第54話 岩山

 冒険者ギルドの調査依頼で、今は王都の西の森。


 翌日も、『ノブレス・エンジェルズ』の4人は奥を目指して進んでいる。

 ほとんど冒険者が来ることの無い場所のようで、森もより一層深くなっている。



「むむ、何かおるな……」

 ラミアが突然呟いた。


「セイラ、わかる?」

「ううん、感知には反応なし……」


 ラミアには何かが見えている様だが、セイラとルリの危機感知に反応は無い。


「主らは気付かんのかの? ほれっ!」


 ギギギィ

 ラミアが幻術で蛇を出し、前方の木に近づけると、木が突然動き出した。


「「「「トレント!!」」」」


 木に擬態した魔物、トレントだ。

 個体自体はそこまで強くはないが、気づかない内に触手のように動く枝で捕まってしまうと、身動きが取れなくなる。

 危険な魔物だ。



「ラミア、ありがとう。

 やっつけちゃうわね。プラズマ、放電!!」


 バチバチバチバチ


 魔物の位置さえ特定できれば、『ノブレス・エンジェルズ』の敵では無い。

 ミリアの魔法によって、一瞬で倒せた。



 さらに奥へと進んでいく。


「反応。左200メートルにオーガ5体」

「スルー」


 オーガは人型の魔物で鬼のような角がある。同じ人型のゴブリンやオークよりは数倍強い。

 しかし食べて美味しい魔物では無いので、ミリアはスルーを指示した。


「少し魔物が変わってきたわね」

 ミリアが言う通り、Cランクの魔物が増えている。


「次、前方300メートル、12体、動きが早いわ」


「わかった。戦闘態勢!」

「「「はい!」」」


 それぞれ剣や杖を構えて前進する。

 周囲にはラミアの幻術で蛇がうねうねとしている。


「うわっ! 大きな蟻よ!!」


 前方から迫ってくるのは、キラーアントだった。

 50センチだが顎の力が強く、さらに集団で行動するため危険な魔物だ。


 ガシュ、ガシュガシュ


 先行していたラミアの蛇たちが襲い掛かった。


「「「はぇ???」」」


 キラーアントは一瞬で蛇に噛み千切られた。


「ん? 不味かったかの?」


「「「いえ、問題ないです……」」」




「森蜘蛛、3体」

 ガシュ、ガシュガシュ

「キラービー、6体」

 ガシュ、ガシュガシュ


「「「……」」」


 巨大な蜘蛛、巨大な蜂など襲ってくるが、ルリ達が何かをする間もなく蛇の餌食になっていく。


 ラミアの蛇無双で魔物を蹂躙しながら、ルリ達は北へ進んでいった。


「この辺は虫の魔物ばかりね。気持ち悪いわ……。

 もう少し進んでから野営地を探しましょう……」



 夕方も近づいているが、虫に囲まれて寝るというのは好ましくない。

 セイラの提案に頷くと、先を目指す。しばらく行くと、岩場のような場所に出た。


「この辺にしましょうか。あそこに小さな窪みがあるわ!」


 セイラが見つけたのは、岩の隙間。全員で寝られる位のスペースがあり、魔物の気配もない。

 早々に食事を済ませてテントを広げた。

 翌日は岩場周辺の調査をする事にして就寝する。





 翌朝、明るくなって周囲を見ると、ちょっとした岩山になっている事が分かった。

 頂上までは高さ100メートルほど。切り立った崖になっている。


「頂上に登ったら景色が良さそうね!」

「あの崖は無理でしょうけど、行ける所まで行ってみましょうか!」


「では、岩山で遊んでから王都に戻る事にしましょう!」

「「「おー!」」」


 ミリアとセイラが予定を決める。いつもこのパターンが多い。



 岩の間の道なき道を歩き出す。

 セイラが先頭で危機感知を広げながら進み、ラミア、ミリア、メアリーの順。

 魔法が使え、後方から近接戦闘にも対応できるルリは最後尾だ。


「前方の岩陰を曲がった所に何かいますわ。

 陰で察知しにくいので注意しながら行きましょう……」



 曲がると、少し開けた場所に出る。

 そこには、3メートルを超えるゴーレムが身構えている。


「ストーンゴーレムですわ!」


 岩でできた身体は、防御力が高い。

 物理攻撃も魔法もほとんど受け付けない強敵だ。


「先制攻撃行きますわ。プラズマ、放電!!」


 バチバチバチバチ


 ミリアが魔法を放つ。電撃がストーンゴーレムを包むが、動きを止めただけだ。


「やはり……。

 あまり効いてなさそうですわね。困りましたわ」


 ゴーレムまでの距離は30メートル近くある。

 無理なら逃げればよく、そこまで焦ってはいないミリア達ではあるが……。



