第118話 天罰
『ゼリスの民よ、フロイデンの民よ、奮起せよ!!
我はクローム王国第三王女ミリアーヌ』
街の人々、城壁内で戦う兵士たちが見渡せる塔に登り、ミリアが始めたスピーチ。
メアリーからの作戦は、兵を鼓舞して何としても街を守ってもらう事。
面白がったルリが魔法で後光を演出し、妖精たちがミリアの周りで舞い踊る。
『王女殿下ぁ』
『天使だぁ、天使が舞い降りたぁ!!』
地響きのような声援が巻き起こり、兵士たちの闘志に火が付く。
妖精の姿は、一部の魔力の強い兵士にしか見えていないはずであるが、一様に、神の降臨を見るような、恍惚とした表情で、ミリアを見上げていた。
『弓矢を持つ者は全員城壁に上がれ!! 石でも何でも、投げられる者は全て武器にして戦うんだぁ!!』
『門を守れ!! 魔物だろうが知るか! 絶対に通さない!!』
後方で意気消沈していた兵、怪我で休んでいた兵までもが続々と立ち上がり、武器を手にすると、城壁から攻撃を始める。
『今こそ、強さを見せる時です! 砦は辺境伯が奪い返しました。敵は目の前にいる有象無象のみ、見えている兵を倒せば、勝利です!!
女神の加護の元、負ける事など有り得ません!! 今こそ、戦いの時です!!』
ミリアの檄が飛ぶ。
兵士が一人、また一人と奮起し、敵に向かっていく。
この瞬間、ゼリス兵の指揮は、開戦以来の最高潮に達していた。
「メアリー、それで、この後どうするの? 私に続け~って、勢い的には、ミリアが魔法どーんするの?」
「ううん、それなんだけど、あの川、使えないかな?」
「川?」
スピーチを続けるミリアを見ながら、メアリーに話しかけるルリ。
返答されたのは、川を使うという予想外のワードだった。
(川……水攻め? でも、こんな平原じゃぁ水没するには水が足りないわよね……)
川を溢れさせて城を水没させるという戦法は、ルリも歴史の授業で聞いたことがある。
しかしそれは、川沿いとは言え平原で行われる様なものではない。
不思議そうな顔で、メアリーを見つめ返す。
「兵士さん達が頑張ってくれるおかげで、敵の攻撃が分散してるし、正門も、もうしばらくは持ちそうだわ。今のうちに、敵を一網打尽にしたいのよね。
でも、ミリアとルリの魔法でも、さすがにこの広範囲は一度に相手できないでしょ」
「うん、それと、川がどうつながるの? 水だけじゃ致命傷にはならないと思うわよ」
セイレンの『人魚』の力を考えれば、川の水を操る事は問題ない。
しかし、水では、溺れでもしない限り、相手を倒す事は難しい。
にやっとした顔のメアリー。こういう時は、必ず無茶を言う……。
「ねぇルリ、あの川まで、セイレンと一緒に行ってきてくれるかな?」
「へ? 敵兵のど真ん中を突っ切って?」
「うん!」
「……」
敵軍3000が展開する中を、川まで行って来いと言うメアリー。
さすがに無茶な依頼ではあるが、ルリとしても不可能とは言い難い。
(うふふ、期待に応えてあげましょうか!)
川まで行くというミッションであれば、魔法でどーんと道を作って駆け抜ければいい。
不可能では……ない。
「では、ルリとセイレンによる突撃作戦を行います。
全員連携して、敵を一掃しましょう!!」
メアリーから作戦を聞き、城壁の上に並んだルリとセイレン。
ツンデレ気味なセイレンも、役立つ事、出番が回ってきた事を喜んでいる。
「それじゃぁ、いっちょ川までいって敵軍に泡吹かせてくるわ、セイレン、準備いいわね!」
「ふん、いつでもいいわよ!」
「ミリア、合図お願い!」
『ゼリスの民よ、これより、女神の一矢を敵に放つ。
とくと見るがいい、女神の怒り、王国の怒りを!!』
セイレンの手を右手でつかみ、左手に魔力を貯めるルリ。
開いた手のひらが輝き出す。
「一気に行くわよ!
