第59話 パレード
「それでは、明日は王宮に集合ですわ!」
「「「おー!」」」
夏休み、2日目。
学園の寮で別れを告げた少女たち。
それぞれの準備のためルリも屋敷に戻って来た。
「リフィーナ様、準備は整っております」
「うん、ありがとう。
でも、全員で着いて来なくてもいいのに……」
「ルリ、我は行くぞ。良いよのう」
「うん、もちろん、ラミアは一緒です!
それで、アルナ達は、留守番でも問題ないですよ……。
マリーナル家の皆さんや、近衛騎士団や王宮の従者もいるのですから……」
「いえ、王宮や侯爵家の方々と一緒……だからこそ心配……」
「へ? ……」
「いえ、事前に決まった事ですからね。
貴族はそれぞれ従者と護衛を同行させると……」
グレイシーとベラは自領に戻る道のりなので、当然のように領兵が同行する。
王宮が黙っている訳にもいかず、近衛騎士団と王家、公爵家からミリア、セイラそれぞれの従者がつく事となった。
アメイズ子爵家はどうするか、となるのは当然で、護衛兼従者としてメイド三姉妹の同行が決まったのだ。
ラミアもいるし、便宜上メアリーも子爵家の客人扱いにする事になり、結果全員で向かう事になる。
屋敷の管理は、領から代役が来て対応する。
夕方、準備を整えたメアリーもルリの屋敷に到着した。
「ルリ、明日からよろしくね。
何かすごい事になったわね。平民の私としては気が重いわよ……」
平民、一般庶民の記憶が半分以上を締めているルリも、気分は似たようなものであるが、子爵家令嬢となった今、軽く頷く訳にもいかない。
「一緒に大人しくしてようね」と返すので精一杯だった。
翌朝、王宮へ集まる。
貴族の馬車が立ち並んでいる。
ざざっ
騎士団に緊張が走り、一斉に跪いた。
奥からミリアが歩いてくる。
「時々忘れちゃうけど、ミリアって王女様なんだね……」
小さくメアリーと言葉を交わす。
「ルリ、メアリーどこにいるの~?
こっちの馬車乗って~!」
ミリアの緊張感のない声が聞こえる。。
そこには、王宮の豪華な馬車が鎮座している。
王宮の馬車に乗れという事らしい。
「「え……!?」」
拒否しようにも、出来る雰囲気ではない。
言われるままにミリアの近くに行くしかなかった。
「では参りましょうか!
グレイシーさんは隣ね。
ベラさんとリフィーナさん、メアリーは後ろの席に」
「あ、あの、私平民……」
「いいのよ。今日は私が学友と一緒にマリーナル領へ訪問するって事になってるの。
だから学友として、一緒にいて欲しいわ」
恐縮しきりのメアリーであるが、第三王女が乗れと言ったらそうするしかない。
一段高い席にミリアとグレイシー、後方の席にベラ、ルリ、メアリーが座った。
セイラは騎士団の鎧を着ている。
近衛騎士団として行動するようだ。
馬車10台、同行する騎士は100名以上。
一団となって、王宮を出発した。
先頭は近衛騎士団。
豪華な王宮の馬車を先導して行進する。
王家と公爵家合わせて6台の馬車。
そして馬車を護るように70人の騎士団が取り囲んでいる。
後方はマリーナル侯爵家。
40人の領兵と3台の馬車。
アメイズ子爵家の馬車は、間にこぢんまりと収まっている。
乗っているのはメイド三姉妹とラミア。
人数は少ないが、戦闘力なら騎士団にも引けを取らない。
いざという時に前後どちらにも動けるようにと、中央に配置された。
王宮の門を抜け、王都の大通りに出た。
幅20メートル。
普段は通行人で溢れ、馬車が行き交うのであるが……。
今日は、人々も馬車も、通りの両端に避けていた。
大通りの真ん中を、パレードのように進行する。
中央広場付近に来る頃には、道の両端は溢れるような人だかりになっていた。
手を振る者。歓声をあげる者。拝むような姿の者……。
「王族の御一行だってよ」
「あの先頭、騎馬の御方は公爵家のセイラ様だよ」
セイラは近衛騎士団の先陣を切って、馬上だ。
「ああ、三の姫様がいらっしゃるよ!」
「お隣はマリーナル侯爵家のグレイシー様だ!」
王宮の馬車は、目立つだけでなく、開いた窓から人が丸見えだ。
その中でも一段高い位置に座っている『三の姫』ことミリアとグレイシーは、これ以上ないくらいに目立っていた。
「おい、三の姫様の後ろ、リフィーナ様じゃないか?」
「おお、白銀の女神様か! 500人の盗賊を壊滅させたっていう……」
(なっ……。私に気付かないで……)
ちなみに今日は、冒険者スタイルではなく、貴族家令嬢としてのドレス姿だ。
「あはは、ルリちゃん有名人だね!」
メアリーがからかってくるが、ルリは言葉も出ない。
「ほら、みんな、歓声に応えてあげないと!」
セイラの声で、作り笑い全開に、手を振り返すルリ達であった。
パレードは大きな歓声の中、王都を出た。
「はぁ。みんなお疲れ様」
門から離れた後、ミリアが御者に一言告げると、馬車が止まった。
窓のカーテンを閉め、やっと一息つく。
すると馬車の扉が開き、セイラが入って来た。
ミリアとグレイシーも、後方のスペースに降りてくる。
「無事に王都を出ましたわね。
まずはお茶にしましょう。ルリ、いつものお願いね!」
セイラの合図で、令嬢モードから学園のお友達モードに変わる。
ルリは敷物を取り出し、セイラは紅茶を入れ始めた。
「それじゃ、始めましょうか!」
再び動き出した馬車の中で始まったのは、すごろく、では無い……。
