第119話 死神
包囲していた帝国兵を、ルリ、セイレンの常識外れなチカラと、ミリアの
ゼリアの街は、敵軍の殲滅に、湧きに沸き立っていた。
『王女様ぁ』
『女神様ぁ』
塔の上で兵を鼓舞し続けるミリアに、溢れんばかりの歓声が上がる。
「敵軍が復活する前に、勝負を決定づけたいわね」
参謀である軍師メアリーが、すぐに次の作戦に移るように促す。
その作戦は、……全軍による、総攻撃。
ミリアの電撃によって広範囲に感電したとはいえ、帝国兵は全員死んだ訳ではない。
しびれて動けなくなっている今が、敵を倒すチャンスなのである。
「
援護しつつ、メイドさん達に頑張ってもらいましょう。
街の門を開けるというリスクを冒すからには、絶対勝つわよ。遠慮なしで行こう!!」
「「おー!!」」
せっかく動かなくなっている
メイド三姉妹、……アルナ、イルナ、ウルナの3人は、アメイズ流の剣舞を身につけた剣の達人たちだ。
作戦の重要な役割を受けると、意気揚々と、門が開くのを今か今かと待ち構えていた。
『王女殿下に続けぇ!! 門を開けろ!! 全軍突撃!!』
『うぉぉぉぉぉぉぉぉ』
領兵の指揮官が号令をかけると、閉ざされ、耐え続けてきたゼリスの正門が開かれる。
メイド三姉妹を先頭に、領兵たちが走り出した。
「
「
遠慮なしに魔法を放つミリア。
メアリーも、魔法の弓矢を放ち援護する。
セイラは、正門に大盾を構えて、仁王立ちになっている。
「イルナ、ウルナ、参りますよ!」
「ふふ、誰が一番魔物を倒すか競争よ!」
「キレイに切ってよ! あとで調理するんだから!」
武闘派のイルナが、長女アルナを追い越して魔物に向かう。
料理人のウルナは、
ザシュ
ザシュザシュ
電撃で動きが鈍った
「おっと! なんかビリビリした!!
「水溜まりはビリビリするって言ってたでしょ!」
「それにメイド服が汚れるわ、入らないでね!」
会話しながら戦える程度に余裕がある。
ゼリスの街を苦しめた魔物軍団は、3人のメイドの手によって、料理の素材へと変わっていった。
『左右に展開!! 敵を殲滅しろ!!』
領兵たちは、倒れた正面の敵軍の横を走り抜け、城壁に沿って陣を進めていた。
電撃の届かなかった街の側面や後方にいた敵軍は、無傷で残っているのだ。
しかし、本軍を撃破された帝国軍と、士気旺盛な王国軍では、勢いが違い過ぎた。
次々と蹴散らし、城壁の周囲を解放していく。
猛烈な勢いで突進する領兵を前に、帝国兵は逃げ惑うしかなかった。
電撃を受けた、正面に居た帝国兵は、悲惨だ。
辛うじて感電から意識を取り戻し、ふらふらと起き上がりでもすれば、城壁から弓矢が飛んでくる。
かと言って倒れたままでは、いずれ止めを刺しに来た兵に、槍か何かで突かれて終わりであろう。
死の恐怖……。帝国兵は、絶望の中、今は息をひそめて死んだふりを続けるのであった。
さて、正面の帝国兵の先、川沿いには、ルリと魔物三姉妹が佇んでいる。
「我はここで待っていればいいと思うが」
「え~?? 何か面白い事しようよ~」
「私は……川で遊んできてもいいかなぁ?」
「どうしようかなぁ。みんな戦ってるんだろうし……。
そうだ、ちょっと敵軍に陣地に遊びに行かない?」
「行く行く~」
「「……」」
乗り気なのはアルラネだけ。ラミアとセイレンは、あまり歩きたくないらしい。
「すぐそこだから。ねっ?
あそこに大きいテント見えるでしょ、あれを見に行きたいの!」
ルリが指差したのは、敵の本陣らしき、一際大きなテント。
敵の指揮官が陣取っていると思われる場所。
「いいよいいよ~、それで、行って何するの?」
「敵兵が生きてたら、脅かしてやるのよ!」
「はぁ~? 何それ~?」
「ほら、その辺に転がってる人たち、邪魔でしょ? 脅かしたら、自力で逃げてくれるかなって。
おらおら~、ひぇぇぇぇ、逃げろ~ってなったら、楽しくない?」
ルリの説明で魔物三姉妹が理解したとは思えないが、とにかく、4人顔を突き合わせて打ち合わせを行う。
(天使……いや、悪魔、死神がいいわね……)
真っ黒なドレスに着替えると、行こうと合図するルリ。
敵の本陣に近づくと、低い声で叫んだ。
「我らが住処を荒らすのは~、お前らかぁぁぁぁ!!」
黒いドレスに深々とフードをかぶり、指先だけ魔力で光らせたルリ。
仮装大会であればこの上なく可愛らしいのであるが、この死地においては死神のように……見えなくもない。
ノリノリのアルラネは、自身は少女のような愛嬌ある出立であるものの、周囲の草の蔓を伸ばして不気味さを演出したようだ。
セイレンは、川から魔物を連れてきたようだ。
大きなカエルの背中に、『人魚』の姿で乗っている。
正直……、気持ち悪い。
ラミアはと言えば、『蛇女』の姿に戻っていた。
演出無しで恐怖の対象に思える、まさしく魔物の姿である。
「我らが住処を荒らすのはお前らかぁ、即刻立ち去れ~、さもないと~」
『ぎゃぁぁぁぁ』
『ひぃぃぃぃ、お助けを~』
『てっ、撤退!! 全軍撤退ぃぃぃぃ』
(うふふ、死神様御一行、うまくいったかな?)
