第8話 薬草採取

 初めての依頼達成で報酬を得たルリ。

 目の前には、ギルド受付のダーニャがいる。


「そうだ、ダーニャさん。この辺りでおすすめの宿屋ってありますか?

 そんな豪華でなくてもいいのですが、できればお風呂がある所で!」


「宿? そうねぇ、“朝の木漏れ日”かしら。

 大浴場もあるし、女性の冒険者からも人気があるわね」


 設備の割に値段も安く、おすすめの宿らしい。


 大通りから一歩奥まったところに、“朝の木漏れ日”はあった。


 中に入ると、メイドは……いなかった……。

 ちょっと年上位のお姉さんが、受付に立っている。



「いらっしゃい、お一人ですか? お部屋空いてますよ!」


 とりあえず1泊をお願いし、銀貨8枚を支払う。

 案内された部屋は六畳一間で、ベッドがひとつある。


(うん、これが身の丈よね。昨日の宿はご褒美の時専門だわ)


 食堂に向かうと、壁にメニューが張ってある。

 『オーク肉のステーキ』

 『ワイルドベアの煮物』

 『メッシュボアの肉炒め』


 肉料理しかなかった……。


 おすすめだと言うオーク肉のステーキを食べてみると、正に豚肉だった。

 想像以上に柔らかく、美味しくいただいた。


(小説にも豚肉って書いてあったけど、ホントなんだね!)



 食後は大浴場へ。冒険者らしい女性客が他にもいる。

 しっかりと汗を流し、部屋着に着替え、横になった。



(うん、いい宿だね。しばらくここにお世話になりましょ!)

 宿に満足しつつ、瞼を閉じるのであった。




 朝目覚め、外出の準備を整える。

 今日は朝からギルドで薬草の講習だ。

 宿泊延長のお願いをして、ギルドへ向かった。



 朝のギルドは、冒険者で溢れていた。

 自分の依頼を探すことで一生懸命なのか、私に絡んでくる人はいない。


 受付のダーニャに挨拶すると、まだ時間があるという。


「おはよう、講習は奥の部屋よ。30分後に開始だから、時間になったら部屋に来てね」

 私はギルドの掲示物を見て過ごした。


 ギルドには様々な掲示物がある。

 依頼のボード以外にも、冒険者向けのお知らせや近隣の地図、イベントの情報などもある。


 そこには、王都の学校の情報もあった。


 クローム王国第2学園~新規入学生募集~

  秋(9月)開校

  入学試験及び申し込み:8月(王都にて実施)

  入学条件:15歳以下(身分問わず)

  受験資格:紹介状保持者または冒険者ランクDランク以上

  学費:金貨500枚(12歳以下は金貨100枚)

  全寮制


(学校、秋からあるのね。今は春だからまだ4ヶ月程時間があるわ。

 8月までに金貨100枚持って王都に行かなくちゃ。

 しかも冒険者ランクDランクか。結構厳しいわねぇ……)


 受験資格が問題だった。

 貴族や商人などはゴリ押しで紹介状を入手できるのであろうが、今のルリにはその伝がない。

 冒険者ランクをDまで上げた上で試験を受ける必要がある。


(王都までは馬車で1週間だから、2ヶ月の間にDランクになって、王都まで向かう必要あるのね)


 当面の予定が決まった。

 今は春、4月の終わりである。

 8月に王都にいるためには、2ヶ月の間に冒険者ランクを上げて、7月中旬までに王都へと出発しなければならない。


(この街にいられるのも2ヶ月間ということか。頑張らなくちゃね……)