ルリの手のひらから、氷の矢が放たれる。
周囲の空気、窒素を収束させ、氷矢の射線が氷結していく。
川まで一直線に、氷の道が生まれた。
「ひゃっほ~い!!」
「きぃゃぁぁぁぁ!!」
丘の上から川に向かって一直線に伸びた氷の道、つまり……滑り台。
ウォータースライダー状態で、ルリとセイレンが滑り落ちていった。
セイレンは、想定外の事態なのか悲鳴を上げていた。
「うわぁ、楽しそう!! 私も行く~!!」
「な、離せ、我は別に……」
巨大な滑り台を見て、居ても立ってもいられなくなったようで、アルラネがラミアを連れて滑り台に飛び込む。
壮絶な悲鳴と笑い声を残しながら、ルリと魔物三姉妹は、川まで滑走するのであった。
突然、空中に出来た氷の道と、その上を通過した少女たち。
帝国兵は、混乱……呆気にとられていた。
それでも、すぐに立て直すと、川辺に降り立ったルリ達を囲んでくる。
(あはは、文字通り、背水の陣ね……)
川辺で敵兵に囲まれたルリ達。
背後には川しかなく、逃げ道が塞がれている。
「ん~、向こう岸まで渡る?」
「できるの? ラミア達まで来ちゃったし、川を渡っていったん落ち着きたいわね」
「いいわよ」
ざざ~ん
セイレンが川に触れると、……川が、割れた。
川の水が壁となって立ち上がり、川底を歩ける道になっている。
「セイレン、凄いわね……」
「ふん、何てことないわよ」
帝国兵が慌てて追いかけてくるが、当然のように川の道は塞がり、帝国兵は次々と川の水に飲まれていく。
無事に反対岸まで到着したルリ達は、メアリーから授かった作戦を実行する事にした。
「やるわよ。川の水を全部巻き上げて、雨のように降らせればいいのね」
「うん、味方にはかからないように、帝国兵だけ水浸しにすればいいって言ってたわ」
ごぉぉぉぉぉぉぉぉ
セイレンが再度、川の水に触れると、轟音を立てながら川の水が天に昇って行った。
何本もの水柱が、竜巻のように浮かび上がっていく。
ざっばぁぁぁぁん
その水は、竜のように空中を舞いながら、帝国兵の上空を覆いつくすと、一気に降り注いだ。
雨と言うよりは、滝のど真ん中にいるような状態。
帝国兵が陣取る一帯が、川の水でびしょ濡れになる。
ぴかーん
その時だった。
ゼリス城塞の上空で、強力な光が発生する。
バリバリバリバリ
ビリビリビリビリ
敵国陣地を直撃したのは、無数の雷。
ミリアの電撃の魔法だ。
びしょ濡れの状態で直撃する雷。地面一体に電気が走り、バチバチと火花を上げる。
紫色の光……電気が帝国陣を一蹴した後、無事に立ち上がれる者は、……いなかった。
『祈りよ届け!! 天の怒りを思い知れ~』
プラズマ、放電! 放電! 放電!
城塞では、ミリアが格好いいセリフを言いながら、電撃魔法を連発していた。
王女の祈りにより天罰が下った、城塞の兵士には、そう見えたであろう。
「すごかったわね……」
「ここまで来ると、魔法じゃなくて本当に天罰に見えてくるわ……」
バチバチと光りながら問答無用で敵を飲み込む惨劇を見て、さすがに言葉を無くすミリア達であった。
「まだ、終わりじゃないわよ!
正面に陣取っていた敵軍はほぼ一掃したものの、周囲に展開していた兵や、街道に行っていた敵兵は無傷で残っている。
「もう遠慮なし! 見えた敵を全力で倒すだけよ!」
「「おー!!」」
『ゼリスの民よ、敵に天罰が下った!! 残兵を殲滅せよ、死力を尽くして、戦争を終わらせるのよ!!』
『おおおお!!!!』
『王女様ぁ』
『女神様ぁ』
湧きたつ兵を鼓舞し、最後の決戦に備えるミリア達であった。
その頃ルリ達は……。
「それで、これからどうするの?」
「う~ん、作戦は完了したし……どうしよっか……」
「何なの? どうにかしなさいよ!」
川の反対側に取り残され、途方に暮れていた。
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