第42話 幽霊

 目の前の20人の盗賊は殲滅した。


 しかし……。

 ド、ドドド、ドドドドド


 奥にいた大勢の盗賊……援軍が到着したようだ。



 ルリは冷たい目で盗賊たちを睨みつける。


「やってくれんじゃねぇか、だがここまでだ!」

 頭っぽい、一際豪華な装備を身に着けた、大男が見える。



(あれ? あの人……。 もしかして……、あれ?)


 ルリの頭の中に、記憶が蘇ってくる。

 激しい憎悪が頭を駆け巡る……。


(やっと見つけた……。

 リフィーナを……。アメイズ領を救えるかもしれない証拠……)


 ルリは思った。

 殺すのは簡単だ。でもそれで終わってしまう。

 父と、あるいは黒幕の誰かを吐かせて連れ帰れば、母を救えるかもしれないと。



装着そうちゃく! 魔力纏い! 点灯ライト!)


 ルリは装備を女神シリーズに変更する。

 魔力を身体から溢れさせ、全身を覆うように、白く浮かび上がらせる。

 ついでに、後ろから光を当てて神々しさを演出した。



「やっと見つけたわよ!!!」

 ルリが叫ぶ。


「誰だてめぇ!!」


「この顔、忘れたとは言わせない!!

 お爺さまと私を殺した、悪党め!!!」


「てめぇ、まさか……。

 アメイズの姫……、あの時殺したはず……」


 お頭と呼ばれる大男が、恐怖に立ち止まった。



「「「ゆ、幽霊……?」」」


 あの場にいた盗賊が、他にもいたようだ。

 盗賊たちに恐怖の表情が広がる。



「あの日、リフィーナは死んだわ。あなたの剣に切られてね……。

 でもね、その想いは死ななかったの……。

 あなたを、あなた達を殺すために、私は復活したの!」


「うるせぇ! あいつが生きている訳がねぇ!

