第101話 第2回領政会議
冒険者ギルドでの交渉と、依頼の達成報告を終えた『ノブレス・エンジェルズ』の4人。
「良かったわね。アメイズ領支部の出張所扱いでも、メルダムの街にギルドが出来るのは一歩目としては上々よ」
「うん。あとは学校の件。これは王都を巻き込まないと進まないから、とりあえず手紙でも送っておきましょう」
「そうだね。じゃ、買い物行こうか!」
「「「おー!!!」」」
時間はもう夕方。
足早に市場に向かい、売れ残った食材を端から購入していく。
「いらっしゃい、お嬢様方……ってリフィーナ様かい?」
「はい。でも今は冒険者のルリとして来ていますので、買い物させていただけますか?」
「そりゃもちろん。誰だろうが、お客さんなら大歓迎さね」
おばちゃんと世間話……値切り交渉などしながら、野菜やきのこ、木の実を入手。
気候が似通っているせいか、この世界の食料は地球と見た目が似ているので選びやすい。
「ミリアーヌ様ぁ、リフィーナ様ぁ」
名前を呼ぶ声に振り返ると、見覚えのある女性が手を振っていた。
「あぁ、バーモ村の方ですね。その後はいかがですか?」
「はい、ポテト芋の調理法、いろいろと試してるんですよ。お野菜が売れたお金で、調味料など仕入れてから帰る予定なんです」
領都から1日の距離にある農村。ポテト芋の一大産地で、先日訪れた際に、美味しい調理法を教えていた。
野菜を売りに来たついでに、必要な食材を仕入れて帰るらしい。
「そうなんですね。まだ野菜は残ってますか? 私たちに買わせてください」
「はい、今日は昼頃に着いたばかりですので、まだ馬車に大量に残ってます」
「ホントですか? 全部ください!」
「……はい?」
「ルリ、ダメよ。買い占めちゃったら、領都の皆さんが食べる分がなくなっちゃうでしょ」
大量にあると聞いて思わず興奮するルリであるが、メアリーに叱られてしまった。
……当然である。
バタバタと買い出しを済ませ、屋敷に戻る。
肉は現地調達もできるので野菜中心の買い物。それでも、100人分を優に超えるような量を買い込んだので、当面は安心だ。
市場の商人たちも、売れ残っていた商品が根こそぎ売り切れた事で、ほくほくしながら帰っていくのだった。
翌日。
アメイズ子爵家の屋敷には、領都の代表者になる9名が集まっていた。
「それでは、領政会議を始めます。まずは、各委員会の委員長を決めますね」
街の環境を整える『環境委員会』、住民の管理を行う『お役所委員会』、街の治安を考える『防衛委員会』。それぞれの説明を行い、相応しい人材を選出した。
まず、『環境委員会』には大工の棟梁。実際に、公園や街道の整備、公共事業における指揮を行ってもらうので、現場で働く職人の代表者が、そのまま領政に関わってくれれば意思の疎通が図りやすい。
次に、『お役所委員会』の代表を選出する。選ばれたのは女性だ。彼女は孤児院……保育園のような施設の代表で、特に貧民層からの支持が強い。最初の仕事が地図の作成と居住者の見える化なので、不明な点が多い貧民層の協力を得られる事は大きかった。
最後に、『防衛委員会』。いわゆる防衛は衛兵が行うが、その手前、治安の悪い場所を探し、整備する、いわゆる区画整理を策定する仕事だ。この任は、商人の代表者が担う事になった。もちろん、衛兵との連携も重要で、今後の街の発展の中枢を受け持つ業務となる。
副代表を2名ずつつけて、代表者9名が所属する委員会が決定する。
それぞれ忙しい立場のメンバーではあるが、マティアスが進捗の管理さえすれば、適度に機能する事であろう。
「皆さんに、お伝えしたい事があります。この一週間、私は領内を見て回ってきました。中でも、農村のバーモ村、北の領境のメルダムの街とは、領都も大きく関わりながら、共に発展する道を模索したいと思います」
道中の事件、出来事を簡潔に説明する。
