第二十六話 魔獣討伐Ⅰ
Szene-01 レアルプドルフ、西側山中
魔獣を探し山の中腹にたどり着いたころ、剣士たちは大型魔獣を発見した。
辺りは夜で真っ暗だ。剣士たちの胸元にある証石の光と、魔獣の目だけが光っている。
証石の中には、魔獣の亡骸からできたとされる光石がある。
夜である上に光石が近づいたことで大型の魔獣がすぐに気づき、振り返る。
牙を見せ、真っ赤な目で剣士たちを睨みつけてきた。
大型魔獣の正体はベーア。
普段は四つ足で移動するが、時々後ろ足で立ち上がる。
立ち上がると剣士たちの背丈を優に三倍は越す。
ベーアはよだれを垂らしながら剣士たちの方へと身体を向けた。
「で、でかい……」
一人の剣士が思わずつぶやく。
その声を合図にするかのように、全員が一歩後ろへ引いた。
ダンは、率いている全隊員に届くぎりぎりの声量で指示を出す。
「いいか、いきなり動くと刺激を与える。ただでさえ証石に反応している状態だ。冷静に……くれぐれも冷静にな」
続けて横にいるヘルマへ声を掛ける。
「ヘルマ、大丈夫か?」
「まあ、うれしい。気を使っていただけるなら戦場も悪くないですね」
「ははは。その様子なら安心して預けられるな」
「何をいまさら。どれだけの場数を二人で潜り抜けてきたと思っているんです? 忘れたとは言わせませんよ」
「怖いこわい。魔獣より怖いかもしれんな」
「ふん! ひどい事を言うなら見捨てて帰りますけど」
ヘルマはワザと剣を鞘へ納めて踵を返そうとしてみせる。
「おいおい。こんな時にへそを曲げるなよ。無事に帰ってヨハナと美味い酒でも飲もうや」
「ヨハナと飲みたいのですか? ああそうですか」
「だから……ヘルマと飲みたいから無事に帰ろうと言っている!」
「あはっ! 私の勝ちですね。今回は許します」
「ったく、優しくし過ぎたか?」
「優しくなかったら付いて来ませんでしたよ」
ベーアは一歩、二歩と小隊に近づきだした。
ダン達二人がじゃれ合う時間はこれまでのようだ。
「もう少しお話の時間をくれても良かったのに」
ヘルマは改めて剣を手に持ちながらそんなことを言う。
ベーアへの目線を外さずに戦闘態勢をとっていく。
「いけるか?」
「はい。ダン様は?」
「俺が準備できていない時に聞くわけがないだろ?」
「もお、知っていますっ! 帰ったらヨハナに色々話してあげましょう」
「ああ」
ダンは隊員に確認する。
「みな、準備はいいか?」
全員がベーアへの目線を外さずにそれぞれの形で合図をする。
「仕掛けてきたら最前は後ろへ回り込んでかく乱、二列目は隙を見て攻撃。一撃ずつでいい。そこから先は随時指示を出す。全員で帰るぞ!」
Szene-02 東西街道上、後衛部隊待機場
東西街道上で待機している見習い剣士たち。
話をするには遠い距離を空けて等間隔で配置についている。
何がどうなるのか、先行きのわからない状況でひたすら待機をしていた。
そこへ、森の奥から物音や声がかすかに聞こえてきた。
エールタインが剣を持つ手に力を入れる。
「聞こえたよね」
「ええ、確かに。動き始めたようですね」
「なんとか無事でいて欲しいよ」
「ダン様は剣聖ですよ! ヘルマさんも付いているんです。大丈夫、大丈夫です!」
ティベルダもエールタインに声をかけつつ、自分に言い聞かせるように言う。
「ランタンは火をつけたままにしておきますね。武器になりますから」
「……うん。形はどうでもいい。とにかく生き残ろう」
「当然です! エール様にかまってもらえないと私、魔獣であろうと何であろうと許しませんよ」
エールタインはティベルダの前に剣を持った手を差し出す。
ティベルダは差し出された手の甲に自分の手を乗せた。
「ボクもティベルダと色々話がしたいんだ。またヒールを流し込んでもらいたいしね」
「エール様、私のとりこになり始めていませんか?」
「もしかしたら……そうなのかもね」
「んふふ。エール様ならいくらでも癒して差し上げますよ。私はとっくにエール様のとりこですけど」
Szene-03 レアルプドルフ、西側山中
魔獣が動き出したため、ダンの指示通りにかく乱と細かな攻撃が行われていた。
四方から絶え間なく攻撃されるため、魔獣にイラつきが見え始める。
「傷は付けているが、これは致命傷までが遠いな。反撃に注意しつつ攻撃を絶やすな!」
剣士たちは入れ替わり立ち代わり攻撃を重ねる。
全員余計なことは考えずひたすら続けていた。
「ダン様。みなさんに疲れが見え始めています!」
「わかっている。だがここで攻撃の手を緩めるわけにはいかんのだ」
ダンはいくつか考えてある攻め方の中から何を選ぶべきか悩んでいた。
「大型の魔獣がここまで町に迫ることは珍しい。こちらからねぐらを邪魔しない限り戦うことはない相手だからな」
中型魔獣までは材料としての調達依頼が入るため、狙いに行くことはある。
ただ、大型魔獣については話が別だ。
大型魔獣は邪魔をされない限り人は襲わないと考えられていた。
意図せず魔獣の寝床に踏み込んだ剣士が瞬殺されたことがあり、人は大型魔獣には近づかなくなった。
近づかなくなってからは被害に遭った話を滅多に聞かなくなり、人から動かなければ問題ないというのが定説となる。
それはこれまで人のいる街道や町に近づいたという話が無かったことからもうなずける。
その中で起きた今回の一件。
町民にとっては寝耳に水なのである。
「俺たちの仕掛ける回数を増やそう。ヘルマ、やれるか?」
「ご主人様から命令されれば私はいつでもお供します」
「悪いがその言葉に甘えさせてもらうぞ」
ダン達は率いる剣士たちの負担を軽くするために攻撃に加わる回数を増やすことにした。
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