 まやかしだ、騙されるなぁ!」



 後方の魔術師らしき盗賊から魔法が放たれる。


 絶対零度アブソリュート


 ピキン


 ルリは飛んできた火球ファイヤーボールを凍らせ、撃ち落とす。



「怯むな、打ちまくれ!」


 バキン

 今度は剣で、火球ファイヤーボールを打ち返した。


「「「……」」」

 呆然とする魔術師たち。


 ピン

 ピン

 ピン


 ルリは一歩前に出ると、魔術師を氷柱に変える。



「勝ち目は無いわ。

 降参して全てを話しなさい!!」


「……」


 立ち尽くす大男を睨みながら、ルリは周囲の盗賊を凍らせていく。

 顔がみるみる青ざめていくのが分かる。



 盗賊の一人が膝から崩れ落ちた。


「ひぃぃぃ、俺たちは依頼されただけだ、殺すなら依頼主にしてくれ……」

 恐怖した盗賊が命乞いを始める。


「誰に? 誰に依頼されたの?」


 シュッ

 盗賊の一人を、青い炎で燃やす。


「「「ひぃ」」」


「聞いてくれ、答える、答えるから聞いてくれ……」


「早く言いなさい!!」


 シュッ、シュッ

 2人の盗賊が燃え尽きる。



「お前の父親だ、嘘じゃねぇ、証拠もある……。

 だから……助けてくれ……」


 盗賊たちは観念したようだ。

 武器を捨ててへたり込んでしまった。




「それで? 今すぐ証拠を見せなさい!!」

 頭と呼ばれる盗賊の前に立ち、言い捨てる。


「ここにはねぇ、奥まで来てくれ……」


「案内しなさい!」


 ルリは氷の槍を盗賊に向かって浮かべたまま、盗賊の腕を縛って猿ぐつわを噛ませた。

 全員に立つように言うと、奥の建物まで案内させる。


 すでに、盗賊は10人も残っていない。

 抵抗する気も無いのか、おとなしく歩き出した。




 奥には、平屋の大きな建物があった。


「説明なさい」

 話ができないので、盗賊の頭の猿ぐつわだけ取る。


「この中に、密書がある……」

 そう言うと、扉を開けた。ルリも続いて中に入る。



 汚い場所ではあるが、いくつか書類が残されているのが分かる。


 視線で差された場所を見ると、奥に箱がある。

 その中に密書とやらがあるのであろう。



 ルリが奥まで立ち入った時だった。


 グゴ

 狭い密室。逃げられないとでも思ったのだろう。

 盗賊が蹴りかかってきた。


 ザシュ

「ぐわぁぁあ!」


 蹴りかかってきた盗賊の足が、ルリの氷に切断される。



「そのくらい想像つくわよ。

 だから大人しくしてろと言ったのに……」


 ザシュ、ザシュ


「「「「「「「うぐぐぐぐ」」」」」」」


 他の盗賊全員の足に槍を刺し、動きを封じた……。




「いいこと? 私はあなた達の命にこれっぽっちも興味がない。

 殺す事に何のためらいも持たない。

 わかるわね!」

 言い放つと、書類の束を見だした。




 証拠はすぐに見つかった。

 ……領主を殺害し、娘を攫う計画。

 ……王都へ向かう馬車の移動ルートや日時が記載されたもの。

 ……報酬について記載されたもの。


 ルリは証拠をアイテムボックスに収納し、盗賊に向き直る。


「死の瞬間まで、私とお爺さまに手を出した事、後悔するといいわ」

 全てをあきらめた顔をした盗賊たちに、言い放った……。




 他の書類も一緒に収納し、ルリは外に出た。

 足に重傷を負った盗賊が転がっているが、もはや興味はない。


『リミットを設定しました』

 頭の中に声が響く。

(終わったみたいね。

 早く小屋に戻って、彼女たちと合流しなきゃ……)



 小屋に戻ると、女性たちは一か所に集まって剣を構えていた。

 周りの様子を見ていたのか、少し安堵した表情をしている。



「皆さん大丈夫ですか?

 盗賊たちはやっつけました。もう安全ですよ!」


 緊張していた女性たちが崩れ落ちた。


「もう、大丈夫なのね……、ぅぅぅ……」

「助かったの……?」

「あ、あの、ありがとうございます」


 気絶しそうになるのを何とか立ち直り、口々に喜びの声を漏らした。




「早くこの場を離れたい所ですが、どなたかここが何処かわかる方はいますでしょうか。

 私も途中気絶してまして……、帰る方向が分からないのです……」


 そんなルリの言葉に、返事を出来る者はいない……。


 日は暮れ始めている。

 近くの町や村まで遠いとしたら、魔物の出る森の中での野宿になる可能性もある。



(森で魔物に襲われる可能性、盗賊の仲間が戻ってくる可能性……。

 どこに居ようが安全とは言えないわねぇ……)


「あの、提案です。日が暮れて森の中で迷うよりは、ここの方がまだ安全だと思うのです。

 慌てて危険に突っ込むくらいなら、いったんご飯にしませんか?」


「「「「「「「「「「はい?」」」」」」」」」」


 ルリの突拍子もない提案に、女性たちの声がキレイに揃った……。




「あはは。私、とりあえずお腹すいちゃって……。3日も何も食べてないんですよ!」


 ルリの笑顔に、少し場が和んだようだ。

 皆頷いて、食事をする事に決まった。



「皆さんもお手伝いお願いしますね!」

 ルリは何もない空中から鍋や野菜を取り出していく。


「「「「「「「「「「はぁぁぁぁ?」」」」」」」」」」

 また、声が揃った。



「収納ですよ。さすがにこの人数のお弁当とか持ってませんからね。

 スープでも作って食べましょう!」


 女性が17人。

 少し元気を取り戻せば、あとは女子会の始まりだ。



 それぞれ、簡単に出身地や名前を伝えあった。

 思い出すと辛くなるので、攫われた時の様子は話さない事にした。


「朝までにしっかりと体力を回復して、明日は森を抜けましょう」


「「「おー!!!」」」


 結論、今いる場所は分からない。

 街や村に着いたとしても、盗賊の息がかかっている場所の可能性もある。

 それでも、生き抜くために頑張ろうと決意を新たにした。





「えっ?」


 身を寄せ合い眠りにつこうとしていた時、ルリは思わず声を上げた。


「「どうしたの?」」


 女性たちも驚いて聞いてくる。



「みなさん、起きてください!

 何かが来ます。森の中100メートル、数30、たぶん人間です」


「「「「「えっ?」」」」」



 女性たちは起きてそれぞれ武器を手繰り寄せる。

 あたりは真っ暗だ。

 灯りは危険だと思い、点けていなかった……。



(既にやっつけた盗賊たちの反応は動いていない。

 助けを呼びに行ったとは思えない。離れていた盗賊が戻って来たと考えるのが自然……)


 盗賊の頭や、その場にいた盗賊の反応を、ルリは目を離さずに捉えていた。


 足の大けが程度であれば、一晩で死にはしない。

 かと言って連れて動く事も出来ないので、念のため止血だけして放置している。



「別の盗賊の可能性が高いです。

 私はドアの外で待ち構えます。

 皆さんは動かずに身を隠してください!」


「「「「「はい」」」」」



「ルリさん、大丈夫です。

 覚悟を決めた女は強いですから!」


 力強く後押しされ、ルリは小屋の外に出た。

 反応は50メートルに近づいている。

 小屋から少し距離を取り、物陰に隠れて身構えた。


 今は、何をしてでも生き残る。

 その想いだけを、心に秘めて……。





 静寂の中、足音が聞こえる……。

 ルリは静かに氷槍を周囲に浮かべた。


(大丈夫、気配だけでも魔法は当てられるはず)

 自分を鼓舞するように呟き、氷槍の魔力に集中する。



 ヒュゥゥゥン、バチィン


 静寂を破ったのは、辺りを照らす光の魔法だった……。

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