第61話 キャッキャウフフ

 翌朝。


 今日の予定は海岸での水遊びだ。


 ミリア、セイラ、ルリ、メアリ、そしてグレイシーとベラ。

 6人の少女が水着を準備して集まる。

 着替えは海岸の更衣室で行うため、全員軽装だ。



 ラミアも誘ってみたが、「暑い」との事で断られた。

 メイド三姉妹も、一緒にきたのはイルナのみ。


 アルナは侯爵家の従者と懇親を深めるとかで、ウルナは街で買い物をするらしい。

 買い物は、前日ルリが騒いだ結果、買い切れなかった品物の手配である。




 海岸と言っても、領主邸の目の前。

 徒歩でも10分かからない場所。


 こんな領主邸の目の前の海岸に平民が近づく訳もなく、貴族、しかも領主家専用のプライベートビーチのようになっている。


 街の中なので魔物の心配はない。

 海に魔物は居るのだろうが、遠くまで行かなければ大丈夫だ。




 ビーチに着くと、それぞれ水着に着替えた。

 ルリ達はもちろん、王都で購入した水着だ。


 ホルターネックで大きな胸を存分に魅せるミリアに、思わず目を奪われる。

 フリルの付いた水着のセイラと、結局恥ずかしさに勝てずスクール水着のような水着を選んだメアリー。


(さすが美少女たちね。本当に可愛らしいわ……)

 今のルリも同類なのであるが、そこは高校生の視点。

 年下のマスコットを見るかのような視線を注いでいる。



 そこに、グレイシーとベラも着替えて来た。


「お待たせですわ!」

「「「「え……!?」」」」


(いやいや……、紐……?

 いくら女同士でも……さすがに……)


 グレイシーの水着はマイクロビキニ。

 もはや、隠せていない。女同士でも目線に困る様な姿に、唖然とした。



「ミリアーヌ様、、わたくし、今日の為に水着を用意しましたのよ!」


「え、エロ……、エロ……エモーションですわ!

 素敵ですわ!」


 ミリアが意味の解らないカタカナで感想をごまかす。

 グレイシーは……、単純に嬉しそうだ。


「ですわよね! 勝負水着ですの。誰にも負けませんわ!」


「「「「誰と戦ってるのよ!」」」」


 一斉に、声にならない、ツッコミを入れた。



 一方のベラは、恥かしいのかガウンを羽織っている。

 むしろ正常な反応かも知れない。


「ベラさん、羽織は無しですよ!」


 グレイシーが羽織を脱がすと、黒いビキニを纏ったボディラインが現れた。


(うわ、着やせするタイプなのね……。

 ミリアよりスタイルいいかも……)


「いいなぁ……」

 誰が言ったのか、声にならない声が……、聞こえた……。




 一緒に来たメイド達も、水着になっている。

 落ち着いたデザインに、麦わら帽子。ルリ達よりも、却ってお嬢様っぽい。



「まずは、日焼け止めですわ!」

 グレイシーが、液体の入ったツボのような物を持ってきた。


(サンオイル、あるんだ~!!)


「ミリアーヌ様、わたくしがお塗りしますわ。

 ここに横になってください!」


 グレイシーがミリアを寝かせて、背中からサンオイルを塗る。


「ひゃ、くすぐったい……。

 ……あはははははっはは……」


 色気も何もない光景ではあった……。




 水着の発表会が終わり、サンオイルの儀式も終わり、海に向かう。


「あ、冷たい!」

「しょっぱいよ~」

「波が、波がぁぁぁ」


 波が届くか届かないかくらいの近場の砂浜で、海の水と戯れる少女たち。

 アニメで見る水着回の絵面、そのものである。


 キャッキャウフフとはしゃぐ少女たち。であるが……。

 セイラがあることに気付き、ミリアのお腹をつまんだ……。


「きゃっ」

「ミリアぁ、長い馬車生活と、最近の食べ過ぎ……。

 ひょっとしたらとは思ってましたがぁ……」


 セイラのモードが変わった。

「砂浜を10往復ですわ!

