第53話 調査依頼

「「「「「いらっしゃいませ、お嬢様!!」」」」」


「はぇ!?」


 新規オープンのハンバーガーショップ、カウンターの中で出迎えたのは、メイド服姿の女性たち。



「ご注文はお決まりでしょうか? お嬢様」


「Aセットをお願いしますわ」


「かしこまりました。ご一緒にポテトサラダもいかがでしょうか」


「あ、ではそれも……」


「お持ち帰りでしょうか、それとも店内でお召し上がりになりますか?」


「店内で、お願いします……」


「それでは、銅貨7枚になります。準備いたしますのでそちらでお待ちください」


(接客は、伝えた通りなのね……。でも、どうしてこうなった……?

 なんで、メイド喫茶風になってるの……?)




 セリフは、完璧なマニュアル通りの接客である。

 4人それぞれ注文し、カウンターの横で待っていると……。


「お待たせいたしました。Aセットとポテトサラダになります」

「「「「はやっ!」」」」


 トレイに載せられたハンバーガーを受け取ると、席につき食べ始めた。


「美味しいね!!」

「うん、早いし安いしすごいわ!」

「それで、どうしたの? ルリ?」



 ハンバーガーを頬張るセイラとメアリー、そして落ち込んでいるルリを心配そうに見つめるミリア。


(内装も味も完璧。問題はなぜ接客がメイド喫茶になったのか……?

 もしかして……。あぁ、私、言ったわねぇ……)


 新しい従業員の教育を任せた、メイド三姉妹との会話を思い出すのだった。

 ……お客様はご主人様だと思って接客するのよ……

 ……スピードが重要、1分以内で提供が目標ね……

 ……一緒に何か一品勧めること。スマイルは0円……

 ……制服は任せるわ。働きやすいデザインにしてね……


 アルナも、イルナもウルナも悪くない。

 メイドとして考えられる最高の接客を、教えただけなのだから……。




---


 一方、王都では、

 若者を中心に、王都で『アメイズ・バーガー』ブームが起こる頃……。


 20歳前後の大人、特に上流階級の男性の間で話題になるお店があった。

 メルン亭2号店。

 大人の隠れ家を目指してルリが企画したイタリアン・レストランだ。


 バーカウンターの中に佇む、モデルのような絶世の美女。

 店員ではあるが接客する素振りは無く、話しかければ微笑み返してくるだけ。


 その謎の美女を口説く事が、男たちのステータスとなっていた。



 きっかけは、

「我も何か仕事というものをしてみたいのう」

 というラミアの一言。


 普通の仕事ができる訳もなく、ルリが半分オーナーのようなお店ならばと、最低限の文字の読み書きや計算、言葉遣いを教え込み、お店に立つ事を許したのだった。


 座ってるだけで勝手に男が寄ってきて、酒を振舞ってくる。

「人とは不思議な生き物よのう」などと、ラミアも、王都での生活を楽しんでいる。




---


「ところでアルナ? 私塾はどう?

 困った事とかは無い?」


 今は、アメイズ子爵家の屋敷で、ルリはメイド三姉妹と話をしている。


 私塾、それは、以前ルリがメイド三姉妹に始めさせた、寺子屋のような塾だ。

 屋敷の空き部屋を教室にして、近所の子供に読み書きや計算を教えている。


「はい、今の生徒数は7名。貴族家のお子様です。

 教材もだいぶ揃いましたので、問題なく出来ております。

 ただ……」


「ただ……?」


「はい、リフィーナ様の教育のマニュアルはとても分かりやすく、生徒にも好評です。しかし、これ以上の生徒を増やすには、教師の人手が足りなくなると思います……」


(ああ、なるほど。塾の生徒を増やすには、先に教師を育てなきゃいけないって事か……)



