第四十一話 温かさを感じて

Szene-01 レアルプドルフ、西門前


 町に戻ってきたエールタイン達。

 衛兵たちに驚かれながら西門をくぐった。


「ルイーサありがとう。家の人が心配しているだろうからここで」


 西門をくぐると北側が一番地区、南側が二番地区である。

 エールタインはルイーサの住む二番地区前に着いたため、別れようとする。


「はあ。あなたって妙に淡泊な時があるわよね」


 ヒルデガルドが主を止める。


「ルイーサ様、ドミニク様に何も言わず出てきています。ここは帰った方がよろしいかと」


 エールタインが言う。


「え!? それはいけないよ。早く帰って」

「そんなに言わなくてもいいじゃない……はあ、もういいわ。また会ってくれる?」

「もちろんだよ。今度はうちに来る? それならゆっくり話せるんじゃないかな」


 拗ね気味だったルイーサは、エールタインの提案で一気に明るい表情に変わった。


「行くわ。今後の事についてじっくり話がしたいから」


 ルイーサはそう言い残してヒルデガルドに帰る合図をする。

 しかし一歩踏み出した所で立ち止まって振り返った。


「ところで、どこに住んでいるの?」

「ああ、言ってなかったね。南北街道沿いから三番地区に入って……」


 エールタインはダン家への道を教える。

 ルイーサはそれをとても嬉しそうに聞いていた。


「これでいつでも行けるわね。それではダン様、ここで失礼します」


 軽くカーテシーをして踵を返す。

 プライドを高くもつルイーサらしくお嬢様風だ。

 去っていくルイーサに一動作遅れてお辞儀をするヒルデガルド。

 アムレットもヒルデガルドの元へ駆けていき、肩に乗った。

 そしていつものように主人の後ろに付く。


「なかなか面白い子だ。あの従者も魔獣を手懐けられるようで興味深い」

「泉広場で話しただけだからまだどんな人たちなのか分かっていないんだ」

「ふむ。それなのに助けにまで来てくれたのか。余程気に入られたようだな」


 エールタインは頬をかきながら言う。


「どうもそうみたい。理由はわからないけど、気に入られるのは嬉しいよ」

「良かったですね。お仲間が出来るのは心強いですから。さあ、ティベルダの身体が冷えてしまいますから帰りましょう」


 ティベルダをちらりと見たダンは自分の頭を軽く叩いた。


「そういう一番大切なことを優先していない……だからこんなことに」


 反省を始めるダンに向けてヘルマが言う。


「主人の手が回らない面を補うのが私たちの仕事。ダン様は何も悪くありません」


 ヘルマはエールタインにも一言伝える。


「そんな従者が今回の件に気づけなくて、エール様にどうお詫びしたら良いのか……」

「ヘルマとダンは何も悪くないよ。ボクの力の無さがすべてだ。従者にここまでさせただなんて、主人として恥ずかし過ぎる」


 エールタインも反省をし始める。

 先に反省を始めていたダンは頭の叩きをポリポリとかく手に変えて言った。


「くーっ、なおさら俺は反省せねばならんな。弟子に痛い所を突かれてしまった」

「ダン。剣聖ではあるけどさ、同じ人じゃないか。それにボクの親として来てくれている。ヘルマの言う通り何も悪くないよ」

「待てエール。そこまでにしてくれないか。かえって胸が痛い」


 エールタインとヘルマが笑い出す。

 ダンは二人に歩き始めるよう促した。

 二番地区内へ伸びる道上からアムレットの視線が注がれている三人は、西門から自宅へと向かった。


Szene-02 ダン家


「エール様!」


 待ちかねて玄関前にいたヨハナがエールタインに声を掛ける。


「ヨハナ! ごめんね、ちょっと大変だった」

「その話は落ち着いてからにしましょう。こうして帰られたのですから、それだけで良いのです」


 涙を浮かべてヨハナは言う。

 エールタインが目の前にたどり着くと、ヨハナは力強く抱きしめた。


「良かった……ほんとに良かった」

「ヨハナは暖かいなあ。ヒールの素質があるんじゃない? とっても安心するよ」


 エールタインもヨハナに両腕を回して強めに抱きしめる。


「ありがとう。ヨハナがいてくれるから毎日安心して過ごせるんだ」

「勿体ないお言葉です……ティベルダは無事なのですよね?」

「無事とは言えないかな。今も自分にヒールを使い続けているよ」


 ヘルマの背中でぐっすり寝ているティベルダへ近寄るヘルマ。

 やはり頭部を見て驚き、同時に全身に力が入っていない事にも気づいたようだ。


「一番頑張ったのはあなたのようね、わかるわ。主人のために全力を出した、そうよね?」


 ヨハナはティベルダの頭を撫でる。

 寝顔を見ると涙が溢れだした。

 それを見てヘルマが言う。


「目元が真っ赤よ。その辺にしておかないと明日はひどい顔になってティベルダを驚かせちゃうわ」

「だって……ヘルマもこの気持ち分かるでしょ?」

「もちろん。でも私は泣く前にこんな可愛い子を構うことができているから満足しているの」

「ずるい……私も構いたいわ」


 笑ってヘルマは返した。


「その前にエール様と一緒に休ませてあげないとね。きっとこの子にとっては何よりのご褒美だわ」


 ダンとヨハナはうなずいた。

 エールタインは少し照れているようだ。


「いつも一緒に休んでいるのにご褒美になるのかな」

「ご褒美だからいつも一緒なのでは? この子はそのつもりだと思いますよ」


 ヘルマは家の中へ入りエールタインの部屋を目指す。

 続いて残った三人も家に入った。

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