第121話 お説教

 クローム王国とエスタール帝国との戦争は、砦近くで行われた指揮官同士の会談により終結を迎えた。


 異次元のチカラを持つ少女たちの脅威。

 それが影響を与えた事は、間違いない。



「最後にもうひと暴れと思ったんだけどなぁ……」

「「「……」」」


「悪魔ね……」

「悪魔だわ……」

「……。落ちたわね……」


 自国に帰ろうと通過する敵兵を見ながら、ふとしたつぶやきに徹底的に突っ込まれるルリ。

 言っていい事と悪い事がある。……それが分からない程バカでは無いはずなのだが……。



「ルリは……。女神卒業して死神か悪魔に弟子入りしたのね。

 もう少し考えて行動しないと、痛い目見るわよ……」


「ごめん……。私、調子にのってたかも……」


「そうよ。悪魔や死神に取り憑かれてるとか噂が立たないように注意してね」


 冗談めかして優しく注意するセイラやメアリーの心に打たれ、反省するルリ。

 やりすぎ……いつもの事ながら、必ず怒られる、ルリのテーマである。


 敗戦の兵が、トボトボと目の前を歩いている。

 フロイデンの領兵にとっては、仲間を殺した相手。逃がす事に対して、思う所も大きいであろう。

 それでも、未来を想って耐え、平和の為に戦っているのである。

 仮にも次期領主という立場のルリが、無配慮な行動をとるなど、許されないのである。


「みんな、ありがとう。私、もっと考えるように頑張る!

 死神じゃなくて、次からは可愛い変装にするわ!」


「「「そこじゃ無い!!!」」」




 分かってるようでわかっていないルリが、再度説教をくらっていると、背後から大きな声が聞こえてきた。


「がぁはっはっ!! 勝利の立役者が、何沈み込んどるのかぁ?

 そろそろ日も暮れる、夕食にするからこっちに来い!!」


 思えば早朝にゼリスの街で戦闘を始めてから、ずっと戦い詰め。

 食事もとらずに動き続けていたのだから、お腹も減る。


「やったぁ、そう言えば何も食べてなかったよぉ」

「まったく。本当に反省してるのかしら? この娘は……」

「まぁ、話は後にしましょ。確かにお腹減ったわ……」


 一瞬でご飯モードに切り替わるルリに呆れるセイラではあるが、食欲には勝てず……。

 揃って食事を準備しているというテントに向かうのであった。



「あぁぁ。兵士の……男の料理って感じね……」

「こうなるわよね……」


 出て来た料理は、干し肉と、具の無い、味のしないスープ。

 少し期待していたルリ達ではあるが、状況を考えれば納得する。


 さっきまで戦争をしていたのである。

 まともな食料など、領兵が持ってきている訳がない……。

 また、砦には厨房があり、多少は食料も残っているのだが、料理人がいない。



「ねぇ、いいかなぁ……」

「仕方ないわね。ルリ、やっちゃっていいわよ……」


「辺境伯様、砦の厨房、お借りしてもよろしいでしょうか。

 あと、食材を少々……」


「構わんが……。子爵家の嬢ちゃんが何かできるのか?」


「うふふ、任せてくださいませ!」



 辺境伯の許可をもらうと、メイド三姉妹と共に厨房に向かう。

 戦渦で荒れてはいるが、使えそうである。


「ウルナ、使えそうな食材探してきて。2000人以上いるからね、大鍋でどんどん作れるものがいいわね」


 もともと何千人もの兵士が待機していた砦である。

 一時帝国が占拠していたとは言え、倉庫にはそれなりに食料の備蓄があるはずだ。


「リフィーナ様、小麦粉と塩は大量にあります。後は干し肉など、保存性の高い食材ばかりですね……」


 厨房でせっせと鍋の準備をしていると、戻って来たウルナが報告する。

 残っていたのは、粉モノや保存食など。

 多くは帝国兵が食べてしまったのであろう。



(小麦粉かぁ。うどん? 切るのが面倒ね……)


