第16話 魔力纏い
西門の後始末を終え、正門へと戻るルリたち。
そこには、討伐隊として向かった冒険者たちが戻り始めていた。
「ギルマス、ゴブリン集落の討伐を終え、無事帰還しました。
後処理に30人残り、20人は周辺の調査、他は順次戻って来ます」
身の丈はありそうな長い剣を持ったイケメンの男性がギルドマスターに報告している。
討伐完了、ゴブリンは殲滅され、こちらの死者は無し。
殲滅戦は大成功で終わった。
「よぉし、冒険者は戻り次第解散じゃぁ。
今日はよくやってくれたぁ、ゆっくりと休んでくれぃ」
ギルドマスターの合図で、冒険者たちは街へ帰っていく。
今日の酒場はさぞかし盛り上がる事だろう。
ルリは、収納したゴブリンなどの解体があるので、冒険者ギルドへ戻っていた。
チロリン、いつものドアベルを鳴らす。
ギラリ……
ジロリ……
「来たぞ、あいつが白銀の女神様だ!」
「ゴブリン・キングを一刀両断らしいぜ」
「いや、西の森ごと魔法で吹き飛ばしたって話だ」
「どこかの王家の隠し子らしいぞ」
「ちげーよ、太古のドラゴンが人の姿で降りてきてるって聞いた」
話が盛りまくられている上に、最後には人ですらなくなっている。
「あら、白銀の女神様のご帰還ね!」
「ちょっ、ダーニャさんその呼び方は止めてください!
それに視線が物凄く痛いんですが……」
ギルド内の話題は、キング種の出現と一人の冒険者による討伐でヒートアップしている。
話題の中心はもちろんルリだ。
その場から逃げるように、解体受付のジェイクの所に行き、解体場へと避難した。
「それじゃぁ、出しますね!」
ズドォォォォォォォォン
ドドォォォォン
「「「「「ひぃぃぃぃ」」」」」
巨大なゴブリン・キングに職員たちが震えあがる。
しかし、そこは職人、すぐ冷静に具合を確かめだす。
「皮の表面に無数の傷があるな、それに全身をくまなく焼かれていやがる。
どうやったらこうなるんだ? 瞬間的に奥まで熱が通ったのか?」
「こっちのはダメだなぁ、ほとんど燃えカスだ」
キング以外のゴブリンは、ほぼ燃え尽きていて素材としては使えないらしかった。
その後、キングの大斧を見て叫び声をあげた。
「こ、この大斧、ミスリル製だぞ! 武器でも鎧でもスゲーのが作れるぞ!
嬢ちゃん、これは持っとけ。何か欲しい武器とかあるだろ?」
「え? 武器ですか? 特に今ので困ってはいないですが……。
あ、私、よく切れる包丁が欲しいです!」
「「「「「な、もったいねぇ~」」」」」
全員が揃ってひっくり返っていた……。
「まぁ、査定はどっちにしろ明日になる。また来てくれ」
ジト目で見られながら、ルリは解体場を後にした。
ギルドのホールに戻ると、ちょうどギルドマスターが戻った所だった。
「ルリぃ、少しいいかぁ……」
ギルドマスターの部屋に呼ばれる。ダーニャも一緒だ。
「今回はご苦労だったのぅ。ジャックも感謝しておった。
それでじゃ、今後の事なんじゃが……。
ランクアップの試験を1週間後に行いたいと思う。
あれだけのゴブリンを倒せば、昇格条件としては問題ないじゃろう……」
「ホントですか!? ありがとうございます!」
「あぁ。剣技と魔法の試験と、模擬戦をやってもらう。
それでじゃ。この一週間で魔法の制御をもう少し覚えてこい。
試験場で大爆発起こされちゃ堪らんからのぅ」
惨状だけを見れば、ギルドの建物ごと吹き飛ばしそうな魔法が放たれたようにしか見えない。ギルマスが心配するのも、致し方なかった。
(魔法の制御かぁ。アリシャさんに聞いてみようかなぁ……)
ルリの場合イメージで魔法を使っている為、魔力の制御を学んだことはない。
「もっと強く」とか「死なない程度に」とかのイメージがそのまま魔法になっていた。
(今日は疲れたし帰って休もう。明日からは魔法の勉強だね。
確かに魔力ってよく分からないものね。頑張らなきゃ)
ギルドマスターとダーニャにお礼を言い、宿に戻る。
食堂は戦勝祝いの冒険者でごった返していた。白銀の女神の噂で持ち切りだ……
一緒に騒ぐ気になれず、部屋での食事とさせてもらい、一人ゆっくりと休んだ。
翌日のギルドは、冒険者であふれている。
ゴブリン討伐の報酬が支払われるからだ。
入った瞬間の視線におののき、後退る。
(ちょっと、後で来ようかしら……)
反転して戻ろうとすると、アリシャの声がした。
「あ、ルリちゃん、おはよう。どこか行くの?」
「いえ、混んでいるのでまた後にしようかと思いまして……」
「そか、私達もそうしようかな。一緒に散歩でも行く?」
ケルビン、アリシャと3人で時間を潰すことになった。
せっかくなので、魔法、魔力の制御について聞いてみる。
「魔力の制御かぁ、結論は慣れる事なんだけどね。
こんなこと出来る?」
アリシャが掌を私の前に出すと、白い靄のようなものが現れる。
そして、その形を丸や四角、動物の形へと変化させた。
「このモヤっとしたのが魔力ね。この魔力に詠唱を載せると、火や水の魔法になるの。
魔力を自由に操作できれば、魔法の強さや形を制御しやすくなるのよ」
「スゴイ、面白いです!!
