第四十二話 休息と変貌

Szene-01 ダン家、エールタインの部屋


 朝に帰宅したエールタインとティベルダ。

 エールタインはぐっすり寝たままのティベルダに添い寝をする形で横になる。

 一度あくびをするとそのまま眠りについた。

 朝に寝始め、今は昼下がり。

 ようやくエールタインが目を覚ます。


「ふわぁ。朝じゃないのか、変な感じ。ティベルダは……」


 寝る前に見た姿勢と変わっていないティベルダ。

 姿勢は変わっていないが――――


「髪の毛が戻っている!? 何これ……きれい」


 ティベルダの髪の毛は寝ている間に生えたらしく、背中まで伸びていた。

 所々に銀髪が束で混じっている。


「これって、ボクの逆じゃない? 二色とも同じ色だ」


 エールタインは銀髪に藍色が、ティベルダは藍色の髪に銀髪が混じっている。


「もう。君は次から次へと……あんまり主人を驚かせないでよ」


 寝ている従者の髪をなでる。

 時々手櫛にしながら感触を楽しんでもいるようだ。


「やわらかいなあ。生えたばかりだからかな、とってもキレイだ」

「エール様?」


 部屋の外からヨハナの声がする。

 エールタインの呟きが耳に入ったらしい。


「ヨハナ、おはよう。起きたところだよ」

「もう昼も過ぎていますよ。よく眠れましたか?」

「うん。それよりさ、来てよ」


 エールタインはヨハナに部屋へ入るように言った。


「何かありました?」

「見て!」


 撫でているティベルダの髪の毛を軽くつかんでヨハナに見せたエールタイン。

 ヨハナは目を見開いてティベルダのそばへと近寄る。

 床に膝をつくと気持ちよさそうに寝ているティベルダの顔をじっと見る。

 それから髪の毛へと目線を変えた。


「ど、どうしたのですか?」

「寝ている間に生やしたみたい。ボクも起きたときにびっくりしたよ」


 ヨハナは半ば反射的にティベルダの髪の毛へと手を伸ばしていた。


「なんてやわらかいの。それにとてもキレイね」

「ははは。ボクと同じ事言っているよ」

「あら。でもこれはそうとしか言えないわ。寝ている間にということは、余程あの状態をエール様に見せたくなかったのでしょうね」


 エールタインが思い出したことを言う。


「そういえば助けに行った時最初に言っていたことが、髪の毛が無い事で嫌われるのかなだったっけ」

「やっぱり。それで寝ている間に生えたのでしょうね。生やしたのか生えたのかはわかりませんけれど」

「そんなことないって言ったのに。まだ、不安なのかな」


 ヨハナは髪の毛をそっと置き、立ち上がった。


「エール様が好きでしょうがないのでしょうね。安心しているからこそ、関係を壊したくない気持ちが大きいのでしょう」

「ボクが安心させてあげられているのなら、嬉しいな」


Szene-02 ドミニク家


 ルイーサたちは黙って家を飛び出した件について、案の定ひどく叱られた。

 しかし起きたことを全て話すとドミニクは一言、


「休め」


 と言った。

 特に罰もなく、いつまでという制限も無し。

 ルイーサとヒルデガルドは言われた通りに眠ることで休んだ。

 もちろんルイーサがヒルデガルドを抱きしめる形で。

 エールタインたちと同じく、昼下がりまで寝ていた。

 アムレットがヒルデガルドの鼻の頭近くで呼吸をするので目を覚ます。


「アムレット、近いわ。あなたが大きくなったかと思ったじゃない」


 アムレットは立ち上がったまま前足に何かを持っているような仕草を見せる。


「お腹が減ったの? お外へ取りに行ってもいいのに。起こしてくれたのかしら」


 ヒルデガルドは木の実を渡してあげる。


「鞄の中にいくつか入っているのに。私からもらわないと食べないのよね……可愛い子」


 カリカリと木の実をかじるアムレットの尻尾を撫でる。


「あなたを撫でて、ルイーサ様に抱かれている。幸せね」


Szene-03 ダン家


 ヨハナはエールタインの部屋から出て、ダン達のいる暖炉前に移動した。


「エール様が起きていらっしゃいました。あとティベルダなのですが……」


 含んだ言い方をされたダンとヘルマがヨハナへ振り向いた。


「なんだよ、まだ治癒が終わらないのか?」

「回復中ではあるのですが、その、髪の毛が生えていました」


 ヘルマが驚き気味に言う。


「早いわね。朝から今まで寝ていただけで生えるなんて」

「それが背中まである程に長髪なのよ」


 ヘルマはヨハナがティベルダを見た時と同じように目を見開いた。


「……そんなことって」

「たぶんエール様に少しでも良く見てもらおうという気持ちじゃないかって話をしてきたわ」


 片手を頭に当てながらため息混じりにヘルマが言う。


「はあ。どれだけエール様のことを好きなんだか」

「色も藍色に銀髪が混じっているの。エール様に似ているわよね」

「そこまで!?」


 沈黙して二人の話を聞いていたダンも黙ってはいられなくなったようだ。


「やはりティベルダはエールに対する愛情の強さが能力の強さになっているようだな」

「愛情の強さ……」


 ヨハナがどこか納得したような表情をする。

 ダンは何やら決めたようで、埃が立つ勢いで両膝を叩いた。


「明日にでも能力について知っていそうな者の所へ行ってみるか」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る