第100話 ギルド新設交渉

 アメイズ領都に戻り、マティアスとの会談を行うルリ達。

 学園都市構想の理解を得られ、決意を新たにする。



「別件ですが、軍事演習と、領政委員会のミーティングを行いたいので、関係者を集めていただけますでしょうか」


「その点はご安心ください。既に段取りは出来ています」


 ルリ達の領都帰還に合わせて、マティアスが事前に、招集をかけてくれていた。

 第2回領政委員会の開催は明日の午前、軍事演習の実施は2日後に予定が組まれているらしい。


「では、私たちはこの後、冒険者ギルドで話をしてきます」




 マティアスとの打ち合わせを終え、冒険者ギルドへと向かった。

 イルナが連絡してくれているので、すぐにギルドマスターの元へ通される。

 最初出会った時は緊張の極みだったが、今日はそうでもないようで、自然と会話が進んだ。


「シャードさん、お久しぶりです。お時間、ありがとうございます」


「ああ、依頼は無事に完了できたようだね。コームの村長からも、活躍を聞いたよ」


 いろいろとありすぎて忘れていたが、黒鳥カラスの討伐の後処理で、村長がギルドに報告をしていたのだった。


「それで、今日はどうしたんだい? 依頼なら、受付で達成の報告をしてくれれば大丈夫だ。王都の冒険者ギルドと第2学園にも、私から報告しておこう」


「はい、実は、今日は別件の相談で参りました」


 ルリは、メルダムの街に冒険者ギルドの支部を作ってほしいとお願いした。

 想像していない内容だったのか、シャードの目に戸惑いが見える。


「メルダムの街には、戦えるのに職に困っている人がたくさんいます。それに、王都や領都の周辺に比べて、魔物の種類も豊富です。冒険者にとっては、理想的な環境なんです!」


 職に困る戦士、つまり、兵士を解雇されて路頭に迷う約70人が生まれるのはこれからである。しかも、原因を作ったのはルリ達である。……が、細かい事は気にしない。

 冒険者ギルドの支部が出来る頃には、彼らは路頭に迷っているはずなのである。


「支部……ですか。しかし、人手や資金や……。それに私がそんな大それた事を行って……」


 性格なのであろうか。途端に自信喪失、挙動不審になってしまうシャード。

 大丈夫かしら? などと心配するものの、他に話す相手もいないので、ルリは全力で説得を行う事にした。


「土地や建物は、子爵家でご用意しても構いません。幸か不幸か、場所だけはいくらでもありますので。人手は、王都のギルドにも相談してみましょう。最初は小規模な出張所とかでいいのです。何とかなりますわ!」


 王都の西の森では、ギルドマスターであるウリムの一言で、あっという間に出張所が出来たのだ。王都で出来て、ここで出来ない理屈は無い。

 冒険者ギルドのルールなどは知らないが、ルリは強気に迫る。



「うぅぅ、とにかく検討します……」

「検討ではなく、行動してください! 絶対に、あの街には冒険者ギルドが必要なのです!」

「わ、わかりました。まずは現地に行って状況を確認させてください」


 戸惑うシャードの尻を叩き、強引に……丁寧に、今後の段取りを伝えた。

 この場で設立の約束までは出来なかったものの、関係者が現地入りするというだけでも、一歩前進である。


(もうちょっと踏み込みたいわよねぇ……)


 次の一言を考えていると、商売人メアリーと目が合う。何か策があるらしい。


「シャードさん、実はこの話、先があるのです。今、積極的に話に乗っていただければ、アメイズ領の冒険者ギルドの株がググっとあがるのですが、どうしますか?

 同じ話は、王都や他の領のギルドにもするつもりです。冒険者ギルドの管轄は国の境界には縛られませんから、アメイズ領内に他領のギルドの出張所が作られても、特段問題は無いはずですよね」