私、今まで何となくでやっていたから、練習してみます!」
「普通は何となくじゃ出来ないんだけどね……
ルリちゃんだし、もう驚かないわ」
アリシャの中でのルリの人物像も気になるが、ルリの興味は魔法の制御に奪われていた。
時間を忘れて、魔力操作の練習をする。
ルリは、こういった一見地味な努力を好んで行う性格である。
コツコツ続ける必要があるが確実に身になるので、結果将来、楽ができるからだ。
その積み重ねによって、中学のテニスの部活でも、それなりの成績を残すことができた。
「そうそう、上手上手。
魔力の流れさえ理解できれば、形を変えていくのはそう難しくないわ」
掌の上で、丸いフワフワの白い光を大きくしたり小さくしたり、ルリは魔力の流れを感じていた。
「魔力をね、全身に均一に広げた状態が【魔力纏い】という身体強化の状態。
聞いた話だと、ルリちゃんがゴブリン・キングと戦っていた時、身体が白く光ってたらしいわね。
たぶん無意識に、魔力纏いを使ってたんだと思う。
ただ、制御が上手く出来ていないから駄々洩れで、女神様みたいになってたんでしょうね」
「・・・・・・」
アリシャの冷静な分析に、ルリは言葉が出ない。
「安心して。魔力纏いも上手にできれば光ったりしないから。
ちょっと疲れるけど、普段から魔力を意識して生活していると、身体に綺麗に纏えるようになるわ。
とにかく、これだけは継続した努力、としか言えないわね」
自分にチカラが付くというのは、何であれうれしい事だ。
アリシャに教わりながら、鍛錬を続けた。
やがてお昼になり、ギルドへ行くことにする。
朝の喧騒は収まり、冒険者の数も少なくなっている。
ケルビン、アリシャのように討伐隊に参加した冒険者の報酬は、一人金貨10枚だ。
素材売却の報酬もあるが、全員参加の場合は権利者がはっきりとしない為、合計売却額の人数割りになる。
2人は金貨11枚ずつの報酬を受け取った。危険度の割には少なめだが、街の防衛という重大任務の為、文句を言う冒険者はいない。
ルリの基本報酬は金貨1枚である。ただ、ルリにはゴブリン・キング討伐という明らかな実績があった。ダーニャがルリに説明する。
「ルリちゃんの報酬なんだけどね、Eランクで参加だから金貨1枚になるの。
ただね、西門の戦いで倒したキングとかの進化種については、冒険者はルリちゃんしか戦っていないでしょ。だから、その素材だけはルリちゃんに渡すってことになったの。
だから買い取りのジェイクさんの所に行ってもらえる?」
買取の窓口で、ジェイクに声を掛ける。
「来たなルリ、進化種の報酬なんだが……
皮や牙などの素材が金貨15枚、大斧が金貨80枚だ。
素材は状態がアレだったんでな、少し安くなっちまった。
それと、キングから魔石が採れたんだ。それが金貨30枚になる。
全部買い取りにするか?」
魔石は、魔道具の材料になる、魔力を纏った石である。
強力な魔物の場合、体内に溜まった魔力が石になっていることがある。
非常に珍しいため、高く売れる。
(ゴブリンの皮は、正直いらない。魔石も使い方が分からないからいらないな。
斧はミスリルって言ってたから、持ってればその内使うこともあるかも……)
「斧だけ持って行ってもいいですか。まだ使い道は分からないですけど、
いつか役に立つかもしれないですので……」
「了解、それじゃ金貨45枚だな。斧は解体場から持ってってくれ」
学費の事を考えると金貨80枚は大きいが、どうしようもなかったら王都に行ってから売ればいい。ルリは大斧をアイテムボックスに仕舞った。
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