「それで、ご提案があるのですが……」


 アルナの提案は、教師の候補者をアメイズ領から呼んではどうか、と言うものだった。

 冒険者ギルドや商業ギルドの職員、孤児院の関係者、村長の娘……。


 塾の開業や運営に子爵家から補助金を出す事にすれば、多くの希望者が集まりそうだ。

 一度に全員は受け入れられないので、最大10名として王都の屋敷に招くことにする。

 免許合宿のような感じだ。



 また同時に、領の経営を任せているマティアス大臣とも連絡を取る。

 私塾の経営に関するルール決めの為だ。


 --年に一度資格更新の研修を受ける事。

 --営利目的ではない経営にする事。

 --定期的に試験を行い学習状態を確認する事。


 同時に、領主による奨学金制度も作る。

 それにより、誰でも教育を受ける事が出来るようになる……はずだ。

 

 学生としての目線しか持っていないルリ。教育制度の深い問題点など知りもしない。

 学校や塾のいいとこ取りで、ざっとルールを決めたら、あとは大人に任せれるのであった。

 ……教育制度が広まるには、まだまだ時間が、かかりそうであった……。



(うふふ。これで、私が領を継ぐ頃には優秀な子供たちが育ってるはずよ!)


 目の前の問題解決……。

 単純に読み書きの出来ない子供が多すぎて驚いた事を解決したかったのではあるが、打算まみれなルリでもある……。





---


 遠足より1か月余りが経過したある日。

 ルリ達『ノブレス・エンジェルズ』は学園長室に呼ばれていた。


 学園長のグルノールは清楚な印象の女性だ。

 冒険者ギルドのギルドマスター、ウリムの学友との事だが、美魔女なウリムとは正反対の美しさを醸し出している。



「よく来てくれましたわね。お座りになってください」


 学園長に促されるまま、ソファーに腰を掛ける4人。

 ミリアがさっそく話を切り出した。


「それで学園長?

 ご用件をお聞きしますわ!」


「うふふ、怖い顔をしなくても大丈夫ですよ。

 ちょっと頼まれごとですの」


 ルリ達はジト目で学園長を見ている。

 面倒ごとはご免である。


「冒険者ギルドのウリムはご存知よね。

 近々、西の森の調査を行うので、それに参加して欲しいそうよ」


「森の調査ですか?」


「ええ、『ノブレス・エンジェルズ』に指名依頼よ。

 報酬として、全員の冒険者ランクアップが認められるそうよ」


「「「「おおお!!!」」」」


 4人で顔を合わせ、ハイタッチ!!

 行き慣れた西の森の調査でランクアップとは好条件すぎる。


「うふふ、おめでとう。楽しそうね!」


 調査は数日をかけて森の奥まで進むとの事だった。

 日程が決まり次第連絡を貰う事にして、ルリ達は寮に戻った。




 西の森の調査は、狩場の近くに拠点ができ冒険者が増えたことで、魔物の生態を調べ適切な討伐依頼を出せるようにとギルド主催で行われるものだ。


『ノブレス・エンジェルズ』の参加が決まった事も後押しし、多くの冒険者が集まる事になった。



 調査の当日。

『ノブレス・エンジェルズ』の4人は西の森入り口の村まで向かっていた。


 馬車には4人の他、ラミアが乗っている。

 どこで噂を聞きつけたのか、面白そうと言って付いてきた。



「「「王女様ぁ」」」

「「「天使様ぁ」」」

「「「女神様ぁ」」」


 集合場所に着くと、冒険者たちから声が上がる。

 こういう場では、4人は目立つ。目立ちすぎる……。


「さっさと奥まで行きましょうね……。誰もいない所まで……」


 ミリアの声に、黙って頷くセイラとメアリー、ルリであった。




 調査期間は4日間。ルリ達の担当は西の森の北部だ。

 2日間で可能な限り奥まで進み、出会った魔物を報告する。

 調査なので全てを討伐する必要はない。



「さぁ、行くわよ!!」

「「「おー!」」」


 初日は、出会ってもDランク程度の魔物だけだ。

 狩り慣れた森を黙々と進んでいく。


 野営地を探してテントを張り、途中で狩ったオークやワイルドベアを食材に夕食をとる。


 見張りの相談をしていたら、ラミアが幻術で蛇を出し、夜間の警戒にあたってくれた。



(うわぁ、ラミア便利すぎる。次からも野営がある時は連れて来よう……)


 密かに思う『ノブレス・エンジェルズ』の4人であった……。

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