第四十話 安堵と悔しさ

Szene-01 トゥサイ村、敷地境界亜麻草原横


 エールタインとティベルダ、ルイーサとヒルデガルドの四人。

 朝日に照らされる亜麻草原の横を歩いていた。

 ティベルダはエールタインの背中に頬を乗せてすっかり安心しきっている。


「へえ。ここでは亜麻が豊富だね」


 エールタインがレアルプドルフでは見ることのない亜麻草原を見て言った。

 それにルイーサが答える。


「暗闇では気づかなかったけれど、隣の村にこんな所があったなんてね」


 亜麻は衣類などの生地に使われるため、剣士たちは非常に助かる。

 レアルプドルフに行商人が多く訪れるのは、剣士がお得意様のためだ。

 剣士が材料の調達をすることで町民も良質な物資が手に入る。

 よく売れるから良質なものでも安く手に入るのがレアルプドルフである。


「あは。アムレットが頭に乗った!」

「お二人の場所を見つけてくれたのはアムレットなんですよ」


 ヒルデガルドが二人のもとへたどり着けた理由を伝える。


「そうだったの? アムレットはすごいのね」


 ティベルダは頭の上を見るように目線を上げながら言った。


「森にいる仲間たちから情報を手に入れるんです。足も速いからとても助かっています」

「へえ。私は頭が温かくて助かっています」


 髪の毛は爆発により全て無くなっている。

 その上からアムレットの体温が直に伝わっているようだ。


「アムレットは温かくするつもりで上がったのかもしれませんね」

「それならとても優しい子ね。アムレットありがとう」


 アムレットはティベルダとヒルデガルドの仲も近づけているように見える。

 二人は能力持ち同士であるため、主と同じく特別な存在となるのかもしれない。


Szene-02 レアルプドルフ、西門


 エールタインとティベルダの二人は帰りが遅かった。

 しかしダン家の三人はあえて待つことにしていた。

 ところが未明になっても家に帰って来ないため、探しに行くことになる。


「ダン様ではないですか! このような時間にどちらへ?」


 ダンはヘルマを連れて西門に到着した。

 衛兵に尋ねる。


「うむ。うちのエールタインを探している。何か変わったことは無かったか?」

「変わったこと……昼番が言っていた話ですが、見習いのルイーサが行商人について尋ねてきたとか」


 ヘルマが反応する。


「おそらくエール様と会う約束をされていた方ですね」


 ダンは衛兵に続きを尋ねた。


「何を聞いていた?」

「どうも昼番が気にしていた行商人とルイーサが探していた者が同じだったようで」


 ダンが黙って聞いているため、衛兵は続けた。


「荷車への荷の載せ方に違和感があったことを伝えたそうです。それを聞くと走って門を出ていったとのこと」


 ダンとヘルマは目を合わせた。


「何かに巻き込まれたか」

「動くべきでしたね」

「それは言うな。こうなることも想定して待っていたのだから」


 衛兵に目を戻して問う。


「どこへ向かったか聞いていないか?」

「そこまでは。昼番もその場を離れられないですし」

「わかった。ヘルマ、街道を進むしかなさそうだな」

「行きましょう」


 ダンたちは衛兵に手を上げてから門をくぐった。


Szene-03 東西街道上、レアルプドルフ管轄区域西端


 帰路を歩く四人の見習いデュオはゆっくりと歩いていた。

 エールタインはティベルダを背負ったままだ。


「今回の事でもっと早く強くなりたいと思ったよ」


 真剣な顔でまっすぐ前を向きながら言うエールタイン。


「ティベルダに守られてばかり。こんなの、主じゃないよ」

「私だってヒルデガルドに頼りっぱなし。でもね、主と認めてくれなければ守られないわ」


 ルイーサはエールタインと同じく前を向いたままで言った。


「焦る必要はないわよ。この子達とはこの先ずっと一緒。その関係を続けることの方が大事だと思うの」


 ルイーサの隣を歩くヒルデガルドが勢いよく主へ振り向く。


「ルイーサ様……」

「だめね。ティベルダが見せつけるから余計な事を口走ってしまうわ」


 ヒルデガルドが笑みを浮かべたその時、四人の目には朝日を背に近づく二人の影が見えた。

 エールタインは二人が誰なのかすぐに気づく。


「ダン! ヘルマ!」


 呼ばれた二人はエールタインの前で足を止めた。


「エール、何があった!?」


 ダンは誰もが言うであろう一言を発した。


「賊に拉致されました。ボクが弱いせいであんな連中に勝てなかった……ごめんなさい」


 師匠は弟子の頭に分厚い手を乗せる。


「何を言う。こうしてお前を撫でることができるじゃないか……よく戻って来たな」


 ダンはエールタインの背に乗せられているティベルダへ目をやる。


「ティベルダは大丈夫なのか?」

「この子が新しい能力を覚醒させたからこうして戻れたんだ」


 髪の毛が無く、着ている服が違うことに気づくダン。


「新しい能力……か。詳しくは家で聞こう。君もエールの手助けをしてくれてありがとう」

「いえ。私たちは探すのが精いっぱいで何もできていません」

「それでも探してくれたのだろう? 俺たちがするべきことをしてくれた」


 ダンは頭を軽く下げた。


「感謝する」


 ルイーサは驚き、両手を振って否定した。


「お止めください! 剣聖様に頭を下げさせただなんて処罰ものですから」

「ダン様、見習い剣士を困らせてはいけませんよ。ルイーサ様、エール様とお知り合いになられたばかりなのに、ここまでしていただいてありがとうございます」


 ヘルマも頭を下げる。

 ルイーサは困惑してしまった。


「本当に何もできていないので。ど、どうしたらいいのかしら」

「ちょっと、ルイーサが困っているからもう止めてあげてよ。その辺にしてさ、ティベルダを休ませてくれないかな」


 ダンとヘルマは同時に直り、ティベルダを見る。


「エール様もお疲れでしょう。ここからは私がティベルダを背負います」


 ヘルマはエールタインに自身の背中へティベルダを乗せるよう促した。


「ヘルマ……ティベルダを構いたいんでしょ。顔に出ているよ」

「いえ、エール様が、ね? お疲れのはずですから。こういう事は従者がやるべきことなので」


 エールタインはクスクスと笑いながらティベルダをヘルマに近づけた。


「はいはい。そういうことにしておくよ。ティベルダは可愛いから仕方ないか」


 ティベルダはヘルマの背中へと乗り場を変えられた。


「あら、ぐっすり寝てしまっているのね。本当に可愛い子」

「ヘルマ。本音が漏れているよ」

「え? いえ、そんなことは」


 やりとりを見ていた三人が笑い出す。

 しかしエールタインは軽い笑みを浮かべるが、どこか悔しさをにじませていた。

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