 メアリーは、シャードの人物像を見ていた。

 社交性は低く、保守的。自分の立場を守る為に、面倒事は嫌う……。


 そのシャードにとって、アメイズ領内に他領のギルドが進出してくるという事は、歓迎できることでは無い。


「そ……それは……。

 それでは、今この話に乗れば、皆さんの言う先の発展が約束されるという事でしょうか」


 もし、王都のギルドがメルダムの街に影響を及ぼす事になれば、地理的に間に挟まれるシャードの立場は低くなるであろう。それは、容認できなかった。

 逆に、シャードの管轄としてギルドを設立するだけで、将来が安泰になるのであれば、賭けに乗ってみるのも悪くはない。


「メルダムの街は、今後間違いなく発展します。見て来た私たちが保証します。

 それに、子爵家が全面的にバックアップするのです。シャードさんには、メリットはあってもリスクは無いはずですよ」


 メアリーの最後の後押しに、シャードが落ちた。

 新たな支部を作るとなると面倒な手続きが必要だが、近隣……2、3日までの距離の場所に出張所を作るのは、ギルドマスターの権限で可能なのだそうだ。


「では、メルダムの街に出張所を作る事、お約束します。それで、その先の展開とは?」


「うふふ、交渉成立ですね。シャードさん、ありがとうございます。

 ではルリ、先の構想、お話して差し上げて」


 メアリーに振られて、学園都市構想の話をする。

 国家プロジェクトなどと言うとまた縮こまってしまいそうなので、話は簡潔に行った。


「リフィーナ様、理解しましたよ。街に学校を作り、冒険者を育てようというんだね。そうして集まった冒険者が、アメイズ領の冒険者ギルドを拠点に活躍する。とてもいい話じゃないか!」


 シャードがノリノリになってくれた。

 今のうちにと、実務担当者を決めてもらい、具体的な段取りを作る。


(実務担当者への指示が出来れば、あとは進捗だけチェックすればここは大丈夫ね)


 メルダムの街を領都に匹敵、あるいはアメイズ領都を超えるような都市に発展させようというルリの思惑。どこまで理解されているかはさて置き、最初の一歩は冒険者がメルダムの街で活躍できる環境を作る事である。この場でのノルマは達成できたと言えるだろう。



 シャードとの話を終え、受付のララの元へ向かう。

 依頼達成の報告をする為だ。


「お帰りなさい。依頼、お疲れ様でした。

 護衛依頼につきましては、コームの村長、そして御者のダニエルさんから完了の報告を貰っています。後の2つの依頼は、いかがでしょうか」


「はい、納品したいので、解体場に行ってもいいですか?」


 研修の旅として、アメイズ領の冒険者ギルドで受けた依頼は3つ。

 コームの村への物資輸送の護衛、オーク肉とボア肉……つまり猪肉の調達、それから白銀装備を1つでも探す事。


 肉の納品を行いたいが、2メートル近いオーク、そして5メートルの巨大猪をギルドの受付でアイテムボックスから出す訳にはいかない。



 ズシィィィン

 ズドドォォォォン


「「「ひぃぃぃぃ」」」


 オークは……まだいい。しかし、巨大猪、マウントボアを丸ごと持ってきたと言うのは前代未聞だ。


「依頼のお肉の調達、これで足りますかね?」

「ひっ、十分です。多すぎるぐらいです……」

 わざとらしく微笑むルリに、焦る受付のララであった。



「最後に、白銀装備です。軽鎧と靴はこれですが……。兜は見つからなくて……」

 アイテムボックスから、女神装備の軽鎧と靴を取り出してララに見せる。


「見つかったんですね! さすがです!」

 今度は、ララがわざとらしく笑顔を作る。


 ルリが白銀装備を身に纏っている事は周知の事実。持っている事を分かった上で依頼を出したのであろうが、ララは驚いたフリをしていた。



 兎にも角にも、3つの依頼はすべて完了だ。

 依頼料を清算して終了となる。


「みんな、相談があるんだけど。

 白銀装備の依頼の報酬、アメイズ子爵家から支払われるの。軽鎧と靴の2点で聖金貨20枚……」


「あぁ、最後まで言わなくていいわよ。報酬を街の為に使いたいっていうんでしょ。元々ルリがもってた品なんだから、あなたの好きにしなさい」


 ルリが子爵家から報酬をもらっても、実家のお金が減るだけである。

 今の最優先は街づくりであり、お金はそれに使いたいというルリの想いを、ミリアが察してくれた。



 依頼達成の手続きを行う。

 肉の量が尋常では無かったので、金貨100枚を超える報酬になった。

 一週間ちょっとの稼ぎとしては、十分である。


 炊き出しなどで肉を減らしていなければ、何倍にもなったのであろうが、そこまでお金に困っている訳では無いので、別に問題ない。


「よし、食材買いに行こう!」

「「「おー!!!」」」


 稼いだ金貨100枚を、すぐに使おうとする……。

 いつも通り。元気に冒険者ギルドを後にした、『ノブレス・エンジェルズ』の4人であった。

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