 ルリとメアリーも同罪よ! 他人の振りをしないで!」



「「「「「「はぁ、はぁ、はぁ」」」」」」

 小一時間、ビーチを走らされた。


「砂浜は平地よりも運動効率が高いと聞きますわ。

 全員、トレーニングを続けますわよ!」


「「「「「「いやぁぁぁぁ」」」」」」


 さらに走らされ、お昼の休憩をとる。

 疲れて食事はあまり食べられなかった……。




 しばらく休憩した後、海へ入る事になった。


「ミリア、あまり遠くへ行ったら危ないわよ」

 遠浅な砂浜で、危ない様子はないが、セイラが心配している。


「大丈夫よ! ほら! きゃぁぁぁぁ」

 突然の大きな波に、ミリアが飲まれる。


「ミリアぁぁぁ!」

 セイラが慌てて波の中に飛び込んだ。


 2人とも浮かんでこない……。

 心配したルリが歩いて近づく。


 セイラが水の中で、ミリアにしがみついている。

 いや、水の中で、ミリアを押さえ込んでいる。


 助けようとしたら、セイラが暴れた。

 手足をバタバタと振り回している。

 腰ほどしかない水の中で……。


 2人を助け起こす。

「しっかりして!

 足つくわよ。こんな所で溺れないで!」


 ルリの言葉に、状況を把握するミリアとセイラ。


「溺れてないわよ。ちょっと潜る練習をしていただけですわ……」

「そうですわ……」


 ルリの指摘に、棒読みで強がる、美少女2人であった。




 ビーチに戻り、紅茶を飲みながら休憩していると、グレイシーが突然緊張の色を浮かべた。


「何でしょう……誰かに見られているような視線を感じるのですが……」


 グレイシーの水着を考えれば不思議でもないのであるが、表情は真剣だ。


「メアリー、あそこ、やっちゃって!」

「は、はい!」


 グレイシーに言われた方を見ると、遠くに人影がある。

 ルリがアイテムボックスから弓を渡すと、メアリーは構えた。


「距離100メートル、行きます!」


 遠距離の的に向かって、火の鳥フェニックスが飛び立つ。

 上空を滑空し、岩場の影の的に向かって急降下した。

 もちろん、直接当たらないように正確にコントロールされている。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 男の声が聞こえる。



「人が逃げていきましたけど大丈夫ですか?

 あそこにいるという事はお屋敷の人だと思うのですが……」


「いいのですわ。3番目のお兄様が覗いてましたの。

 わたくし、あの人好きではありませんの……いい気味ですわ!」


 心配するメアリーと、嬉しそうなグレイシー。

 領主の子息を討ってしまった事に驚き、何も無かった事にしようと、知らない振りを決め込むメアリーであった。




 その後も、夕方まで、ルリ達は砂浜で遊んだ。


 砂の城を作ったり、スイカ割りをしたり、ビーチバレー、改めビーチ・テニミントンをしたり……。


 たくさんの思い出を残し、日が沈む前に、屋敷へと戻った。




 屋敷へ戻ると……。

 それはそれは、怒られた。


 やはり、3番目のお兄様……。

 少し髪に「焦げ」が見え、チリチリになった青年と、グレイシーの言い合いが始まる。


「女子を覗いているお兄様が悪いのですわ!」

「俺は、覗いてない!」

「でも、見てましたよね!」

「いや……それは……お前の水着があまりにも非常識……いや……非常に美しく……。

 そう、見惚れていたのだ!」

「わたくしに見惚れるのは……、それは当然ですわ!

 でも、覗きはダメですわ!」

「「「「「「いや、違うと思うよ!」」」」」


 状況が読めてしまったルリ達。

 2人の言い合いに、同情するしかないのであった……。




 巻き込まれまいとコソコソ逃げ出そうとするルリ達の背後から、声が聞こえる。


「どうしたんだい? ミリアーヌ様、何かトラブルですか?」


 グレイシーの他の兄たちも来てしまう。

 もちろん、確信犯。

 兄たちは3人の令嬢に話しかけるタイミングを伺っていたのだ。


 結局、グレイシーの兄達につかまり、今日も接待に努める。


(悪い人たちじゃないんだけどね……)


 冒険の先に、運命の出会いがあると信じているミリア。

 ミリアの事しか考えておらず男性に興味を持てていないセイラ。

 胸キュンなシチュエーションで恋愛できると普通に思っているルリ。


 少し特殊な恋愛観の令嬢3人は、貴族的な男性からのアピールでは響かないようだ……。

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