 本来2ヶ月の間にDランクなどは無謀極まりないのであるが、そんな常識はない。

 予定が決まり気持ちを新たにしていると、講習開始の時間になった。


 奥の部屋へ行くと、小さな教室のような場所があり、既に3人が座っていた。

 赤髪の少女、茶髪を丁寧に結った少女、黒髪を短く刈り揃えた少年。

 全員、どう見ても初心者冒険者という服装だ。


 講師らしき女性が入ってくる。


「こんにちは。私はミルダよ。今日は薬草講習の講師をさせていただくわ。

 普段はギルドの受付をしているの。よろしくね!」


 よく通る声で挨拶したのは、金髪、ロングヘアーの20代後半くらいの女性だ。

 薬草などの知識の講習は受付嬢が行っており、剣技や魔法などの講習は上位ランクの冒険者が行うらしい。


 講習は毎週行われており、その都度内容が異なるそうだ。

(出来るだけ講習は受けておこう)

 そう思うルリだった。


 薬草の講義は、非常にわかりやすかった。

 傷薬や毒消しポーションの材料になる薬草、病気に特効薬になる薬草、その他希少で高く買い取ってもらえる植物など、イラスト付きで教えてくれた。

 また薬草の刈り取り方で金額が変わるというのも、知ってると知らないとでは大きく違う。




 2時間ほどの講習が終わると、お昼の時間になった。

 冒険者たちは既に出かけたのか、依頼ボードの前は空いている。


 赤髪の少女が、ボードを見ると受付の方に駆けていった。

 さっそく依頼を受けるのだろう。

 私もボードを確認する。


 『薬草採取:1束、銅貨3枚~』


 一番使用頻度の高い、傷薬の材料になるリギト草は常時買い取り、他の薬草もその時の時価で買い取ってもらえる。珍しい薬草の場合は、専用の依頼が出ることもある。


 珍しい薬草の場合は依頼がないと買い取ってもらえないこともあるそうだが、私の場合は時間停止のアイテムボックスがあるから問題ない。見つけたら採取しておこう。


(今日は採取に行ってみましょ。宿代の銀貨8枚には届かなくても足しにはなるわ。

 まずは武器屋ね。採取用のナイフを買って街の外にお出かけよ!)



 ギルドから出て、武器屋に向かう。

 ちょっと大きめのお店に入ると、様々な武器や防具が並んでいた。


 女神の鎧と同じような形をした白銀の防具が飾ってある。ミスリル製の軽鎧、金貨600枚と書いてある。


(やっぱり女神様の鎧は高級品なのね、目立たないように普通の装備も買っておこうかしら……)



 女神の鎧が実際にミスリル製なのかは不明だが、似た色合いなので近い素材なのだろう。

 周囲を見渡し、着やすそうな防具を探した。


(あれ、可愛いわね。ミニ浴衣みたい!!)


 薄水色のローブを手に取る。ローブにしては丈が短く膝上くらい。生地全体に花の刺繍があり、清楚な感じだ。日本のミニ浴衣のような派手さはないが、瑠璃色の髪にもよく似合う。

 さすがに帯は無かったが、ベルトで止めるようだ。


 値段は金貨10枚、暑さや寒さを和らげる魔法効果があるらしく、少し高めだ。

 薄水色のローブのデザインに合わせて、靴も新調することにした。



 武器のコーナーに行き、ナイフを探す。

 果物ナイフ、包丁、に見える刀と、30センチくらいの小剣を選んだ。


(3種類あれば、採取もお料理もできるんじゃないかなぁ……)


 ついでに採取用の籠と、大小の鞄や巾着を買っておく。

 アイテムボックスのせいで、今までルリは手ぶらだった。

 さすがに荷物が何もないのはおかしいだろうと思ったのだ。


 会計を済ませ、新しいローブに衣装替え。

 花火大会にでも行くような姿であるが、ルリはとても満足していた。





(さ、薬草採取、いくわよ。レッツゴー!)