2週間の馬車旅をどう過ごすか、その為にルリが準備したのは、『トランプ』だ。
紙が高価な世界でも、自分たちで使うトランプくらいは作れる。
マリーナル領行きが決まって以来、トランプを準備し、ゲームのルールなどは既に説明済みだ。
ババ抜き、神経衰弱、大富豪、七並べ、ポーカー。
ルリもそう詳しい訳ではないが、子供の頃を思い出し、またスマホのアプリを思い出し、トランプのゲームをみんなに教えた。
ミリア、セイラ、メアリー、グレイシーとベラ、そしてルリ。
6人いれば、色々なゲームができる。
罰ゲームも事前にくじ引きを準備してある。
馬車の旅は、非常に快適で楽しい旅となっていた。
前後を騎士団に護られ、さすがに王国内で襲われる可能性は低い。
「セイラ、魔物の大群にだけ注意しておいて。
他は騎士団がどうにかするでしょうから気にしなくていいわ」
セイラは探知を張り続けている。
とは言え、余程理性を失った魔物でもない限り、魔物も寄っては来ない。
約1週間でマリーナル領へ入る。
途中の宿泊は街の宿が中心だ。
王族と領主家の御一行である。行く先々で持て成された。
数度ある野営や休憩場所においては、アメイズ子爵家が大活躍だ。
ルリもメイド三姉妹も、出番とばかりに働いた。
大容量の収納から食材や調理器具を取り出し、全員に振舞う。
宿にも負けない食事に、騎士団たちも満足してくれた。
途中、森を抜ける際に一度だけ魔物の群れに遭遇した。
「左300メートル、ブラックウルフ30体」
「全員、警戒態勢、左にブラックウルフ約30」
セイラが感知し騎士団に伝えると、馬車は減速し、騎士団が戦闘態勢に入った。
戦闘に馬車から出ようとすると、騎士団に止められる。
「ミリアーヌ様、ここは我々が食い止めますので、馬車でお待ちください。皆様もです」
「怪我人とか出たら気分悪いわね。
騎士団のメンツもあるでしょうけど、援護くらいしましょうか……」
ミリアは戦いたそうだが、メアリーに向き直る。
「メアリー、せっかく練習したし、今回は任せようかな!」
「うん、任せて!」
馬車の窓を開け、弓を射る準備をした。
「50メートル先、ブラックウルフを確認」
「盾構え」
騎士団が臨戦態勢になる。
森の中から狼の群れが姿を現す。
一際大きい1体を中心に、30メートル先で止まると、しばらく睨み合いになった。
「いっそ襲って来てくれればいいのに。
じれったいわね……」
ミリアが痺れを切らしている。
うぉぉぉぉぉぉぉぉん
狼が遠吠えをあげる。
「左後方、20体! 援軍かしら!!」
危機感知に魔物が引っかかる。
「騎士団長! 援軍が来る前にやっちゃいましょう!」
「はっ!」
セイラの指示で、近衛騎士団が構えをとる。
「メアリー、あの大きいのに一発入れてくれる?
それで一斉に襲ってきたら、私とルリの魔法で対応するわ。
ボスっぽいのを倒して逃げてくれればそれでもいいし」
「分かったわ!」
ミリアが言うと、メアリーは弓の弦を引き、魔法の矢を出現させる。
「
バシュ
バシュバシュ
1本の矢がブラックウルフに向けて放たれる。
そして同時に、2羽の
火矢がボス狼のこめかみに直撃する。
ドドドドン
さらに、空中から
狼がその場で崩れ落ちた。
「突撃!」
騎士団がブラックウルフに詰め寄った。
きゃわぁぁぁぁん
ボスを倒された群れは、逃げ出した……。
「すごいね、メアリー! 一度に3発!
メアリーの放った火矢は、確かにすごかった。
放たれると同時に3本に分裂。1本は真っ直ぐ敵へと進む。
残りの2本は羽ばたくように宙に浮かぶと、軽く旋回したのち敵に向かった。
まるで誘導されているかのように……。
「へへ、練習したから!!」
ミリアに褒められ、メアリーは可愛らしくはにかんだ。
倒したブラックウルフを回収し、馬車は出発する。
令嬢たちにいい所を見せたかったのか、一部の兵士はブラックウルフに逃げられ不満そうであったが、そこは冷静に、命令に従う。
そして、大名行列のような一行は、無事にマリーナルの領都へと到着した。
「見て! 海が見えるよ!!
青いよ! 大きいよ! あれが全部水なんだよ!」
メアリーは海を見るのが初めてらしく、想像を超える景色に興奮している。
(あはは。いろいろと変わっちゃったけど、修学旅行の沖縄、体験できてるのかな……。
日本のみんな……。私はこの世界に来て、幸せに生きてるよ……!)
何も無ければ、ルリは今高校2年生。秋には沖縄に行くはずであった。
ふと日本を思い出し寂しさが芽生えたが、周りの友達を見たら元気になれた。
「ルリも海は初めてでしょ!! 来てよかったね!」
「うん、お魚食べ放題!!!」
「「「「「そこかい!!」」」」」
新鮮な魚料理を心待ちにするルリと、呆れるミリア達である。。
領都の門をくぐる前に、再度パレードの体制をとる。
騎士鎧のセイラ、馬車の窓を開け目立つ場所にミリアとグレイシー。
領主家長女が王女を連れてのご帰還である。
侯爵家お屋敷までの道のりは、王都以上の歓迎であった。
ミリアとグレイシーが手を振るたびに、熱烈な歓声があがる。
子供たちが歌っていたり、踊りを披露している集団もいる。
(南に来るとノリが良くなるのはどこの世界も共通なのかしら……)
明るい雰囲気に、気持ちが高まるルリであった。
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