第75話 面倒事
チンピラ達のアジトで大暴れしようと、魔力全開で乗り込んだ『ノブレス・エンジェルズ』の4人。
あっさりと降参されてしまい、ミリアは呆れていた……。
「はぁ……。情けないわねぇ。降参ね、分かったわよ……。
まだ奥にもいるでしょ、全員出てきて、地面にうつぶせになりなさい」
ミリアの声で、奥に潜んでいたチンピラ達が表に出てくる。
セイラが探知した人数に合致する。
驚いた事に、奥から出て来た者には女性も3人含まれていた。
「ええと、あなた方は盗賊団ですの? ご家族もいるようね。見た所、森で逃亡生活をしている様に見えるのですが」
「ひぃぃぃぃ、盗賊ではない。信じてくれ。事件に巻き込まれて、逃げながら暮らしているだけだ……」
「事件に巻き込まれてねぇ……。首謀者ではありませんの? 他にも仲間がいるんでしょ。大人しく吐きなさい!」
「違う! 違うんだ。確かに、盗賊に協力したので巻き込まれたというのは言い過ぎだが、俺たちは悪くないだ!」
「いや、悪くないんなら逃げてないでしょ?」
「違う! いや確かにそうなんだが……。
盗賊に協力した事もあったが、その盗賊団も昨年壊滅したんだ……。
だから逃げて、森の中で暮らしていたんだよ。
でもどうにも暮らせず、近くの集落に、脅しをかけただけなんだ……」
「……」
言い訳を精一杯並べるチンピラ達。
いまいち、話の筋が見えない。
ミリアが言葉に詰まると、今後はセイラが話し始めた。
「一年前に壊滅した盗賊団て、『常夜の闇』だったかしら?
その一味だったの?」
「一味ではない。盗賊団の下っ端に脅され、情報を流したりしただけだ。盗賊団の一味として捕まるか、そうでなくても盗賊団に追われる可能性があったから、俺たちは逃げたんだよ」
「……。逃亡して、食べるのに困ったから集落を襲ったと。
まぁいいわ。本当か嘘か、申し開きは詰め所で行ってちょうだい」
その必死さから察するに、盗賊団から逃げていると考えるのが妥当であろう。
実際、人相も服装も、そう悪い人達には見えない風貌ではある。
『常夜の闇』は、ルリが壊滅させた盗賊団だ。
騎士団の捜査により、あの場……盗賊団のアジトにいた仲間以外でも、街に潜伏していた協力者などは一網打尽に捕まえられた。
とは言え、中には、逃げのびた者もいるだろうし、今でも森の中や街中に潜伏する者だっているだろう。
情報の漏洩を恐れ、組織内で粛清が行われていてもおかしくはない。
必死に言い訳をするチンピラ達。
ミリアもセイラも、同じ回答しか得られない事に、尋問にも飽きてきたようだ。
いずれにせよ、チンピラ達を放置も出来ないので、全員を縄で縛る。
とりあえず、集落、そして街まで連れて行く事にした。
先に倒した3人と合わせて14人。なかなか面倒だ。
「盗賊団の壊滅が原因って事は、あなたが元々の原因って事ね。何? これを予想して世直し旅とか言ってたの?」
ジト目でルリを見てくるミリアとセイラ。
「いや、まさかこんな事になるとは思わなかったのだけど……」
(壊滅させた盗賊の残党かぁ……。元凶と言われると不本意だけど、他にも同じような事が起こってる可能性は高いわねぇ)
早めに衛兵に引き渡し、他の仲間の行方など聞き出してもらう必要がある。
『常夜の闇』の協力者を捕まえたとなれば、貴重な情報源だ。
それに、旅の途中である。
チンピラ達を連行したまま移動を続けるのは、面倒事以外の何物でもない。
早く衛兵の元に、連れて行く必要があった。
4人集まって、この後の動きについて話し合いをした。
「ねぇどうする? アメイズ領都までまだ1週間以上かかるわ。ぞろぞろと連れ歩くのは面倒よ」
「うん、いっそ殺しちゃう? 誘拐の現行犯だし戦闘もあったのだから、殺しても問題は無いはずだけど」
「うん、でもこの人たち、そこまで悪人には見えないのだけど……」
「ルリは甘すぎるのよ……。善人の皮をかぶった悪人何て、世の中いくらでもいるんですからね」
