第55話 調査報告

火炎旋風フレアストーム!!」


 ミリアが魔法を解放する。


 ごぉぉぉぉぉぉぉぉ


 どごぉぉぉぉん

 ぎゅわぁぁぁぁ



 この世のものとは思えないような、巨大な炎の竜巻。

 悪夢のような炎の息吹が、2体のゴーレム、地面、岩を巻き上げて、天まで上がった……。



「「「「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ」」」」


 岩陰に隠れたルリ達であるが、激しい旋風に身体ごと持っていかれそうである。

 何とかお互いに抱き合い、巻き込まれずに堪えた……。




「「「「「……」」」」」


 爆風が収まり、煙がはれると、静寂が広がっていた……。


「み、ミリア……」

「えへへ? やり過ぎちゃったかしら?」

「「……」」




「はっ……ぁぅ!

 セイラ……セイラが……」


 静寂を破るように、メアリーが泣き叫んでいる。

 メイド服の上からでも、血があふれ出ているのが分かる。


 ルリはメアリーの頭を撫で、安心させるように付き添った。


「メアリー、大丈夫よ……。セイラは助けるわ……」


(出血が酷い……。肋骨、内臓もヤバいかしら……)


「セイラ……帰ってきて……。

 完全回復エクスヒール


 セイラの身体が、優しい光に包まれた。


「ぅぅぅ……」

 セイラが目を覚ます。


「あれ……メアリー……。

 わたし……ゴーレム……きゃぁぁぁぁ」


 ゴーレムに殺されかけた恐怖を思い出し、悲鳴を上げるセイラを、メアリーが抱きしめた。


「ご……ごめんなさい。

 私のせいで、セイラ……ありがとう……」



「メアリー、無事だったのね……。よかった……」





 泣きじゃくる2人とラミアを残し、ルリとミリアは立ち上がる。

 周囲の警戒と惨状の確認の為に歩き出した。


「ねぇミリア、こんな魔法いつ覚えたの?」

「えへへ、本で、ちょっとね!

 それよりルリこそ、さっきの回復魔法は何?」

「うふふ、本でちょっとね!」

「「……あはははは」」


 2人の会話を聞きながら、ラミアは思っていた。

 あの時……最初に洞穴の中で出会った時、本気で戦っていたら、自分は滅せられていたのではなかろうかと。

 今後は逆らわないようにしようと、心から思うのであった。




 セイラの復活を待って、移動することにした。


「し、しかし……。何をしたの? これ……」


 周囲の状況にセイラは絶句している。


 2体のゴーレムは、……壊れていた。

 断崖が抉られ、岩も崩落している。





 近くの壁を触ると、ざざっと崩れた。


「あれ? 見てこれ、鉄鉱石じゃない?」


 メアリーが指差す場所を見ると、赤黒い石が埋まっている。


「少し掘って持ち帰りましょうか?」

 セイラの声に頷き、しばらく周辺を掘ってみた。


「ああ、綺麗な石があるわよ! 水晶かしら!!」

 ミリアが透明に輝く石を見つけた。


 他にも宝石があるかもと夢中で掘り始める。

 しかし1時間も集中力はもたなかった……。


「疲れたわ。もういいのではないかしら……」

「そうですね……」

「えぇぇぇ、もう止めちゃうんですかぁ……」


 宝石を見慣れたミリアとセイラは、そこまでの熱意がない。

 残念そうなメアリーとは対照的だった……。




「帰り道ですが、森を抜けてから王都へ戻りませんか?

