第74話 チンピラ
……案の定、事件は起こった。
翌朝、朝食後に予定通り、ルリ達は出発した。……出発した振りをしたのだ。
「ねぇ、本当に何か起こるの?」
「うん、もう少しだけ、ここで隠れてましょう。大事なのかは分からないけど、昨日の女性の話から推測すると、午前中に何かが起こるわ」
「……いいけど。またルリの妄想なのじゃないでしょうね?」
昨日から突然言い始めたルリの世直し旅宣言に、ミリア達はまだ不服だ。
事件なんて、本来行く先々で起こるものではない。
森の陰に隠れて様子を見ていると……、集落に怪しい男が現れる。
「おい、今日の分を受け取りに来たぞ!」
男は慣れた様子で、集落の住民に大声をあげた。
(今日の分? 何? 脅されてるのかしら?)
家から出て来たのは、昨日、いろいろと教えてくれようとした……不思議な発言をした女性だ。
竹籠に野菜を入れている。
野菜をチンピラの男に渡すつもりらしい。
「おお、これだけかよ? 足りねぇなぁ。そろそろ、女、子供を売りに出してもいいんだぞ」
(なるほど、近くのチンピラが集落にたかってるのかな?)
「子供は、子供は勘弁してください。すみません、今朝はこれしか採れなくて……。
そうだ、昨日立ち寄られた冒険者様から頂いたものがあるのです……」
そう言って、女性は家に走ると、お土産に置いて来たアメイズ・バーガーを持ち出してくる。
(ななな! アメイズ・バーガーをこんな事に! 許せん!)
飛び出しそうになるルリを、メアリーが必死で止める。
「待ってルリ、本当に事件が起こったのには驚いたけど、少し様子を見ましょう。
セイラ、他に仲間はいる? 一人とは思えないわ」
「奥の木の陰にあと2人いるわ。特に動く様子はないみたい」
「女性に危害が加えられるようならすぐに加勢。そうでなければ、男は少し泳がせましょう。
たぶん、野菜をもって仲間の元に帰るはずだから、そこを一網打尽にするわ」
メアリーの指示に、無言で頷くと、ルリ達は後をつけられるように配置についた。
しばらく見ていると、男の声が帰ろうとして、捨て台詞を吐いた。
「次はてめえと子供を連れ帰るからな。もっと準備しておけよ」
しかし、それを遮るかのように別の男の声がする。
「いや、その必要はねぇな。もう待てねぇ、連れ帰るのは今日だ!」
仲間の二人が、男の元に寄って来る。
そのまま、女性を取り押さえると、連れて行こうとした。
そこに、女性の夫だろうか、男性が家から飛び出してきた。
しかし、助けに行こうとするものの、返り討ちにあってしまう。
殴られて倒れた夫を見て、女性が悲鳴を上げている……。
「おい、殺すなよ、後が面倒だ。家に子供がいるはずだから連れて行け。何、孤児になるよりも、子供にとっても幸せだろうさ」
(……ちょ、助けなきゃ……)
ルリが慌てて助けに行こうとするのだが……。
「ルリ、待って! 今は耐えて! 絶対に仲間がいるから、元から断たないと、この集落の人たちがもっと不幸になるの!」
しがみつくようにしてルリを止めるメアリー。
誰もが今すぐに止に行きたい気持ちなのだが、実行部隊の男数名を倒した所で、背後にいる仲間がまた襲ってくる可能性が高くなるだけだ。
男達が森の中へ去るのを待って、集落に突入する。
陰から見ていた長老たちも、表に出てくる。
「な、あなた方は! 今、見ていたのですか? それなのに……いえ……」
何で見過ごしたのかと言いたかったのだろう、気持ちはすごくわかる。
それでも、何もできずに見ていたと言うのは長老も一緒であり、ましてや部外者であるルリ達を責めることは出来ない。
「長老さん、安心してください。仲間が後をつけていますので、拠点を見つけ次第、殲滅します。必ず助け出してきますので!」
悔しそうな長老に、メアリーが声を掛ける。
メイド三姉妹が後をつけているので、拠点が見つかるのは時間の問題だろう。
「セイラ、まずはあの男性の治療をお願いします。
その後、探索を広げてメイドさんを追いましょう!」
言われるまでも無く、セイラは殴られた男性の元に駆け付けていた。
「大丈夫、奥さんもお子さんも、必ず助けますからね。
研究のテーマにもしている得意の治癒である。
セイラが魔法を唱えると、温かい光に包まれ、傷が回復していく。
骨や細胞へのダメージも考慮している為、治りが早く効果も高いセイラの魔法治療だ。
「しばらくは安静にしていてくださいね。
さぁ、みんな行くわよ。今は北西に500メートルくらいの場所に居るわ」