「まぁそうだけど……。そう言えばセイラ、隠密の護衛って、どこかで付いて来てるんじゃないの? 護衛の兵士さん達に預けられない?」
「そのはずなのですけど……。西の森に入る時までは後方に反応があったのだけど今は感じないのよね……」
「ついて来てないんだ!? じゃあ、一度王都まで戻る? まだ王都の方が近いでしょ?」
「それでも、街道沿いを動けば何日かかかるわ。集落の人も王都が遠いって言ってたでしょ」
「「「う~ん……」」」
とりあえず、救出した母子を集落まで連れて行くため、移動を開始する。
ぞろぞろとつながれた14人は、常に
全員を生きたまま連行する必要はないのだ。
「いつでも殺せるのよ」というミリアの言葉に恐怖し、文句も言わずに着いて来た。
集落に戻った頃には夕方になっていた。
長老に事情を説明し、母子を引き渡す。
当然、一番喜んだのはチンピラに殴りかかった父親だ。
家族の感動の再開に、皆で涙を流した。
集落の皆さんとの話を終えると、ルリ達は出発の準備をする。
チンピラ達をどうやって衛兵に引き渡すのか問題は未解決なのだが、動くしかない。
そこに、メイド三姉妹のアルナが、声を掛けてきた。
「リフィーナ様、馬を1頭お借りできますか? アメイズ領まで先行して、衛兵を連れて戻ってまいります」
「アルナ、その手があるわね。ありがとう。だったら私も行くわ! 子爵家の私がいれば、話が早いんじゃない?」
「ありがたいのですが……、リフィーナ様、騎乗が出来ませんでしょ?」
残念ながら、馬に乗れないルリがついて行っても足手まといだ。
セイラが騎乗して王都に向かうという方法もあるのだが、一人で行かせる訳にもいかない。
それに、食事などを全てルリが持っている為、ルリが本体から離れることは出来ず、アルナに任せる事になった。
集落で待つという手もある。
しかし、縄で縛ってあるとは言え、集落を苦しめたチンピラ達と一緒に過ごすのは、住民には酷だ。
集落を離れる為に、ルリ達はゆっくりと街道に向けて歩き出したのだった。
(誘拐事件を防げたのは良かったのだけどねぇ……。
何でこんな面倒事を抱え込む事になるのかしら……)
世直し旅として意気揚々とチンピラ退治に向かったはずであるが、捕まえた後にどうするかまでは考えてなかった。
ドラマでは描かれない、部隊の裏側にある面倒事。
その事実を突きつけられ、がっくりと肩を落とす、ルリであった。
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その頃、王宮、近衛騎士団の詰め所では騒ぎが起きていた。
セイラの父、コンウェル公爵の元に、騎士が駆け寄る。
「申し訳ございません、王女様方ご一行を……見失いました」
初日、西の森で狩りに出た所までは見ていたのだが、夜になっても戻らない。
慌てて報告に戻った次第だ。
「狩りに出た時もついて行ったのだろう? なぜ見失うのだ?」
「あの、それが、あまり動きが早く、ついて行けませんで……」
身体強化を纏った状態で、魔物に足止めされる事もなく突き進むルリ達。
森の中だと言っても、進行速度は平地と変わらない、いや、駆け足でも追いつけるどうかのスピードであった。
収納魔法など使えず、重装備になる兵士には、ついて行く事は困難だったのだ。
「……あぁもういい。言い訳は聞きたくない。
とにかく、アメイズ領に向かっているのだろう、街道から進んで追いつけ。最悪、アメイズの領都で待機だ、いいな、行け!」
「ははっ」
「あー、それと、一小隊を見繕って、西の森の探索に行かせろ。
足跡ぐらいは残っているだろう。とにかく、一刻も早く探すんだ。
あぁ、国王になんと報告したらよいものか……」
血管を浮かべて怒鳴り散らすコンウェル公爵。
旅に出てまだ2日でトラブル発生という現実に、頭を抱え込むのであった。
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