第44話 お披露目

「ジョルジュ・フォン・アメイズ!

 近衛騎士団、セイラ・フォン・コンウェルの名において、この者を拘束、王都へ連行する!」


 アメイズ子爵家における領主殺しの疑いにより、ジョルジュは、ついに、拘束された……。



「マティアス殿、領主サーシャと共に、アメイズ領をお願いいたします。

 これは国王の意向でもあります」


「はは! 謹んでお受けいたします」


 病気がちな領主サーシャだけでは、領政を担うには心もとない。

 かと言って、次期領主のリフィーナはまだ学生。

 大臣であるマティアスに、当面の立て直しを任せる事になった。




「さてルリ、いや、リフィーナ様……。

 念願が叶いましたね。おめでとう!」


「うん、ありがとう。セイラ様!」


 わざとらしく視線を交わした2人の少女は、悲願の達成を終え、喜び合うのであった。





 リフィーナは、しばらく母との再会を喜んだ。


 ルリの中で、サーシャは本当の母のように思えている。

 リフィーナの想いの強さが、ルリの心に深く刻まれ、今となっては同一の感情として胸に刻まれているのだ。

 12歳までの記憶が、ルリ自身の記憶のように心に浮かぶ。




 しかし、喜んでばかりはいられなかった。

 ルリとして、伝えなければいけない事があったのだ。


 ルリは、母に告げた……。


 --襲われた時の衝撃で記憶が曖昧になってしまった事。

 --母と一緒に居たいという想いは変わっていない事。

 --今は冒険者として第2学園に通い楽しく過ごしている事。

 --魔法が使えるようになった事。

 --第三王女をはじめとした友達の事。

 ……


 受け入れられない部分もあるだろう。

 納得されない部分もあるだろう。


 それでも、精一杯、ありったけの想いを正直に話した。

 前世や女神の事は除いて……。




「あなただけの幸せをみつけなさい」


 一言で十分だった。

 2人は無言で抱き合い、涙を流したのであった……。




 コンコン

 2人の部屋にノックの音がする。


「サーシャ様、リフィーナ様、お夕食の準備が整いました」

 メイドの声がする。



 リフィーナが生きていた話は、一瞬で屋敷内に広まっていた。


 しばらく2人きりにしてくれたのは、従者たちの気遣い。

 従者たちは、リフィーナと会える事を心待ちにしていたのだ。



「「「「「リフィーナ様、お帰りなさいませ」」」」」


 グレート・ホールと呼ばれる食堂に入ると、使用人たちが一列に並んで出迎えてくれた。


「ただいま戻りました。

 留守中、母を支えていただきありがとうございます」


 使用人たちが涙をこらえているのが分かる。

 リフィーナは、一人ひとりの名前を呼び、声を掛けた。



「さぁ、今日は食事にしましょう。

 明日から大変になりますが、ゆっくり休むことも必要ですわ」


 母サーシャは、身体が強くはない。

 今日の出来事も、体力的に厳しいものだろう。

 それでも明るく振舞う母の姿に、私は勇気づけられた。




 9か月ぶりに、自室に戻る。

 変わらず清掃された部屋は、広く豪華だ。


(1年前までは高校生。

 突然冒険者になって、先週の今頃は奴隷になりかけて……。

 そして今は貴族のご令嬢か……)


 あまりの変化に苦笑いしつつ、明日からはリフィーナとして、しっかり領の為に働くと心に決めた。





 翌朝からは、貴族の生活となった。

 ドレスに着替え、朝食をとる。

 そして、来賓として屋敷に留まっていたセイラ達と合流した。


「ルリ、いや、学園に戻るまではリフィーナと呼ぶわね。

 これからの事を話したいの。いいかしら?」


「はい。私も考えがありますので、ぜひ……」



「まずは報告ね。ジョルジュ卿は、今お屋敷の牢を借りて監禁中。

 王都から護送兵を呼んでいるから、着き次第連行するわ。

 それまでに共犯者を見つけたいの。取り調べ用に屋敷の部屋を貸してくれるかしら?」


「もちろん、協力するわ。屋敷の出入りに詳しい使用人も使ってちょうだい」


「ありがとう。

 それと、マティアスにお金の流れを調べてもらうつもりなの。帳簿など見せてもらうけど、いいかしら?」


「母にも相談しますけど、問題ないと思います……」



「私からは以上。リフィーナからは何かある?」


「私は、領民の暮らしを元に戻してあげたい。

 税や取り締まりで苦しんでいるみたいだから……」


「わかったわ。詳しくはマティアスとの相談ですけど、協力するわ。

 その為には……うふふ」


 セイラが不敵に笑いだす。


「その為には、貴方のお披露目が必要ね!