 ずどぉぉぉぉぉぉぉぉん


 後方、崖の上から何かが落ちてきた。

「「「「うわっ」」」」

 慌てて振り返る。


「「「「あ、ああ……アイアンゴーレム!!」」」」


 真後ろに現れたのは、これまた3メートルを超える鉄の巨体。

 岩よりもさらに硬い、Aランクの魔物だ。


 着地するや否や、大きな拳をメアリーに向けて振り降ろす。


「きゃぁぁぁぁ」

「メアリー!!」


 セイラがアイアンゴーレムとの間に身体を投げ出した。


 ズドォン

「くあぁ!!」


「「「セイラ!!」」」


 ストーンゴーレムの拳が直撃し、セイラが盾ごと吹き飛ばされる。

 後ろの岩壁に激突し、動く気配がない。


 そこに、アイアンゴーレムは容赦なく迫って来る。


 ガキン


 メアリーを突き飛ばし、ルリが二刀で拳を受ける。


「ぐぅあ!」

 衝撃が全身に伝わる。

 コカトリスのローブとヒュドラの鱗を纏っていなかったら受け止めきれなかったかもしれない。


 何とか踏みとどまり、アイアンゴーレムに対峙するルリ。

 ミリアとラミアも、もう一方のストーンゴーレムを必死に足止めしていた。


 ラミアの幻術で生み出された蛇たちがストーンゴーレムに群がっているが、いくら大量の蛇でも、物理攻撃のほぼ効かない大きな魔物とは相性が悪かった……。



「ルリ、そのままアイアンゴーレム引き付けといて!

 ミリアとラミアも、何とか現状維持!!」

「わかった!」


 メアリーは隙を見てセイラに駆け寄る。


「セイラ……」

 服の上からではわからないが、ダメージは骨まで届いてそうだ。

 ぐったりしたセイラを抱きかかえる。


回復魔法ヒール


 魔力が高いわけではないが、メアリーだって少しは魔法が使える。

 セイラの命を長らえるため、願いを込めて魔法を唱えた。


「ルリ、一度撤退するわよ!」


 セイラとラミアはストーンゴーレムを足止めしながら、メアリーとセイラに近づく。


 ガキン

 ドゴン

 ガコン


 ルリはアイアンゴーレムと激しい戦いを繰り広げていた。


(私の剣舞はスピードで負けはしない。

 でも一発でもくらったら終わりだわ……。

 しかも攻撃がほとんど通じてない……)


 ルリは二刀流の剣舞と氷槍を駆使して、アイアンゴーレムの膝を攻撃していた。

 どこが急所かは不明だ。そもそも大きすぎて足以外は届かない。

 目の前にある、打ちやすそうな場所が膝だった……。


「分かったわ、こっちは何とか引き付けておくから、セイラをよろしく!」


 ミリア達に告げると、ルリはアイアンゴーレムに襲い掛かった。


 蛇の群れがストーンゴーレムを留めている間に、ミリア達はセイラを連れて岩陰まで移動する。

 すぐに追いつかれる様な距離ではあるが、直接の攻撃が来ないだけでも、今は十分だ。



「我が吹き飛ばしてこようか……。

 動きを止めるくらいならできると思うが……」


 ラミアの本来の姿は30メートル近い『蛇女』だ。

 元の姿ならば止められるかもしれない。


「ラミア、ありがとう。

 でもそれは最終手段よ。貴方が無事で済む保証も無いわ。

 だから、私の取って置きをお見舞いするわよ!」


『蛇女』に戻って戦おうとするラミアを制し、ミリアが岩陰で杖を構えた。

 戦闘が好きではないというラミアを戦わせたくも無かった。



「ルリ、聞こえる?

 大きいの行くわ、そこから逃げて!!」


 ルリはアイアンゴーレムと戦闘中だ。

 ミリアと一瞬、視線を合わせて頷いた。


(ミリアが何かするのね。

 こいつを引き離さなきゃ!!)


氷槍アイスランス、いっけぇぇぇぇ!」


 ルリは全力で氷槍を作り、一斉に右ひざに投射した。

 何本防がれようが構わない。全力で槍を放ち続ける。



「みんな、伏せてて!!」


 ミリアの声が届く。

 見上げると、空中に巨大な青い炎の塊が浮かんでいる。


(あああ、あれはヤバい……!!)


 ダッシュで岩陰まで逃げるルリ。

 魔法を完成させたミリアが2体のゴーレムを見据える。


火炎旋風フレアストーム!!」


 ミリアが魔法を解放する。


 ごぉぉぉぉぉぉぉぉ


 どごぉぉぉぉん

 ぎゅわぁぁぁぁ


 この世のものとは思えないような、巨大な炎の竜巻。

 悪夢のような炎の息吹が、2体のゴーレム、地面、岩を巻き上げて、天まで上がった……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る