着いて来られても困るので、一所懸命、説明した。


 いつの間にか、模擬戦の会場はルリの講習会場に。

 領都までの道中、一番の盛り上がりであった。


 魔力の扱いに長けている必要があるので、習得した者は少ないが、その後、フロイデン領の領兵の間で、『リターンエース』が大流行した事は、言うまでもない。

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