そして、整えたい施策を、代表者たちに伝えた。
「なるほど、ポテト芋の輸送に、東を流れる川を利用しようというのですね。水量も豊かですし、流れも穏やかですので、実現可能かも知れません。ただ、造船の技術は私どもにはございませんので、少し苦労するかと……」
「その点なら大丈夫よ。マリーナル侯爵に、職人の手配をお願いするから」
「学園都市ですと!? 想像を超えた構想ではありますが……人が集まるのならば商売も拡大できます、ぜひ協力しましょう」
「孤児たちに学びの機会を提供し、生活する術を得る手段になるわね。もちろん、応援するわよ」
「皆さん、ありがとうございます。私の想定では、メルダムの街は、冒険者、しかも若者であふれる都市になる見込みです。
また、あまりいい噂の無いリバトー領に対して、防衛上の牽制になるとも思っていますので、学園都市の計画は、ぜひ達成したいのです。よろしくお願いしますね」
「しかしリフィーナ様、冒険者が集まるとなると、治安の面で心配事も増えますなぁ。その点はいかがお考えでしょうか」
「その点は、憂慮しております。その為の法整備……ルール作りが必要です。冒険者には私闘の禁止など独自のルールがありますが、アメイズ領としても独自にルール……条例を制定しなければなりませんね」
夢を語るのは楽しいが、現実的に考えると何かと問題も浮かんでくる。
それらを一つ一つ潰していくのが、為政者の役割である。
しばらく、アメイズ領都の、そしてアメイズ領全体の計画を話し合い、課題の洗い出しを行った。
「課題を解決していけば、きっとゴールに近づけます。人手が足りない場合は、各委員会の裁量でメンバーを募ってください。予算が足りない時は、マティアスの決裁を取ってくれれば、可能な限り援助します。
クローム王国にアメイズ領ありと誰もが認めるような発展を目指して、共に頑張りましょう」
全員のやる気にスイッチを入れ、話し合いをお開きにする。
明日行われる予定の軍事演習についても、最後に説明を行った。
「なぁ、リフィーナ様って、ずっと屋敷に籠っていた姫様だろ? どうしてこんなに、世情に詳しいんだ?」
「王都の第2学園に通われてるんだろ? そこで習ったんじゃないか?」
「王女殿下もセイラ様も、そしてメアリーさんも知識が半端ないしな……」
「「「「学園、凄いなぁ……」」」」
ルリ達の知識量に改めて驚き、屋敷から出る代表者たちの会話が弾んだ事は想像に難くない。
その頃ルリは、軍事演習の最終打ち合わせの為に、ラミアとセイレンの元へ向かっていた。
「ラミア、明日の軍事演習、お願いね」
「分かっておる。蛇たちに街を襲わせればいいのじゃろ」
「うん、街の壁は、絶対に傷つけないでよ、直すの大変だから」
軍事演習は、街の東に広がる森から魔物が溢れて来た、つまりスタンピードが発生したという設定で行う。
実際に魔物をたきつける訳にはいかないので、ラミアに蛇を出してもらう事にした。
演習開始時刻までに、ラミアとセイレンが森に移動して待機。
一応、メイド三姉妹も同行する段取りだ。
ルリ達は、衛兵が魔物の襲撃を伝える鐘を鳴らすのを合図に、領都の東門に移動して見学する予定となっている。
指揮は衛兵に任せての高みの見物の、つもりである……。
そして、翌日、つまり軍事演習の当日。
カンカンカンカン
予定通り、東門の見張り台で、鐘の音が響いた。
子爵家の屋敷に、報告の兵士が駆け込んでくる。
「東門周辺でスタンピードが発生、蛇の魔物が多数、他にも数種類の魔物を確認!!」
「了解! ん? 他にも数種類……?」
蛇の魔物が、門を目指して蠢きながら近づいてくる。
その中には、なぜか蛇以外の魔物……ラミアの幻術以外の、本物の魔物? も含まれているのであった……。
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