 街の外に向かい、門番に挨拶する。


「お、ルリさんだっけ? 外に出るのかい?」


「はい、薬草の採取に行ってきます!」


「冒険者登録できたんだね、気をつけてな。

 そうそう、数日前に森の奥で何かがあった様なんだ。

 上位ランカーが調査して来たんだが、大きな戦闘でもあったのか森の奥に焼け爛れて破壊された場所があったそうだ」


 記憶にあり過ぎる光景に、一瞬息をのむ。


「特に死体とかがあったわけでは無かったから、たまたま山から下りて来た大型の魔物同士が戦闘になって暴れた結果だろうという事になったんだが、森の奥には近づかない方が良い。

 採取するなら手前にするんだぞ、くれぐれも気をつけてな!」


「はい、気をつけます。行ってきますね!」


 大事になっていないことに安堵しつつ、森の手前に向かうことにした。





 森に入ると、様々な草花がある。

 よく見ると、先程教わった薬草が所々にあるのが見つかった。


 買ったばかりのナイフで、丁寧に薬草を刈り取り、籠に入れていく。

 視線を先に伸ばすと、薄黄色の小さな花があった。


 教わった中の「花びらを磨り潰すと病気の薬になる花」に似ているので、数本採っておいた。

 籠がいっぱいになったらアイテムボックスに仕舞い、採取を続けた。



 10束の薬草を採取し、そろそろ良いかな、と考えていた時 ルリの危機感知に反応がある。


(ん? 何かいるわね)


 採取の手を止め、察知した方向を観察する。

 視界の悪い森の中では、ルリは危機感知の魔法を広げていた。

 目で見えなくても、約50メートル程度の範囲に脅威があれば、気づくことができる。


 確認のため慎重に近づくと、5つの人影が見えてきた。


 3つの影は、2メートルはある大きな人型。オークだろう。

 2つは冒険者らしい。男性が女性を守るようにしてオークに対峙している。



 冒険者が、他人の獲物を横取りするのはご法度である。

 ルリは、いざとなったら救助に入ろうと様子を見ることにした。

 他人の戦闘を見るのは初めてなので、興味もあった。


 冒険者の男性は、軽鎧をまとい、剣と盾を持ってオークの打撃に備えているようだ。

 女性はローブと杖の装備。魔法を使うのだろう。


 ルリも、アイテムボックスから女神の剣を取り出す。ミニ浴衣風ローブに剣装備。

 何の職業だか分からないコスプレのような恰好になった。



 正面のオークが棍棒を振り上げ、冒険者の男性に叩きつける。


 ズドォォォォン


 棍棒と盾がぶつかり、激しい音が響く。


 女性は魔法の詠唱をしたようだ。

 火の玉が左のオークに飛び、オークの動きが止まる。



 しかしオークは3体いる。

 右側のオークが棍棒を横なぎに振るった。

 男性が剣をあて勢いを殺すが、衝撃で2人は吹き飛ばされてしまう……。


(ヤバいね……)

 私は2人の冒険者の元に駆けだし、声をかける。


「助っ人入ります!」

「おお、助かる!」


 辛うじて踏ん張っていた男性が私に気づいた。

 女性は男性の後ろで倒れたままだ。

 3体のオークが迫る。一斉に攻撃されたらもたないだろう。



氷槍アイスランス、トリプルで!」


 大気中の水分を集め、温度を下げるイメージ。

 氷を槍の形に固めて打ち出すイメージ。


 ザシュ、ザシュ、ザシュ


 空中に現れた3本の氷の槍が、3体のオークに突き刺さる。

 動きを止めた瞬間に近づき、私は冒険者とオークの間に割って入った。



「私はルリです。大丈夫ですか?」

「あぁ怪我はない」


 2人をチラリと確認し、私は正面のオークに切り掛かった。

 振り降ろされる棍棒の一撃を、流れるような動きでかわし、オークの背後へと飛び上がる。


 ズシャ

 首元へ真っ直ぐに放たれた漆黒の剣筋は、オークの首を両断した。


 新しい敵の出現に動きを止めた右のオークに、男性が剣を振り下ろす。

 横腹に刺さり、オークは崩れるように倒れた。


 右側のオークには女性の放った火の玉が向かっている。

 頭部に命中し、こっちのオークも息の根が止められたようだ。



 倒れて転がる3体のオークの死亡を確認し、私たちは安堵した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る