第103話 敗北
アメイズ領都あげての軍事演習。
その最中、セイラが魔物の襲来に気付いた。
「森の奥からゆっくりと近づいて来てる。数は50体以上!」
「よし、行きましょう!!」
元気に歩き出す『ノブレス・エンジェルズ』の4人。
途中でイルナに伝言をお願いする。
「イルナ、ラミアとセイレンに、門まで戻るように言ってくれる? 演習の魔物はもう十分、これからは本番よ!」
軍事演習では、『蛇女』のラミアが蛇型の魔物を、『人魚』のセイレンが川の魔物を集めてくれた。
しかし、本物の魔物の集団が来たとなれば、呑気に演習を行っている場合ではない。
「衛兵の皆さん、15分後くらいに、本物の魔物の集団が襲ってきます。ここから先は、演習ではありません!」
「ど、どういう事ですか?」
「強力な魔物の気配を探知しました。数は、50体以上です。戦い……血のニオイにでも釣られたのでしょう」
衛兵たちが大騒ぎになる。
カンカンカンカン
鐘がけたたましく鳴り、新たな敵の襲来を伝えた。
「森の中で戦いたくは無いわね。門前で迎え撃ちましょう!」
「「「了解!」」」
森の中では、火魔法が使えない。
東門と森の間にある、100メートルほどの草むらで戦闘する事を選ぶ。
「衛兵さんは、門の前で戦闘隊形。私たちが打ち漏らしても、街の中には絶対に魔物を入れないようにお願いします。
冒険者の皆さんは、私たちと一緒に、前線で戦ってください。命を大事に、無理はしないでくださいね」
門前に到着すると、付近の衛兵や冒険者に指示を出す。
とは言え、大半はまだ、蛇やカエルと戦闘中だ。陣形を整えている場合ではない。
「蛇とかカエルとか、邪魔ね。ちょっと減らそうかしら……」
「そうね、一度戦闘を落ち着かせましょう!」
「ちょっと、行ってくるわ!」
ミリアとルリが、東門近くの外壁に登ると、周囲の魔物に狙いを定めて魔法を放つ。
ビリビリビリビリ
ズドドドドォォォォン
「冒険者さん、近づくと危ないわよ。もう一発行くから離れて!!」
「プラズマ、放電!!」
「
ビリビリビリビリ
ズドドドドォォォォン
天空から打ち下ろされた電撃と氷の塊で、周囲が神秘的に輝く。
轟音が収まると、門の周辺にはカエルやトカゲが転がっていた……。
「ルリ、邪魔だから収納しておいて。これで、戦闘スペースは確保できたわね!」
「うん、さっさと終わらせよう!」
衛兵や住民兵、そして冒険者が寄ってたかって戦っていた魔物の群れを、一瞬で片付けてしまったミリアとルリ。
『あれが第三王女と子爵家ご令嬢かぁ、すげぇな……』
『盗賊500人切りってのはウソじゃないんだな……』
唖然とする冒険者を後目に、次の敵に備えて『ノブレス・エンジェルズ』は最前線に移動した。
「リフィーナ様、お待たせしました。私たちも参戦します」
そこに、ラミアとセイレンを呼び戻したメイド三姉妹が駆け付ける。
最強の布陣が、……揃った。
「距離150メートル、約60体。もうすぐ見えるわよ!」
「何の魔物? 食べられそう?」
「う~ん、わかんない。……いや、疑問、そこ?」
魔法攻撃が得意なルリ達にとって、魔物の数は大きな問題ではない。
それよりも、大量という事は大漁という事で、討伐後に自分たちに役立つのかが、重要なのである。
「ん? 牛?」
「おお! 食材キター!!」
森から顔を出したのは、牛……マッドブルの群れだった。
強さはオークと同じ程度、ルリ達の敵では無い。
「違う、後ろから大きいのが来る! ……ミノタウロス!?」
「しかも……。10体以上いるわ!!」
「ちょっと、これはヤバいわよ。食材とか言ってる場合じゃないわ!」
牛の群れを率いていたのは、牛の顔をした強力な魔物、ミノタウロスだった。
強さは比では無い。頑丈で、傷を付ける事さえ困難な魔物。集団となればAランクに相当する。
「提案いい? 強さが分からないわ。私とセイラで、少し剣を交えてきたいと思うの。無理せず帰ってくるから」
「わかった。気を付けてね」
メアリーの返事を受け、セイラとアイコンタクトを取ると、ルリは前方のミノタウロスに一気に突っ込んだ。
バシュ、ズドォォォォン
ルリの剣に合わせて振り下ろされたミノタウロスの斧が、セイラの大盾にぶつかる。
轟音と共に、ルリとセイラは後方に弾き飛ばされた。
もともと逃げるつもりで突っ込んだので、衝撃によるダメージはない。
しかし、2人がかりでも、斧の一撃を受け止めきれなかった事は間違いない。
(これは、不味いわね。身体強化してなかったら一撃死だったかも……)
「強いわね。全力で止めに行けば耐えられるとは思うけど……」