メイド三姉妹の後を追い、『ノブレス・エンジェルズ』出撃だ。
ラミアとセイレンは、馬と一緒に残っててもらう。
久しぶりに、4人での移動となった。
身体強化したルリ達の動きは速い。
すぐに追いつき、メイド三姉妹と合流する。
「前方に、人が10人くらい集まってるわ。
たぶん、そこが拠点ね!」
セイラが探知すると、イルナがサッと偵察に走る。
「洞穴の様な場所でした。表に見えているのは3人、見張りだと思います。
恰好から、仲間とみて間違いありません」
偵察の結果、拠点と考えて間違いないだろう。
「イルナさんは、先行して拠点の周囲、逃げ道があれば塞いでください。
退路を断ちつつ、私たちが突撃します」
メアリー指示で、イルナは森の奥へ消えて行った。
一人たりとも逃さない、全員の意思は一緒だ。
「人質が厄介です。先に目の前の3人を倒して、女性と子供を救出しましょう。
森の中で魔法は使いにくいわ。セイラとルリで確保してきて!」
「「わかったわ!」」
セイラは回り込みながら走り、男達の正面に躍り出る。
「こんにちは。何をなさっているのかしら?」
「メ……メイド!? 何だてめぇは? 邪魔だ、どかねぇと切るぞ!」
脅すと同時に、刀を抜くとセイラに切り掛かってくる男達。
「出でよ、大盾、出でよ、我が剣!」
がきぃぃぃん
突然出現させた大盾が、男達の剣を受ける。
戦闘モードのセイラは、テンションが少しおかしい……。
この隙にルリは後ろから突撃した。
二刀の曲剣を構えて、久しぶりの近接戦闘だ。
どす、どす、どす
まずは正面の男を倒すと、クルっと回りながら返す剣で右側の男を袈裟に叩く。
ルリの方向に振りむいた瞬間、そこにセイラの剣が襲い掛かった。
3人の男が崩れ落ちる。
人質は、もちろん無事だ。
「あなた方は昨日の……」
「お怪我はありませんか? 拠点を調べるために、救出が遅くなりました。怖い思いをさせてしまい申し訳ございません」
「いえ……ありがとうございます。あっ、主人は……主人は無事でしょうか……」
「はい、治療しましたので大丈夫ですよ」
セイラが微笑みかけると、安心したようだ。
子供と共に、抱き合って喜んでいる。
「お二人の護衛とチンピラ達を取り押さえるのは、アルナさんとウルナさんにお任せしていいですか?
私たちは、拠点を壊滅させてきます!」
3人のチンピラを縄で木に縛り付ける。
母子の護衛としてアルナとウルナには残ってもらい、『ノブレス・エンジェルズ』は拠点の洞穴に向かった。
「敵は11人、正面突破で行きます。
まずは、洞穴の前で少し暴れましょう。何人でも、奥から出て来てくれれば儲けものです」
洞穴の中では魔法が使いにくく、狭さから危険度も増す。
出来る限り表で戦うのが、メアリーの作戦だった。
「じゃぁ、行くわよ。プラズマ、放電!」
バチバチバチバチ
ミリアの魔法で、戦闘開始だ。
「「なっ?」」
突然の雷撃に、見張りの一人が崩れ落ちた。
何が起こったのかと残りの二人が驚きの声を上げる。
「おい、どうした?」
奥から4人の男が出てくる。計画通りだ。
表には、倒れた男が一人。
そして正面に少女4人。
「何だてめえら! 嬢ちゃん達、道に迷ったか? それとも、売られに来たのかぁ?」
「バカな事言ってるんじゃないわよ。犯罪奴隷として売られるのは、あなた達だわ!」
「何だとぉ! 冒険者か! お前ら、やっちまえ!!」
「ふん、チンピラども! 誘拐とその他もろもろで拘束しますわ!」
実はミリア。実際に悪党と対峙するのは初めてだ。
ルリの盗賊退治話を聞き、一度、悪党に向かって口上を述べたいと思っていた。
夢が叶った瞬間だ。
「ふふふ、かかってくるなら容赦はしませんよ、プラズマ、放電!」
「
「
ミリアの電撃がチンピラに走る。
ルリは5本の
バリバリバリバリ
ぐわぁぁぁぁ
男達の断末魔の叫び声。
「ひぃぃぃぃ、降参、降参だ! 助けてくれ~」
「えええ? もう少し粘りなさいよ。せっかくここまで来たのよ。手足の一本位落とさないと納得できないわ!」
「「「ひぃぃぃぃ」」」
ミリアの言葉に、チンピラ達は震え上がった。
本気で降参したいらしい……。
こうなっては、さすがにこれ以上、攻撃をする事は憚られる。
残念そうなミリア、その様子にほっとした表情のチンピラ達だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます