第17話 ランクアップ試験

 それから1週間、ルリは魔力操作の練習に費やした。


 そして、Dランク昇格試験、当日を迎えた。



 昇格試験は、ギルドの訓練場で行われる。

 試験内容は3つだ。

 剣技の試験、魔法の試験、模擬戦の順で行われる。



 ダーニャに案内されて訓練場へ行くと、ギルドマスターが待っていた。


「準備はいいかぁ、試験を始めるぞぃ」


 最初の試験は、剣技の訓練部屋で行われる。


 室内では、3体の案山子の様なものが天井から吊るされている。

 振り子のように揺れる案山子を、ぶつかること無く切り伏せれば合格だ。


 某キノコを食べて強くなる赤いおじさん、マ〇オの気分になれる場所だ。

(あはは、ゲームの中みたい、楽しそう!)




 ルリは全身に魔力を纏わせる。まだ上手く出来ず、全身が輝きだした。


「ほぅ、魔力纏いを使えるのかぁ。まだ下手糞じゃがのぅ」


 ギルドマスターの感心した声が聞こえる。



 タイミングを見計らい、ルリは駆けだした。


 スパン

 1体目の案山子を両断する。


 グォン

 身体の後ろを案山子が通り過ぎ、風圧がかかる。

 風圧を利用して横に飛び、スパンと2体目、そこから反転し、3体目を切り落とした。


「「「おお」」」

 周囲で見学していた冒険者たちから驚きの声が漏れた。




「よし、剣技は合格じゃ。次に行くぞ」


 魔法の訓練部屋に案内される。

 今度は空中に的が吊り下げられていた。


(シューティングゲームね。これも楽しそう!)


「的は全部で10個じゃ。静止しているものと動いているものがある。

 よく狙って魔法を当てるんじゃぞ」



 ギルマスの説明に頷き、的に注目する。

 静止している的が7つと動いている的が3つ。


(静止している方は一気にやっていいわね。残りは1本ずつ狙いましょう!)


氷槍アイスランス、いけー!!」


 魔法を唱え、7本の槍を飛ばす。

 バシュ、シュシュシュ……

 7つの的を氷の槍が吹き飛ばした。


 残った動く的に順番に狙いを付ける。ルリはノリノリだ。


「あと3つ、それ!」

 バシュ

「えい!」

 バシュ

「さいご!」

 バシュ


「「「「「なんだそりゃぁぁぁ!?」」」」」


(あれ?)


「あはははは・・・何か違ってました・・・?」


 普通、魔法は、「それ」とか「えい」の掛け声では発動しない……。




 固まっていたギルマスが、辛うじて再起動した。


「ごほん、まぁ合格じゃな。じゃが・・・魔法、なのか? それは……」




「最後に模擬戦じゃ。ダーニャ、案内してくれぃ」


 模擬戦の会場は、テニスコートより少し大きい広場。

 普段はここで、冒険者たちが訓練しているらしい。



「模擬戦は勝ち負けではなく、戦闘の様子を見るものじゃ。

 無理はせんでいいが、全力で戦ってこい。

 相手を傷つけることは厳禁、剣は寸止めで使え。殺傷性のある魔法も禁止じゃ。

 ルリぃ、お前の魔法は危ない。極力魔法は使うなよぉ」


 攻撃魔法は使わずに模擬戦を戦えという事だろう。

 ルリとしても、相手を怪我させる可能性がある以上、制御の完全ではない魔法は使えない。



「分かりました。魔法は防御と身体強化だけにします!」


 防御の魔法など使えないのだが、とりあえず身体強化は使うことを宣言する。




「相手はのぅ、入れ!」


 訓練場に入ってきたのは、ケルビンとアリシャだった。


「知ってると思うが、Cランクパーティ『双肩の絆』の2人だ。

 剣と魔法を同時に相手して、どれだけ戦えるかを見させてもらうぞぃ」


「ルリちゃん、今日は手加減抜きでいくからな!」

「私の魔法を躱してみてね!」


「ケルビンさん、アリシャさん、強くなった私を見てくださいね!」


 日頃から稽古を付けてもらっているケルビンとは、何度も模擬戦をしている。

 アリシャの魔法も、何度も見たことがある。


(魔法は全部避けないと、絶対に痛いはずよね。

 ケルビンさんと撃ち合いながら隙を突くしかないわね)


 模擬戦用の木剣を構えて、対峙した。




 ルリが全身に魔力を纏うと、身体から光が溢れ出す。

 ルリとケルビンが直線に走りだし、一気に距離が詰まる。


 カンカンカンカン

 木剣での打ち合いは、どちらも一歩も引かない。


 ルリはバックステップで距離を取る。

 ケルビンが詰め寄り上段を振るうと、ルリは左に受け流して横腹を狙う。


 ガン

 渾身の一撃はあっさりとケルビンの剣で防がれる。

 ルリは体勢を整えるべく大きく後ろへ飛んだ。



「ルリちゃん、今日は動きがいいね!」

「はい、気合入ってます!」


 ケルビンの表情が締まる。ここからが本番という事だろう。

 再び剣を合わせる2人。


 カンカンカンカン

「くっ」

 ケルビンの剣圧が重い。ルリは思わず体勢を崩した。


 ガシン

 横薙ぎに払われた剣を、ルリは無理やり剣の腹で受けた。

 衝撃で後退る。


(ケルビンさん、やっぱり強いわ、でもまだまだ!)


 剣を構えなおそうとした時だった。


火球ファイヤーボール!」


 ルリに向かって火の玉が飛んでくる。

 威力はないが、当たれば痛そう。しかも崩れた体勢では避けられそうもない。


「うりゃぁぁぁぁ!」


 ルリは火の玉に向かって剣を振る。

 その動きは、テニスのストロークそのものであるが……


 ボシュ、ドシュン

 火の玉は剣にはじき返され、ケルビンとアリシャの真横を通過、2人の後ろの壁を焦がした。


「「へっ?」」



「ちょ、ルリちゃん、何したの……?」


「いや、あの、急な魔法にびっくりして、打ち返しちゃいました……!」


「「「「「嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁ」」」」」




「もういい、そこまでじゃ。

 もはや儂の理解を越えているのじゃが・・・どうしたもんかのぅ……」

 ギルドマスターが頭を抱えている。



「実力を示したことは間違いないがのぅ。

 ケルビンと対等に打ち合い、アリシャの魔法を……跳ね返した……?

 まぁ、Dランクへは昇格じゃ。ダーニャ、手続きせぃ」


「ありがとうございます! ギルマス、ケルビンさん、アリシャさん、ありがとうございました。

 ダーニャさん、よろしくお願いします!」


「儂は少し休ませてくれぃ」


 トボトボと訓練場を去っていくギルマスと、やれやれという顔をした3人。

 ダーニャ、ケルビン、アリシャに囲まれながら、ギルドホールに戻るルリであった。




 白銀の女神には魔法が効かない、白銀の女神は魔法を倍返しする、

 そんな噂がギルドに広まるまで、多くの時間は必要なかった。




 ルリの新しい、ブロンズ色の冒険者カードには「D」の文字が浮かび上がっている。

 そう、カードの色が変わり、白からブロンズに変わったのだ。


 見習いを卒業し一端の冒険者になった証だった。


(この世界に来て1ヶ月ちょっとかぁ。

 早かった、ていうかまだ1ヶ月なのよねぇ。この世界トラブル多すぎじゃない?)


 そう、基本的にこの世界は平和なのである。

 ルリがトラブル体質であることは間違いなかった。




 Dランクに上がったルリは、積極的に依頼をこなしていた。

 正確には、必死に魔物を討伐していた。


(1ヶ月後には王都へ出発。それまでに学費と当面の生活費。

 都会のファッション、着いて行けるかな、とにかくお金、お金!)



「あ、金貨8枚発見!」


 今のルリには魔物が金貨にしか見えていない。オークの首を一撃で切り離し、アイテムボックスに収納。

 目にする魔物、いや、金貨を次々と倒していった。



 同時にルリは、ギルドで魔物の図鑑を必死に覚えていた。

 森の泉で倒した魔物を調べるためである。


 森の奥で周囲に誰もいないことを確認し、アイテムボックスから魔物を取り出す。

 時間停止の機能により、倒した時の状態、つまり氷漬けの魔物だ。


「これはダイアウルフね。素材になるのは牙と爪、そして毛皮。

 お肉も食べられるから大事にしないとね」


 森の奥で一人、巨大な魔物を解体する。


(さすがにギルドに持ち込むわけにもいかないからね。解体して売れる状態にしなきゃ)





 出会った魔物を討伐しながら森の奥へ進み、未解体の魔物を解体する。

 そんな生活を2週間。

 アイテムボックスの魔物も、大多数が解体された。


 ケルベロスの魔石、爪、牙、皮、骨、肉

 ヒュドラの魔石、鱗、爪、骨、肉

 デビルベアの魔石、毛皮、牙、爪、肉

 コカトリスの魔石、羽、爪、肉

 黒蛇の魔石、鱗、骨、肉

 トロルの皮、骨

 ……


(ランクA、Bの魔石もいっぱい!

 素材になっちゃえば、女神様からのボーナスみたいにも思えてくるわね。

 まぁリンドスで売ったら目立ちすぎるから王都までお預けだね)



 王都出発まで残り3週間。

(少しでも強くなって、少しでもお金貯めて。頑張りましょう!)



 街に戻ると、ルリは人気者だ。


「ルリちゃん、お帰り、今日もかわいいよ!」

「はは、ありがとうございます。ただいまです!」

「野菜が採れたの~持ってきなぁ」

「いいんですか? 助かります!」

「白銀の聖女様だぁ、握手してくださーい」

「はーい、よろしくねー」

「俺のパーティに入れよ」

「もうすぐ王都に行くのでご遠慮します」

「息子の嫁に……」

「すみません」

「パンツ見せて~」

「べしっ!」


 お忍びの貴族ご令嬢だと思っている者、本気で女神だと信じている者、普通の町娘、冒険者として接してくれる者、恋人候補として好奇な目線を向ける者、ただの変態。


 様々な反応ではあるが、共通しているのは街の仲間として認めてくれている事。

 それがルリは嬉しかった。

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