「うん、あの馬鹿力、とんでもないわね。あの斧……あれを何とかしないと……。
ねぇセイラ? 何で魔物が斧持ってるの???」
「知らないわよ! もう……真面目に考えなさいよ」
ついでとばかりに、
斧を使った高い攻撃力、魔法が通じない防御力。かつてない強力な敵である事は、間違いない。
それでも、ルリはまだまだ余裕だ。このパーティで、魔物に負けた事など一度もない。
「どうだった?」
「うん、強いわ!」
「……。それだけ?」
「うん、お肉硬そう。たぶん美味しくないわね」
「「「……」」」
ふざけている訳ではない。食べ物では無いのであれば、燃やしてしまっても問題ないのである。
メアリーが作戦を伝える。
「じゃぁ、ミノタウロスの肉は諦めるわよ。
たぶん、真ん中の一際大きいのが、あの群れのボスだと思うの。1対1で戦えない以上、全部を同時に相手にするのは無理だわ。だから、一点突破、ボス狙いで行きましょう!」
群れのボスを倒す……倒せないまでも追い払えば、他の魔物も一緒にいなくなる可能性は高い。
作戦は、まず、ルリとミリアの炎魔法でミノタウロスを焼く。
怯んだ隙に、ルリとセイラ、メイド三姉妹が突っ込んで、ボスに少しでもダメージを与える。
同時に、他のミノタウロスが戦闘に加わらないように、ミリアとメアリーが魔法で援護する。
「さぁ、行くわよ。作戦開始!!」
メアリーの号令で、ルリとミリアが、魔法を繰り出した。
「「
ぐぉぉぉぉん
超高温の青白い炎がミノタウロスの群れを包み込む。
雄叫びをかき消すかのように、炎は収束し、ミノタウロス一体一体の顔を覆った。
(顔を炎で覆えば息が出来ないはず、少なくとも、視界は遮ったはず……)
炎が着火したのを確認すると、直ちに走り出すルリ。
両手に双剣、ミニ浴衣風のローブを翻して、ミノタウロスのボスに突進する。
(炎の魔力を双剣に充填、
全力の戦闘モードでボスに肉薄すると、空高く舞い、首元に剣を振り下ろした。
グワッ
ガキン
バシュ
見えていないはずのボスが、見透かしたかのように斧を薙ぎ払う。
しかし、その攻撃を、がっしりとセイラが止める。
右腕で振り下ろしたルリの剣が、ミノタウロスのボスの首元を捉えた。
(うわっ、カタっ! でも……)
確かに首に当たったが、ついたのはかすり傷。
それでも、攻撃の手を緩めるつもりは無い。
回転しながら背後に着地すると、今度は足首を切り付けた。
「ただ切り掛かっても硬すぎるわ。弱点を突きます!
セイラとアルナは、攻撃を引き付けて。イルナとウルナは、私と一緒に足首の後ろ側を狙って!」
3メートル近い巨体、首は狙いにくい。
しかし、人の弱点であるアキレス腱ならば、目の前を切り付けるだけで届く。
アキレス腱が弱点なのかは不明だが、同じ二足歩行の動物ならば、急所である可能性は高い。
周囲をちょこまかと跳ね回るルリ達に、強引に斧を振り回すボス。
ヒットアンドアウェイの戦法で、攻撃をよけながら、徹底的に足首を切り付けた。
(時間がかかりすぎるわね。このままじゃ、他のミノタウロスに囲まれちゃうわ)
「一度距離を取りましょう。魔法での足止めが限界だわ!」
顔に纏わり付く炎魔法を拭い去り、周囲のミノタウロスが動き始めるタイミングで、ルリ達は一度、メアリー達のいる後方に下がる。
「もう一度やりましょう!」
「わかった。
少しはダメージを与えられたのだ。
同じことを何度か繰り返せば、いつか倒せると考えた。……のだが。
ミノタウロスにも少しは知能がある様だった。
迫る
そのまま、一斉に突進してきた。
「まずい、
「
慌てて魔法で壁を作る。
しかし、壁などもろともせず、ミノタウロスは余裕で突破してきた。
5人がかりで1体を相手するのも大変なミノタウロスが、10体以上……。
がしぃぃぃぃん
迫る斧を受け止めたのは、セイラだった。
「ミリアは私が守る! 早く逃げて!」
「でも……」
「いいから、急いで!」
がきぃぃぃぃん
「リフィーナ様も、早く逃げてください!」
メイド三姉妹も、細腕で斧の攻撃を受け止めていた。
しかし、体勢を崩したセイラやメイド達の元に、ミノタウロスの追撃が迫る。
さらに、逃げようにも回り込まれてしまい、防御力を持たないミリアやメアリーにも、斧が振り下ろされようとしていた……。
(まずい、まずいまずいまずい。こんな時は、女神様ぁぁぁぁ)
『リミットを解除します』
『
(キタキタァ~!!)
「女神様ぁ、愛してるよ~!!!
ぴきぃぃぃぃん
ルリ達は、……光の玉に、包まれた。
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