第96話 復興計画

 メルダムの街にて、コリダ男爵の反乱の理由を知ったルリ達。

 沈む空気の中、ルリが口を開く。


「ねぇ、アメイズ子爵家の責任も大きいわよね……」


「まぁ、監督者としては責任が付いて来るわね。家名の取り潰しや領地没収って程じゃないだろうけど……」


(政治家なら、部下の責任を取って大臣が辞任、みたいな場面よね……)



「仮に……仮にだよ。

 責任を取って現領主が退任したら、どうなるの?」


「そりゃ、ルリが後を継ぐことになるわね。一人娘なんだから」


「……」


 当然と言えば当然の事ではあるものの、領主就任が現実的に見えてしまうと、さすがに恐ろしくなる。

 今までのように好き放題にやる訳にはいかない。一挙手一投足に、領民の生活が懸かっているのだ。


「まぁ大丈夫よ。まだ未成年だし、お父様が誰か代行者を送ってくるわ。マティアス大臣みたいにね」


「まさか、王族の誰か、送り込んできたりして! 将来の旦那さん候補!」


「えぇぇぇぇ」


 ミリアが言うように、政務の担当者が王宮から任命される確率は高い。

 しかし、その誰かが婚約者として送られる事もあるのだ。ルリは、本気でびびった……。



(笑えないわ……。何とかしなきゃ……)



「状況、理解したわ! 私がやる事はただ一つ。この街の再建計画を立てるわよ!

 誰かの手伝いが無くても出来る事を証明しなきゃ!