 あなたが生きていたって事は領民にとって不安の解消になるわ。

 それと同時に新しい税とかのお触れを出すのがいいわね!」


「えぇぇぇぇ?」


「どちらにせよバレるのよ。それなら、派手にやりなさい!」


「ぅぅぅ」




 それから、マティアスと共に、領民の生活改善の具体策や、お披露目の段取りを話し合った。


 税率は、以前、つまり領主の交代時より少し低く設定する。

 もっと安くしたかったが、王国内での差があるとまずいとの事で少しの減税になった。


 また、孤児院の新設や支援、盗賊の被害者への救済処置が決められた。


 さらに、共犯として捕らえられた場合に不足する領兵や従者は、圧制によって役を解かれた者に復帰してもらって補う事に決める。



 そういったお触れと共に、7日後にリフィーナのお披露目が執り行われる事となった。





 丘の上に位置するアメイズ子爵家のお屋敷は、バルコニーから領都の様子がよく見える。

 逆に、領都の住民からも、バルコニーの様子がよく見える。


 その日、お屋敷の前には多くの住民が集まっていた。



「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉ」」」」」」」


 大歓声の中、バルコニーに顔を出した領主サーシャ。

 そして、リフィーナが続く。


「「「「「「「リフィーナ様、万歳!」」」」」」」

「「「「「「「アメイズ、万歳!」」」」」」」



「アメイズ領のみなさん、リフィーナは今戻りました。

 私達を襲った盗賊、私達を苦しめてきた盗賊は殲滅してあります!

 この平和を続けていけるよう、互いに力を合わせ、乗り越えていきましょう!」


「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉ」」」」」」」




「ぷぷぷ……」

 背後で笑い声がする。


「何よ?」

 騎士の鎧で背後に立つセイラに小声で尋ねると、

「だって、戦争から帰ってきた騎士、英雄みたいなんだもの……」


 顔を赤くしながら、住民に手を振るリフィーナの姿が残った。





「そろそろ王宮にも顔見せしませんとね」

 バルコニーから戻ったサーシャとリフィーナに、セイラが声を掛ける。


「セイラ様、お願いがございますの」

 サーシャが、耳打ちでセイラに話しかけた。


 セイラの顔が、どんどん笑顔になっていく。



「サーシャ様、この、セイラ・フォン・コンウェルに全てお任せください!

 最高の舞台を用意しますわ!」


「え? 何? 何の舞台?」


「もちろん、リフィーナの社交界の舞台よ!」


「えぇぇぇぇ!?」



 そうして、リフィーナとセイラは、急ぎ王都へと帰還することが決まった。


「諦めなさい。そもそも、今年12歳の貴方は、元々社交界デビューの予定だったのよ!

 私も付き合うから。

 それに、いい加減ミリアが寂しがるだろうから、早く戻らないとね!」




 翌日、リフィーナはセイラ率いる近衛騎士団と共に、王都へと出発した。


 さすがに、近衛騎士団にケンカを売るバカな盗賊はいない。

 そして、50人の軍勢に襲い掛かる魔物もいない。


 1週間もかからずに、王都へ到着した。




「セイラ・フォン・コンウェル。

 アメイズ子爵家令嬢、リフィーナ様の護衛を終え、帰還しました」


「リフィーナ・フォン・アメイズ。

 盗賊の脅威を退け、ただいま戻りました!」


 ここは王宮、謁見の間。

 大きな椅子にはレドワルド国王が座り、横に王妃ヘンリエッタ、第三王女ミリアーヌの姿もある。


 長く赤い絨毯の脇には、貴族たちの姿がある。


「ご苦労だった」



 レドワルド国王への報告を終え、別室へ移動する。

 ここなら、他の貴族の目は無い。


「ルリ、セイラ、お帰り~!!」

 関係者だけになったことで素に戻ったミリアが抱きついてくる。


「はっはっはっ!

 アメイズ領に行く事で何かが起こるとは思っていたが、まさか領主殺害の犯人まで捕まえてくるとはな!」

 国王は上機嫌だ。


「国王様、騎士団の皆様を遣わしてくださったお陰です。

 そうでなかったら、今頃どうなっていた事か……」


「ふふ、私が着いた時には盗賊やっつけた後だったじゃない。

 謙遜しなくていいわよ!」


 しばらくの歓談。

 セイラはいつの間にかメイド服に戻っている。




「そうだ、王都にアメイズ領のお屋敷があるのは知ってる?」

 突然、セイラが聞いてきた。


「行ったことは無いわ」


「じゃぁ、早くいってあげるといいわ。

 リフィーナの事を心待ちにしてると思う。

 それに、事実上、貴方がお屋敷の主になるのよ!」


 貴族は、領とは別に、王都に屋敷を構えている事が多い。

 アメイズ領の屋敷も例外ではない。


 ただ、領主サーシャが屋敷から出る事が無かったため、リフィーナも王都の屋敷に来たことは無かった。

 事実上、ジョルジュが時々使う程度で、人の出入りはほとんどない屋敷となっていた。



 貴族の屋敷としては大きい方ではない。

 それでも、部屋数は10を超え、中庭もある。


 場所がわからず馬車で送ってもらう。


「「「お嬢様、お帰りなさいませ」」」


 そこでは、個性的な従者が、待っているのであった……。

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