第6話 冒険者ギルド
「ようこそ、クローム王国、リンドスの街へ」
門番に再度お礼を言い、街へと繰り出す。
石造りの美しい街並が広がっている。
正面には大通りがあり、幅は10メートル程度。
奥に小さなお城のような建物があるが、この地を治める貴族が住んでいるのであろう。
向かって左右にも道があり、幅は5メートル。主に住民が使っているようだ。
大通りには馬車が走っている。
馬車を守るように騎士の姿があることから、貴族なのだろうと思う。
まだ夕方前の時間という事もあり、人通りは多い。
武器を持たない女性の姿も多く、街の中は安全なのだとわかる。
(さて、冒険者ギルドと今夜の宿を探さなきゃね)
大通り沿いには、2階建てや3階建ての大きな建物が並んでいる。
その中でもひときわ大きな建物が、門から10分ほど歩いた右手に建っていた。
剣と盾のシンボル、ウエスタン風のドア。
むしろ呆気にとられる位に、アニメで見た「冒険者ギルド」そのものな建物だった。
ドアを押し開く。
チロリンとドアのベルが鳴る。
正面が受付カウンターらしく、数名の女性が並んでいる。
入って右側は、冒険者のたまり場らしい。
大衆居酒屋といった雰囲気だ。
場違いな少女の来訪に、ギッと視線が飛ぶ。
ギルドの中には、武器を持った屈強な男たち。
色とりどりの髪の色をした、魔導士風の女性。
何故ここにいるのか分からないような、軽装の色男……。
様々な視線が突き刺さる。
「おぅなんだぁ、嬢ちゃん場所間違えてるじゃねぇのかぁ」
「あれぇ? お姫様ぁ、僕を迎えに来てくれたのかなぁ」
「おらぁ、ガキが何入って来てんだよぉ」
自分でも場違いなことは分かっている。
門番が言うように貴族の令嬢にしか見えない恰好。
どう見ても未成年な容姿……。
私はどす黒い罵声を無視して、受付と思われる場所に進んだ。
「ようこそ、冒険者ギルド、リンドス支部へ。
私は受付のダーニャよ。
お嬢さんは何か御用ですか?」
年齢は40代だろうか。
親しみやすそうで、それでいてハッキリと物言いしそうなおばちゃん。
私は、近所の八百屋のおばちゃんを思い出した。
「はい、冒険者の登録をしたくて参りました!」
私の全身を舐めるように見て、一枚の紙を取り出す。
登録用紙なのだろう。
「新しく登録するのね。
冒険者ギルドは12歳以上なら犯罪者で無ければ誰でも登録可能よ。
一応確認するけど、12歳は超えているのよね?」
頷く私に、説明を続ける。
「じゃぁこの用紙に記入してくれる?
文字は書けるわよね」
用紙を受け取り、文字が書けることを伝える。
記入欄には、「名前」「年齢」「職業」という欄がある。
名前に「ルリ」と記載する。
苗字があるのは貴族だけである。
平民として平和に暮らしたい私は、苗字は書かないことにした。
次の年齢の欄で、少しペンが止まってしまった。
リフィーナの記憶を思い出したのである。
この世界では、成人年齢は15歳である。
あくまで貴族の話ではあるが、12歳で社交デビューし、15歳までの3年間で様々な知識を学び、大人としてやっていけるような教育を受ける。
ふと、ギルドのおばちゃんに尋ねてみた。
「私、冒険者について詳しくないのですが、どこか学べる場所などはあるのでしょうか?」
「それならあるわよ。ギルドで初心者講習を行ってるから。
冒険者専用ではないけど、王都には学校もあるわね。
ギルドの講習は、15歳未満なら無料、それ以上だと有料。
王都の学校は確か13歳までなら特別料金で入れたはずよ。
あ、そっちはご令嬢のあなたの方が詳しいかも知れないわね……」
つまり、未成年は得という事だ。
私は、この世界の事は知らない。冒険者についても分かっていない。
もし最初に学ぶことができるなら、この先の数十年も続くだろう人生が楽になるはず……。
(うふふ、私が15歳だと知っているのは女神様くらい。許してくれるよね!)