 結婚相手は自分で決めるんだから!」


「ええ~? いいじゃない、ルリも王族の一員になりなよ!」


 セイラが茶化すが、ルリはそれどころでは無い。

 時間が……無いのである。




「まだ領主になるって決まった訳じゃないし、仮にそうなるとしても少しは時間があるわ。

 それまでに、できる事はやっておきたいの。みんなも協力お願いね」


「「「もちろん」」」


「まず、現状把握。

 コリダ男爵家の取り潰しは確定だろうから、この街は貴族不在になる。つまり、アメイズ子爵家の直轄になると思う」


 男爵には兄弟や息子がいるが、早々に見切りをつけて他領に移り住んでいるらしい。

 一人残された不満も、今回の事件の要因の一つとなっている。


「男爵本人と、側近の奴隷落ち、少なくとも貴族位の剥奪は間違いないでしょう。

 兵士については、王女と分かった上で亡き者にしようとしたか、単に命令されて戦ったのかで罪の重さが変わるでしょうね」


「そうね。判断は王都の役人が来てからになるけど、後者なら、兵士の身分は解かれるとしても、街に残る人もいるかもしれないわ」


 ルリが現状を整理し始めると、セイラが補足する。

 戦争などでは、戦闘を命令した指揮官が罪に問われる事があっても、戦っただけの兵士に罪はない。今回は戦争ではないが、兵士については同様に扱われる可能性が高い。



「それってつまり、腕っぷしの強い人が、この街で無職の状態で溢れるって事でしょ。だったらいい案があるわ」


「冒険者になってもらおうって事? 冒険者ギルドと職人や商店の誘致を目標にしている訳だから、そのまま冒険者になってもらえば、ってのはいい案だと思うわよ」


「メアリー、まだ甘いわね。もっと、冒険者を集めるための秘策よ。

 冒険者を育てる、学園都市をつくるのよ!」


「「「学園都市!?」」」


「そう。まず必要なのが冒険者を養成する学園。

 武術や魔法の授業とか、冒険者活動に必要な授業に特化した学校ね。

 そして、学園を中心にした街づくり。

 メルダムの街を、冒険者を育てる学園都市にするの!」


 住民のいない廃れた街。

 しかし、逆に言えば、一から街づくりをするには最適な環境だ。


 街の防壁など、街としての必要な機能は既に存在している。

 破棄された住居も多くあるし、更地にすればスペースはいくらでも確保できる。

 学校の建物として、今いる屋敷を使ってもいい。


「王都じゃ、冒険者を育てるには魔物が少なすぎるでしょ。でもここなら、大小様々な魔物がそこら中にいるわ。

 それに、私、疑問だったのよね。今まで出会った冒険者で、強い人なんて見た事ないでしょ。それって、冒険者が育つ環境が無いからじゃないかって」


「言いたい事は分かるけど、ずいぶん壮大な話になったわね!」


「だって、それくらい大きな話にしとけば、仮に婚約者候補がアメイズ領に来ても、拠点をこっちの街にしてもらえそうじゃない」


「「「その理由かい」」」


 閃きの理由があくまで個人的な都合と知って、思わずツッコミを入れるミリア達。

 それでも、冒険者を育てる街という発想自体は、共感を持てるものだった。



「まずは、冒険者ギルドに相談ね。それで感触をつかめたら、第二学園のグルノール学園長にも相談してみましょう。計画が承認されれば、国家プロジェクト並よ!」


 生徒は王国中から集める事になるであろう。

 その勧誘方法はもちろんであるが、優秀な生徒を集めるためには特待生などの制度作りも必要だ。

 さらに、教師を集めたり、そもそも授業の内容を決めたりと、やる事は満載である。


 王都の学園に合わせて、約1年後となる来年の9月開講が望ましいが、その為にはすぐに動く必要がある。


「領兵さんが到着してここを引き継いだら、急ぎアメイズ領都に戻って、ギルドマスターのシャードさんに話をしましょう。それで、王都の冒険者ギルドのウリムさんにつないでもらえば、何とかなると思うわ」


「それと、この街を支えてくれている商人さん達にも話をしましょう。学園が出来るとしてもまだ先だわ。その前に街が崩壊してしまっては元も子もないから」


「そうね。この後、街に出ましょうか」



 そうこう話していると、メイドのアルナがやってきた。


「リフィーナ様、ご来客です。商人のサジ様という若い男性なのですが、お通ししますか?」

「おお、ちょうどいいタイミング。ぜひお通ししてください」


 絶妙なタイミングで、昨日話をした商人のサジが訪ねてきた。


「リフィーナ姫様、昨日は、突然お声がけをしてしまい、申し訳ございませんでした。

 あれから、すぐに男爵の屋敷に乗り込んでいただいて……」


 出会うとすぐに、サジが頭を下げる。

 平民の訴えにすぐに対応する貴族。ルリ達の行動は、賞賛に値するものであった。


「……まさか、交渉ではなく武力解決とは思わなかったのですが……、とにかくお礼を伝えたいと参上いたしました……」


 ……この商人、一言多い。


「……。

 私の責を全うしただけです。礼を言われる様な事ではありませんわ。

 それよりも、私からも話があるんです」


 この街の再建、学園都市構想について話しをする。

 そして、構想が実現するまで、街を守ってほしい旨をお願いする。


「壮大な計画、楽しみです。この街は、何とか維持していきますのでご安心ください」

「維持するだけではダメですわ。もっと発展させないと。時間が無いのですから!」

「はい。努力します。何なりとご命令ください」


(やっぱり……。貴族と平民、この問題は根強いわね。でも、そこから変えなきゃ、街も変わらないわ!)



「サジ、あなたは、この街を良くしたいですか?」

「そりゃ当然です。その想いが無ければ、昨日のような無茶は致しません」

「では、この街、あなたに託します。あなたが、街の再建を主導するのです!」


「は……はい!?」

 突然託すと言われて、どう返答したらいいかわからなくなっているサジ。

 ルリは、言葉を続ける。


「今、この街に、直接的に統治する貴族はいません。もちろん、方針の決定や街の護衛など、アメイズ子爵家が全力でサポートしますが、住民の生活水準を良くする為には、街の皆さんの協力が不可欠なのです。

 だから、街の皆さんにも、一緒になって、再建を手伝って欲しいのです。わかりますか?」


「いや、でも、俺たちは平民で……」


「そんなのは関係ありません。貴族だろうが平民だろうが、この街を良くしようとする想いがあるのであれば、街の運営に関わるべきですわ」


 この街で、サジという人物がどの程度の影響力を持っているのかは不明だが、その行動力は買っていた。


「明日の午後、街の主だった者に、ここに集まるように伝えていただけますでしょうか。そこで、私から説明をさせていただきます。

 あ、学園都市の話は、まだ未確定部分が多いですので、まだ内密でお願いします」


 領都で行ったのと同じように、街の住民の代表に、直接説明する事にした。

 サジも、一人で街の再建を任される訳ではなく、街の代表の一人として、多少の権力をもって活動できるという話に、納得したようだ。




 翌日。

 屋敷の前には、100人を超える人だかりが出来ていた……。


(ちょっ、代表者呼べとは言ったけど……。サジ君? どうしてこうなった……?)


 頭を抱える、ルリであった。

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