敵将が逃げ去るのを見届け、そのまま草原の木の陰から大混乱の敵軍を眺めるルリ達。
死んだふりをしていた兵も、指揮官の逃亡に、慌てて起き上がり走り出した。
「うふふ、逃げろ逃げろ~」
「あはははは、転んだ転んだ~」
アルラネは、適当に草を絡ませては、兵士を転ばせて遊んでいる。
ラミアは、『蛇女』の姿で戦地を一周した後、ヒトの姿になって戻って来た。
セイレンがいないと思ったら、川を渡る兵に魔物を焚きつけている。
ミリア達や領兵が街で頑張っている頃、密かに、悪魔様御一行のちょっとしたいたずらによって、戦争は終焉を迎えていたのであった。
ゼリスの街では、包囲した帝国兵を一掃した領兵が、次々と起き上がって逃げていく敵を、歓喜の目で見つめていた。
武器ももたず、脇目も振らずに、泥だらけになって砦へ走っていく敵兵。
『勝利だぁ』
『敵が逃げていくぞ~』
『王女様ぁ』
「まだです! 街道を進軍していた敵軍が、まだ5000近くいます。次の戦いに備えてください!」
勝利に沸く領兵に、陣形を整えるように言うメアリー。
いつの間にか、領兵の指揮官も、メアリーの指示に従う状態になっている。
「騎馬隊を編成し、逃げる敵を追い立てながら砦に向かってください。さっさと出ていってもらいましょう。
それよりも、辺境伯と合流し、砦の防衛を固めます。敵の全軍が無条件で降伏するならば無理に戦う必要はありませんが、王国内に残っている敵が全員撤退するまでは、気を抜かないでください!」
すぐに約2,000の騎馬隊が編成される。
本陣が壊滅し砦が奪還された今、街道を進んでいた敵軍が進軍を継続する可能性は低い。
ましてや、引き返してゼリス城塞を攻める可能性も低い。
残った敵は、全力で帝国に帰還することを考え、死に物狂いで砦を通ろうとするだろう。
補給もない中、敵国内をさ迷う事は避けると、メアリーは予測していた。
「私たちも、砦に向かいます。ミリア、来てくれるわね?」
「もちろん!」
閉門して守りを固める事をお願いすると、騎馬隊と共に、ミリア、メアリー、セイラ、そしてメイド三姉妹も砦に向かった。
メアリーとしては、逃げ惑う兵と、ルリ達、あるいは辺境伯が戦闘になっていないかと心配でもあった。
「あっ、ミリア~!! そっちは終わったのね?」
「ルリ? 何やってるの?」
ミリア達の騎馬隊が川に差し掛かった時、ルリ達は……川で遊んでいた。
夏では無いので水着で泳ぐ訳ではないが、ちゃぷちゃぷする位なら、気持ちがいい。
「砦に行くの! ルリ達も行こう!」
「は~い」
砦に行くと、辺境伯が元気に出迎える。
「がぁはっはっ!! 此度の戦、勝利じゃな!! 皆もよくやったわぁ!!
先刻より、死にそうな敵兵が砦に逃げ込んできてな、最初は全員切り殺そうかと思ったんじゃが、数も多いし、今はそのまま通しておる」
「不要な死人を出さない事、辺境伯様、感謝しますわ」
戦争において、勝利が確定したのであれば、それ以上は無駄に殺さない事が美徳となる。
まだ敵が前面降伏した訳ではないのであるが、状況的には王国の勝利と言っていいであろう。
捕虜として捕らえる事も出来たが、500人の味方でどうこうできる逃亡兵の数では無かったため、諦めたらしい。
「がぁはっはっ!! 何人か、偉そうなのは捕まえておいたからな。一般兵は逃げても仕方ないじゃろう。
ところで、お主ら、何をした……?」
「何をって……兵士さん達と全力で戦って、敵を追い返したんですよ?」
「それならいいが……。女神の天罰が下ったとか、死神が魔物を連れて現れたとか、女の姿をした悪魔に祟られるとか……。敵が全員、酷く怯えておる……」
こっそりと会話から抜け出そうとするルリを、ジト目で睨むミリア達。
「天罰は分からなくもないけど……」
「死神?」
「悪魔?」
「「「何やったのよ!?」」」
(これでしばらくは、帝国も攻めてこないわね!)
ラミアの後ろに隠れ、そっと微笑む、ルリであった。
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