迷わず年齢欄に「12歳」と記入する。
15歳だと、ギルドの講習が有料になる。学校に行くこともできない。
私は他に、選択肢が思い浮かばなかった。
職業欄は、分からなかった。
リフィーナならば騎士なのだろうか……。
首をかしげていると、ダーニャが助けてくれた。
「職業は分からなければ空欄でいいわよ。
まだ若いのだからね、色々なことに挑戦してみると良いのではないかしら……」
結局、書いたのは名前と年齢だけ。
ルリ、12歳。
本名詐称、年齢詐称である。
「まぁお忍びで冒険者をされる貴族様も多いからね。
くれぐれも無理しないでくださいね……」
もはやお忍びの貴族令嬢という身分は確定してしまっているようではあるが、登録ができるのであればそれで良いのである。
「では登録しますので、こちらの水晶に掌をかざしてください」
水晶をかざすと青白く光る。
そして、「ルリ」「F」と書かれた白色のカードが出現した。
「はい、これがルリさんの冒険者カードよ。
このカードはどこの冒険者ギルドでも使えるわ。
なくしたら再発行の手数料が銀貨3枚かかるから注意してね。
それで、ギルドの基本的な説明も必要なのよね?」
私が頷くと、ダーニャは冒険者ギルドの説明をしてくれた。
冒険者ギルドは、貴族や商売人、住民などからの依頼を取りまとめる機関だ。
ギルドに張り出された依頼を受けて、冒険者は報酬を得る。
人材派遣会社のようなものだろう。
依頼にはランクがある。難易度が上がるごとに、F、E、D、C、B、A、Sとなっていて、自分のランク以下の依頼しか受けることができない。
Fランクは主に薬草の採取や街中でのお手伝いとなり、魔物と戦うことはまずない。
Eランクになるとゴブリンなどの弱い魔物の討伐を任される。そしてDランクには護衛の依頼があり、これは対人戦を伴う。
Cランクになると一人前。B、Aとランクが上がるにつれて英雄に近い扱いになる。
Sランクまで上った冒険者は、ここ100年間いないらしい。
ランクアップには、既定の依頼をこなす必要がある。Fランクの私がEランクに上がる為には、1週間以内に3つの依頼を達成すればいいそうだ。
明日からやってみよう。
他にもギルドのルールなどを聞いた。
冒険者同士の殺し合い禁止とか、犯罪者に協力してはならないなど、細かいルールがたくさんある。日本の法律を知り、それを常識として生きる私としては、まず問題なさそうだ。
「冒険者に貴族も平民も無いからね。
みんな生きるか死ぬかって世界で戦ってんの。
誰も守っちゃくれない世界。
死ぬんじゃないよ!!」
ダーニャが、最後に私に活を入れ、無事冒険者ギルドへの登録が完了した。
誰かに絡まれないようにと、私は急いでギルドを出た。
外は、日が沈みかけていた。
急いで宿を探さなければならない。
大通りの反対側を眺めていると、それっぽい建物がある。
看板には、「銀山荘」とあり、1泊金貨10枚とある。
宿屋で間違いないだろう。
白い石壁で、清潔感がこの上ない。女性1人でも問題なさそうだ。
(一泊金貨10枚って……高くない?
でも物価は分かんないし……。
まさかぼったくりとか……無いよね……)
「いらっしゃいませ、銀山荘へようこそ。
お嬢様、お一人様でございますか?」
中に入ると、メイドがいた。
20歳くらいだろう。
濃い目の金髪を短く刈り揃え、私の知るメイド服そのものを纏う女性が、優雅にお辞儀した。
(あれ? やっちゃった?)
映画から切り取ってきたかのような、本物のメイド服を見て一歩後退る。
とは言え異世界。驚くことには免疫ができていた。
「はい、私1人なのですが、1泊させていただけますでしょうか」
「お部屋は空いております。1泊、夕食と朝食付きで金貨10枚でございます」
金貨を10枚支払い、メイド服の美女に案内され、2階奥の部屋に通される。
「こちらが鍵でございます。お夕飯はすぐに準備できますので、1階奥の食堂までお越しください。朝食も同じ場所でございます。
お風呂には魔道具が設置されています。ご不明な際はいつでもお呼びになってください。
それではお嬢様、ごゆっくりお寛ぎくださいませ」
部屋に入ると、20畳くらいのリビングがある。
奥はベッドルーム、さすがに天蓋はついていないが、ダブルベッドのサイズだ。
(あぁ、やっぱり。高級宿だ。やらかしたなぁこれは……)
夕食は、優雅なコース料理だった。
一品一品をメイドが運んでくる。
前菜からメインまで、野菜料理と肉料理が中心だ。
ここは内陸なのか、魚料理は無かった。
主食はパンで、白く柔らかかった。
(パンがあるのだから小麦粉があるのかな? この世界の食事は期待できそうね!)
香辛料の数が少ないのか、全体的に薄味ではあったが、非常においしかった。
マンゴーのようなフルーツに甘めのドレッシングがかかったデザートは、地球の料理よりも美味しいのではないかとさえ感じたほどだった。
部屋に戻り、お風呂を覗いてみる。
魔道具がどうとか言っていたが、すぐに分かった。
壁の赤い石を触ると、お湯が流れ出し、もう一度触ると止まる。
仕組みは分からないが、温度も適温であった。
女神の鎧と制服に
脱衣所で制服、下着を脱いでかごに入れ、浴室へ入った。
(明日は買い物に行かなくてはいけないわ。
下着の替えも必要だし、寝る服がないのは致命的ね。
それに、貴族に見えないような、普通の服も買わないとね)
足りないものが次から次へと浮かんできて、頭の中に買い物リストを作っていると、浴槽にはいい量のお湯がたまっていた。
シャワーは無いようなので、お湯を桶にとって身体を流す。
備え付けの石鹸やシャンプーで身体を洗い、2日ぶりの入浴を満喫した。
(石鹸とシャンプーはもう一息ね。
薬草の成分とか研究してるわけじゃないだろうからね。
化粧品とかはどうなってるんだろ。
今度探してみなきゃだわ)
たっぷり1時間ほどお湯の中でこれまでの出来事を振り返る。
ふと、日本とそう変わらない生活をしていることに気づく。
(もしかして、街にいる限りはそんなに変わらない生活なのかしら……?)
ルリはあまりの快適さから、最高級の宿に泊まっていることを忘れていた。
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