 何と言っても数が多い。

 それに時間も無いので、さっと作れる食事が望ましい。


「小麦粉を水で捏ねておいてくれる? 少し塩も振ってね」

「うどん、ですか?」

「いや、切るの大変だからさ、お団子にしよう。捏ねたら、一口サイズに丸くするだけでいいや」


 手が空いている兵士にも手伝ってもらい、大量の小麦粉団子を作る。

 鍋に放り込んで少し煮込めば、モチモチの食感を楽しめる。

 イメージとしては、すいとんに近い。


「アルナとイルナは、こっち手伝って!」


 厨房から表に出ると、アイテムボックスから焼肉のコンロを取り出して設置。

 そして……。


 ずどぉぉぉぉん


 巨大な象マンモスを丸ごと取り出した。


 突然の巨大な象マンモスの出現に驚く兵士たち。

 剣を構える者もいる。

 苦しめられた敵なのだから仕方がない。


「みなさ~ん、焼き肉しましょう!!」

「「「「「おお!!」」」」」



「がぁはっはっ!! 収納魔法かぁ! そう言えば補給物資を持ってきてくれたのもお嬢だったなぁ」


「遠慮せずいただこう!! 敵を倒し、食う!! 勝利じゃぁ!!」

「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ」」」」」


 今日一番のような盛り上がりを見せ、焼肉が始まった。

 アルナとイルナが手際よく捌き、どんどん兵たちの胃袋に収まっていく。


『肉うめぇ!!』

『このモチモチもうまいぞぉ!!』

『勝ったぞぉ!!』

『リフィーナ様ぁ、好きだぁ~!!』


(汚名返上、面目躍如よ! 死神じゃないんだからね!)


 兵士たちの心……胃袋を掴む事には成功したらしいルリ。

 ドヤ顔でセイラ達の所に戻る。


「どうどう? 死神じゃなくて女神に戻れたかな?」


「むしろ驚いてたけど……」

「みんな肉に夢中だったしなぁ……」

「死神だの悪魔だのと恐れてるのは帝国兵だから……」


 バッサリとあしらわれるルリ。

 むしろルリの女神感を高めた結果になってしまったようである……。



「がぁはっはっ!! よう食ったわぁ。リフィーナ嬢の手際、恐れ入ったぁ。

 決めたぞぉ! 息子の嫁に来い。領都に戻ったら祝言じゃぁ!!」


「へっ?」


「いやいや、あなたの息子さん、既に成人してご結婚されてますよね?」


 単に驚いたルリだが、セイラが冷静に返す。

 貴族の事情には、何かと精通している。


「がぁはっはっ!! そうじゃったの。孫はどうじゃ? もう10歳になるはずじゃ、可愛いぞ!!」


「あはははは、でも、私は……」


「ルリ、言ったでしょ。辺境伯様には曖昧な態度はダメだって。

 辺境伯様、お断りしますわ。アメイズ子爵家の一人娘ですから、お嫁には出せませんの!」


「なんじゃセイラ嬢、親みたいな言い分じゃな」


「そうですわ。この非常識娘は、手綱を握っておかないと、ふらふらと何仕出かすか分かんないんですから。お相手は、私が見定めてから決めさせていただきますの」


 勝手に話が進む結婚話をきっぱり断りつつ、とんでもない事を当然のように言い放つセイラ。



「ルリ、大丈夫ですわよ。セイラはしっかりしてますから! いい人を選んでくれるわ」


 ミリアがフォローに回る。しかし……。


「ミリアに近づく男は、私が全て切り捨てますからね。余裕な顔してたら怒りますわよ!」


 ルリ以上の剣幕で睨まれ、とばっちりを受けるミリアであった。




「がぁはっはっ!! 若者はいいのぅ!!

 ところで、明日には領都へ帰るがどうする? 一緒に来るかぁ?」


「辺境伯様、ありがとうございます。元々、領都へ向かう旅の途中でした。ぜひご一緒させてください」


「そうか!! ならば凱旋じゃぁ!! がぁはっはっ!!」


 少女たちのやり取りを微笑ましく……驚きながら見守っていた辺境伯だが、話を変えるとそそくさと去って行った。

 結婚話に誰も乗ってこないので、面白くなかったのだろう。一般的には、決して悪い話では無いはずなのだが……。




 翌朝、ルリ達は砦を後にした。

 兵のほとんどはそのまま警備に残る為、少数の兵だけを連れての移動となる。

 とは言え、敵はもういないので、特に問題は無い。



 どさくさに紛れてミリアやルリ、そしてメアリーに子供や孫を紹介しようと企む辺境伯。

 何も考えていない3人を心配し、辺境伯の思い通りにさせまいと策をめぐらすセイラ。


 セイラとしては、ミリアは当然ながら、ルリもメアリーも、王族に匹敵するような男子と結びつけないと、気が済まないのである。


 それぞれ思惑を含みながらも、やっと、目的地であるフロイデン領都に向かう事になった、ルリ達であった。

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