 東に進めば、平原に出るはずです。

 もう魔物は十分に調査しましたし、帰りもわざわざ森の中を進む必要はないと思いますの」


 セイラの意見に誰も異論はない。

 疲労もあり、戦闘は避けたいのが総意だった。



 岩場での採取を諦め、東に進路をとる。

 3時間ほどで森を抜け、開けた場所に着いた。


「王都の北に広がる平原だと思うわ。それでは、帰りましょうか!!」

「「「おー!」」」




 歩きやすい平原。

 帰りはそう時間がかからなかった。

 翌日の昼過ぎには、王都西の森、つまり出発地点に戻れた。


「帰ってきたわね!」

「はい、収穫も大きかったですわ!」

「みんな無事でよかったです……」


 それぞれの感想を言い合いながら、ギルドの出張所へ向かう。

 思い切り魔法が使えたミリアは上機嫌。

 セイラとメアリーは完全に立ち直っている。

 ラミアは相変わらずマイペースだ。



「『ノブレス・エンジェルズ』、戻りました!!」

 出張所では、妖艶な美魔女、ギルドマスターのウリムが直接迎えてくれる。



「あ、あなた達、無事だったのね! 心配したわよ!!」


「何かあったのですか?」


「さっき北西に行ってたパーティが慌てて戻って来たのよ。

 北で天まで届くような火柱が上がったって……」


「「「「……」」」」


「あなた達が巻き込まれたのじゃないかって……。

 え……? まさか関係ないわよね……」


「「「「……」」」」




「まぁ無事ならいいのよ……。

 それで、調査結果を……。

 その前に、そちらの女性はどなたかしら……?」


 まさかミリアの魔法とは言えず、黙るルリ達。

 ふと、当然のように『ノブレス・エンジェルズ』と一緒にいるラミアを見て、ウリムが尋ねる。


「我か? 我はラミア……24歳……?」

「あ、あの、アメイズ家の従者でして……今回一緒に行動しておりました……」


 ルリが慌てて補足する。


「そうか……」



 ウリムがルリの肩に手を回し、引き寄せると小声で話しかけてきた。


「お前、何を連れておる? 神獣、幻獣……、いや神や精霊の類か……?」

「ひ……人です……」

 答えに詰まるルリを離すと、ウリムは話を続けた。



「まぁいいわ。それで調査結果ですけど……」

「は、はい! いろいろと持ち帰りました!!」


 ルリは話を誤魔化せたと、慌てて答える。



「持ち帰った……? はっ、ここでは出すな! 外で聞く!!」


 ウリムは収納魔法を思い出すと、慌てて外に出るように促した。




 ギルドの裏のスペースで、魔物を出しながら説明を始める。


「まず、歩いて1日の距離はこの辺りの魔物と変わりません」


 ドン

 ドンドン


「段々魔物が強くなってきて、オーガとかもいました。

 多かったのが虫です!」


 ドドドドン

 ドドドドドドドドド


 蟻、蜘蛛、蜂……。

 数十体の魔物が積み上げられていく……。



「それで、2日歩いたら岩場に着いたのですが、そこにはこれがいました……」


 ズシィィィィィィィィン

 ズシィィィィィィィィン


「「「「「ひわぁぁぁぁ」」」」」



 ウリムだけでなく、周りに集まっていた冒険者やギルドの職員からも悲鳴が上がる。


「こ、これは……?」


 地面にあるのは、ストーンゴーレムとアイアンゴーレム……だったもの……。

 もはや原型を留めておらず、焼け爛れ、破壊されつくしている……。


「壊れてしまって……。すみません。

 ストーンゴーレムとアイアンゴーレムです……」



「い、いや、まて……。

 アイアンゴーレムはAランク、魔法はほぼ効かない魔物よ……。

 何をすれば……? ……火柱・……まさか?」


 表情のわかりにくい妖艶なウリムであるが、明らかにうろたえているのが分かった……。


「わ、私は火柱なんて見ていません!」


 セイラが大声で叫ぶ。

 確かに、気絶していたセイラは魔法の瞬間を見ていない……。



「はぁ……。疑問は尽きないけどいいわよ。調査お疲れ様でした……」


 呆れたのか聞いても仕方ないと思ったのか、ウリムは目を伏せた。



「あ、ウリムさん。岩場でこんな物も見つけたんです!」


 ルリが出したのは、鉄鉱石や水晶、他にもいくつかの綺麗な石。


「ほう、岩場で鉱石がとれるのね……。これは良い情報ね!

 ……大量の虫の魔物、鉱石の取れるゴーレムの岩場……か」


 一瞬目を輝かせたが、ウリムは鉱石を見ながら考え込んでしまう。

「どうかしたのですか?」


「いや、いいのよ……。とても良い情報だわ。

 でも、問題が2つね。

 ひとつは、せっかくの鉱山のはずなのに使えない事……。

 もう一つは、大量の虫の魔物がいたという事だわ……」


「鉱山、……かどうかは分かりませんが、なぜ使えないのですか?

 それに、虫の魔物も倒せば問題ありませんよ……」


 残念そうなウリムに、ルリが尋ねる。


「そうね。鉱山は調査してみないとね。

 Aランクの冒険者と鍛冶師、鉱夫を連れて行けば可能でしょうね。

 でも、少し遠すぎるの。近くに拠点を作る必要があるから、すぐには使えないという事よ」


 重い石を扱う鉱山の場合、近くに鉱山都市を作るのが通常だ。

 掘った石全てを馬車で遠くまで運んでいては効率が悪すぎる。


 魔物が出る地域の鉱山では大規模な開発は難しく、高価な宝石などを宝探しとして発掘する程度の扱いにしかならない事が多かった。


「それと虫の魔物はね、集団で移動することがあるのよ。

 1日くらいの距離なら、ここ西の森の入口も危険と言えるの。

 だから、虫の集団に耐えられる程度には村の防御を固めないと、安全な拠点と言えなくなってしまうわ」


 確かに、村では王都のような城壁を作ることは出来ない。

 また、ゴーレムのいる岩場から馬車を走らせるのが現実的でないのは理解できる。


 せっかくの調査結果。

 このままにするのはもったいない……。

 日本の知識をフル活用で、ルリは知恵を絞るのであった……。

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